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アップサイドリスクとしての「実質金利ゼロ」

アップサイドリスクとしての「実質金利ゼロ」
 金融市場は順調に米国におけるトリプル高が進んでいます。ひとえにワクチン期待がなせる業だと思いますが、ワクチンへの期待が過大になることで逆にアップサイドリスクが拡がるという考え方もあるでしょう。それは端的には米金利の行き過ぎた上昇という格好で現れそうです。3月、米10年金利は遂に1.70%を突破しました。これに伴って実質金利も上昇傾向にあり、株を筆頭に資産価格への影響が懸念される状況と言えます。折に触れて、実質金利と資産価格を絡めた解説記事は目立ちます:

2021年の米10年金利の上限は1.50~1.60%と言われていました。しかし、数々の節目を乗り越えて上がってきた結果、目先の目途を失った状態にあります。昨年来、資産価格への影響は米実質10年金利の視点から議論されることが多かったことを踏まえれば、実質金利の具体的な水準をどこに定めるかが次の焦点になる可能性はあるでしょう。

本稿執筆時点で10年物ブレイク・イーブン・インフレ率(10年物BEI)を用いた米国の実質金利は▲0.60%を断続的に割り込み、年初来高値圏で推移しています。ちなみにコロナショック直前の2020年1月、実質金利はちょうどゼロ近傍にありました。10年物BEIを横ばいとすると、名目10年金利があと約60bps上昇するとコロナ以前の状況に回帰することになります。それは2.2~2.3%に相当します。米国の潜在成長率(名目で4%弱、実質で2%弱)に照らせば「妥当な水準」とは言えるものですが、「景気の山」から未だ900万人以上が雇用を喪失しているのに「妥当な水準」の名目金利が今、必要なのかという議論は当然あるでしょう

FRBは2022年中の完全雇用到達を予想していますが、実質金利がコロナショック以前の水準に回帰する条件の下、そのような実体経済の急回復が起きるのかやや疑問が残ります。筆者は「実質金利ゼロ」は2021年の米経済にとってはオーバーシュート、一種のアップサイドリスクだと考えています

4~6月期のインフレ高進を警戒
実際のところ、アップサイドリスクへの懸念は小さくないと思います。4~6月期に名目金利が続伸し、「実質金利ゼロ」を目指す可能性は相応に高いものでしょう
。というのも、コロナショックを受けて原油先物価格がマイナスに転じるという異例の事態に直面したのが昨年2月であり、そこから物価状況は大きく停滞した経緯があります。しかし、昨年4月をボトムとして原油価格は足許までに騰勢を強めています。自ずと今年4~6月期以降はヘッドラインのインフレ率が跳ねやすい時期に入るでしょうし、BEIの騰勢はそれを織り込んでいる部分もあるのでしょう。

もちろん、それはテクニカルな上昇に過ぎないわけですが、FRBは年内にインフレ率(個人消費支出デフレーター)が2%に到達し、そのまま2023年末まで安定推移することを見込んでいます。4~6月期および7~9月期は2%を超えるインフレ率が常態化する中、昨年9月にスタートしたばかりの新たな金融政策戦略「アベレージターゲット」が持て囃され、名目金利も連れて上昇するという展開は十分考えられます。温暖な気候が続く間は感染者数が増えにくく、また増えても重症化しにくいという感染症に対する一般的な理解が成立するならば、尚のこと、そのような展開の確度は高まります。

なお、4~6月期以降はインフレ率だけではなく、様々な経済指標が前年比で改善するでしょう。しかし、小売売上高など物価以外の主要指標は前月比で現状把握されているのでインフレ率ほど相場をけん引する力はないと思われます。敢えて言えば、雇用統計は物価統計と同様に相場の流れを加速させる可能性がありそうです。というのも、経済活動の正常化と共にレイオフされていた就業者が職場復帰してくることが予想されるからです。それは特に宿泊や外食といった業種で顕著に現れるはずです。既に米国における外食状況ははっきりと改善の兆しが見られており、ラグを伴って雇用統計の改善に繋がってくることが予想されます

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そもそもバイデン米大統領が7月4日に日常生活の復活見通しを口にしている以上、雇用・賃金情勢も相応の回復を果たしている必要はあるでしょう。邪推ですが、大統領がそのように述べている以上、FOMC声明文も7月を目途にアフターコロナを示唆する表現に切り替えてくる可能性があります。

集団免疫の獲得後は徐々に経済活動が復活していく(はず)なので、7~9月期以降も緩やかな金利上昇と景気回復が併存するという状況は不変でしょう。しかし、4~6月期がとりわけ機運の高まりやすい時期であることは否めません。期待がオーバーシュートする中、米10年金利が安定的に2%を超え、株価も大崩れしないのであれば、ドル/円相場の主戦場は110~115円に移る可能性もあります。筆者自身、円安・ドル高は年内111円程度までではないのかと思っておりますので、実質金利のオーバーシュートに伴って自身のメインシナリオも動揺する可能性があると警戒心を持って見ていきたいと考えております

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