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中国での芸能人の不祥事への対処は容赦ない。AIのフェイススワップ技術でドラマも動画業界も激変する

中国のSNSや動画を見ても、日本のSNSを見ても、AIの進化がやばいって煽ってくる投稿ばかりが表示されるのですが、これは日本のみなさんもそうですか?

先日、詐欺にも利用されているって紹介をnoteに書いたんですが、たくさん見られました。いろいろ心配になります↓

特に、顔と声を本人そっくりに変えてのなりすまし動画を作る技術の恐ろしさとビジネスに活かすことの可能性について、中国のSNSや議論サービス(Zhihu)でたくさんの意見を目にします。

テレビや映画動画作品の事例も出てきたので紹介しましょう。日本でも困っている方もいる話だと思うので、少しでも参考になればうれしいです。

■中国芸能界事情。出演者のトラブルで公開できなくなるリスクは中国でも深刻

最近、出演俳優の問題で公開直前の映画の上映が難しくなる話が日本でも話題になったかと思います。歌舞伎役者さんに関する事件は中国のネットでも話題になっていて、事件の内容というよりも、その影響や今後が注目されていました。そして、影響があった映画を取り直すことになりそうという進展が、中国のいつもの展開とは異なるということで話題になりました。

ここで、前提知識として中国の芸能界のことを少し解説します(お急ぎ、ご存知の方はスキップください)。

中国では、出演者の不祥事による降板や上映の差し止めは日本よりはるかに多いです。作品数も俳優も多いというのはもちろんあるのですが、犯罪や社会に悪影響のある行動、そして、とにかく違法薬物犯罪に厳しいです(アヘン戦争時代の影響)。

芸能関係の人たちは、高収入で社会的な影響力を持ってます。こうした人たちを対象に、2014年9月に、放送を管理する政府機関であるラジオテレビ総局(日本の総務省的な)から「不徳芸能人を封殺するお知らせ」が出され、ここでは薬物使用と売春が明記されました。

さらに、2021年3月に発表された「ラジオテレビ法(公開草案)」(日本の放送法的な)では、番組の主要参加者・創作者が法律違反で社会的不良影響を起こす場合には関連番組の放送に必要な制限をとる、と明記があります。

また、中国ではドラマや映画の制作は必ずしもテレビ局が主導してるわけではないうえに、作品数がとても多いです。コロナ前のデータだと、2018年は1.5万話のドラマを生産したのに、放送できたのは8000話程度だったとのこと。

昔は放送の枠が決められていて放送しきれない。そしてネット時代になっても、プラットフォームのコスト制限でリリースしきれない。ここ数年はコロナの影響で作品数が減ったとはいえ、せっかく撮ってつくったものだから、投資者も製作者も世の中に出したい気持ちはもちろんあるという状態。

それなのに、今までを見てきても、中国の封殺の事例は容赦ないケースがたくさん。出演した芸能人による悪質な不祥事があれば、放送前だけでなく、放送中や放送後であっても、ネット上での配信であっても、直ちに影響が出ます。

例えば、よく再放送されていた好評ドラマの「还珠格格」や「情深深雨蒙蒙」などは、主演女優の脱税や株価操作などが原因で一気にテレビやネットから消えました。「微微一笑很倾城」などの人気ドラマも、海外で代理出産した子供を認知しないなどの不祥事で社会から批判された女優が出演していたとのことで一気に消えました。かなり過去にも遡ってくる厳しさ。

これを救いたいとの思いはたくさんの人がもっていて、対応されるケースもあります。主演であればほぼ救いようがないですが、シーンの少ない人だったら出演箇所がカットされて作品が生き残ることもよくあります。そして一番厄介なのは重要な脇役が問題を起こす場合で、ここにAIが活用されています。ちょうど最近もその例があって、AIで別の俳優の顔にして、出演者を別の俳優に変更したケースがありました。

ここから、その例を紹介します。

■テレビドラマって今後も人間が演じる必要あるの?

中国に興味ある皆さんは「人民的名义」(れんみんだみんい)というドラマをご存知ですか?

画像:公式ページより

2017年に中国で大ヒットしたドラマ。反腐敗をテーマにしたドラマなんですが、このスーパーヒット作が登場して以降、中国ドラマ界には反腐敗をテーマにしたドラマの大波が次々と押し寄せています。

最近では「狂飙」(かんびゃお)というドラマがこれまたスーパーヒットしました(これについても面白い話がたくさんあるのですが、紹介すると長くなるので、需要があれば別途noteにします、気になる人はハート押してください)。

そんな、腐敗をテーマにしたドラマで、「人民の名義」の続作と言われる「风雨送春归」(ふぇんゆーそんちゅんぐい)というドラマが話題に。数字が良いことも話題なんですが、とある俳優のシーンで顔を変える技術が使われて放送されていることも話題です。

↑問題となった俳優の趙立新さん(画像:百度百科)

「风雨送春归」で1番の悪役が問題をおこし、ラジオテレビ総局の”不徳芸能人”に指定されてしまいました。ただ、原作も製作も素晴らしく、待望のドラマなので、どうしてもお蔵入りにしたくないから、AIによる顔変えが行われ放送されています。

↑顔変のソース(?)となる俳優の于震さん(画像:百度百科)
↑AIによる合成俳優さん(これは著作権どっちになるのか)

ボクも「风雨送春归」を見てみました。たしかにところどころ違和感はあるのですが、全然見れるレベルかと思います。個人的には海外の映画やドラマに中国語声があてられるよりもよっぽどマシかな。

そして、実は顔変換処理によるドラマはこれが初めてのケースではありません。取り上げていた記事によると、「风声」「突围」「光荣时代」「三千鸦杀」「时光与你都很甜」(すいません、全部見たことはないんですけど)などでは俳優の顔交換処理がされているとのこと。

読んだ記事では、2022年には少なくとも11作品がAIによる顔変換処理をしてやっと上映できている、あるいはネットから消えなくて済むことになっているとのことです。

これに対しては、様々な角度からいろいろな意見があります。視聴者の感想、製作のクオリティへのこだわりと妥協、投資側は投資がパーにならなくて良かった、自分の顔で入れ替えていいよとする俳優の気持ち、など。

また、シーンが多ければ多いほど、AIによる顔変換のハードルが上がります。これについてネット民のコメントでは、
「どっちもよく見る俳優であれば、やはりどっちの面影もあって違和感が感じられる」「たいして見たことない俳優であれば問題無い、確実に技術の進歩が感じられる」「無名俳優よりもAIでいいじゃん」
などの意見が。

全体的には「不自然なところが全くないわけでもないですが、やはりいい作品であれば、一人の不祥事で作品が世の中に出せないのは残念だし、他の出演者にも不公平である」との意見が一般的でした。

■今後ますます増えることが予想される、顔変換による演出

ここまで書いてきたように、中国は俳優トラブルが起きたときの処罰が日本より厳しい。ネットに出ている過去の動画もシリーズごと全部消せってのは日本ではあまり聞いたことないですが、あるのですか?

問題を解決する方法としてフェイススワップ技術は盛んに話題にのぼっていましたし、活用されている事例がすでにたくさんあって、ここ最近のAI顔スワップの威力が社会的に大きな話題になっていることで議論が盛り上がっています。

风雨送春归はコスト削減のためなのか、もはや予算がなかったのか、それともAI技術が好きな制作者がいたためか定かではないですが、ほぼ全部AIスワップでクオリティはそこそこ。ある程度手動による作業が加われば相当クオリティが高くなるとも言われています。実際、冒頭で紹介したnoteのような、詐欺やライブ動画で使われる顔スワップでさえ、かなりのクオリティを実現することがすでに可能。顔スワップなのかわからないレベルに近づくのは時間の問題って気もします。

↑つい先日Weiboでバズっていた、おっさんがいろんな芸能人の顔にスワップしてる動画。いろいろ恐ろしくて話題ですごく再生されてます。

また、専門家の意見も記事で取り上げられていました。訳は以下のとおり

ドラマにおける顔面移植の効果をより高めるためには、やはり技術的な面と美的な面の両方からの取り組みが必要である。 以前放送された『栄光荣时代』では、俳優の黄之忠はすべてのシーンを撮り直したが、全体的な演技は破綻していなかった。 また、テレビシリーズ「买定离手我爱你」では、顔の入れ替えが行われ、後継者の俳優ヤン・シゼは顔の形や特徴が前任者に似ており、視聴者に注意されないと見抜くのは難しい。
顔を変えるための技術にかかる費用も違うし、最終的な仕上がりも大きく違う。 現在、中国ドラマの顔交換のコストは、AI顔交換技術で1分あたり15,000元程度と予測されているのに対し、手動顔交換の価格は1分あたり10万元以上。10倍近い価格差は技術コストに大きな差をもたらし、プロデューサーがどれだけの予算をかけるかで、最終的に映像の表現が決まる。 もし、映画やテレビ番組が、放送に再適格となる代わりに再撮影を希望するのであれば、映像の基本要件や底力はやはり維持されるべきで、資本に急いで戻す映画やテレビの商品ではなく、視聴者が見るに値する作品になるようにしたい。

いろんな考え方があると思いますが、技術を活用することを考えるのは良いことかなと。中国の事例や使われ方が少しでも参考になれば幸いです。

今後も中国で話題の話、メディアではあまり書かない中国のことをnoteで取り上げていきます。ぜひフォローしてお待ち下さい!

(参考資料)


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