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アップリンク代表・浅井隆氏によるパワーハラスメントに感じた、パラレルキャリアの重要性。

この数ヶ月、全国のミニシアターを支えるための基金『ミニシアター・エイド基金』の立ち上げを皮切りに、ブックストア・エイド基金、小劇場・エイド基金と続き、皆様の支援のおかげで、それぞれ大きな成果を挙げることができました。

3つの基金もクラウドファンディングが終了し、ひとまず、第一波における文化への悪影響を『MOTION GALLERY』で最大限小さくすることが出来たのではないかと思っていた矢先の出来事でした。

昨日6月16日に、映画配給会社・アップリンクおよび関連会社の元従業員5人が、同社の浅井隆代表からパワーハラスメントを受けたとして、損害賠償を求める訴訟を起こした。
声明文では「これらの行為は『世界を均質化する力に抗う』というアップリンクが掲げるポリシーとは著しく乖離するものです」と指摘。「私たちはこのポリシーに共感し、アップリンクに入社しました。しかし期待は裏切られ、個人の尊厳が深く傷つけられてきました」と痛切な想いが綴られている。

一昨日のこの訴訟およびその記者会見のニュースが出てから、
多くのメディアで即記事になり、そして今朝のワイドショー番組でも取り上げられるなど大きな話題となっています。

まず、私の基本的なスタンスとしては、当事者ではない自分がこのような話題に対しては意見などは述べない様にしています。当然ながら有ってはならない事案であり、社会的にも非難されるべき問題ではあると考えてはいますが、プライベートな領域で起こるDVなどにある種近い境界線の問題をはらんでおり、求められていない第三者が介入すべきではないと考えているからです。そして、当人同士にしかわからない事も多く、法廷という場所でフェアに議論された結論を以て論じるべきかなと思うからでもあります。

 その上で、なんでこんなエントリーを書いているのかというと、ミニシアター・エイド基金の発起人および事務局の1人として、ミニシアターに関わった人間としての何らかの表明が求められていると感じたからです。

ミニシアター・エイド基金としての見解

まずは、ミニシアター・エイド基金の見解を、昨日の17日正午に公表させて頂きましたので、ご確認ください。

アップリンク・浅井隆氏によるパワハラ問題について
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid/updates/29773

 日頃お世話になっています。ミニシアター・エイド基金運営事務局です。

 昨日から各種報道で出ています通り、有限会社アップリンク代表の浅井隆氏及び有限会社アップリンクなどに対し元従業員を中心としたグループより、パワーハラスメント等の諸問題に対し提訴が行われました。原告の方々からの訴えは、以下のサイトから確認できます。

https://uwvah2020.wixsite.com/mysite?fbclid=IwAR3aMpdaRRTqyEEueK56Vlh1Al6QI4gLuoEoSxCpipzXNnQTIwbO1LsHBjc

また、既に浅井隆氏から、簡潔ではありますが以下のような謝罪コメントも出ております
(詳細なコメントは現在用意されているようです)。

https://uplink.co.jp/news/2020/53508?fbclid=IwAR0HEhqxxfG1EZT-YAo4muDU0Nz8Y7k5mmSpxQdmN-2kRko-hWz44ksHwSw

このことから、パワハラ自体は否定されざる事実である、と私どもは認識しております。ハラスメントはいかなる理由があっても許容されるものではありません。浅井隆氏には謝罪文にある通り、「深く反省」し、「誠意をもって対応」していただきたいと考えます。

 アップリンクは、ミニシアター・エイド基金の支援を受ける参加団体のひとつであり、3万人に及ぶコレクターからの支援金の一部が分配されることから、すでにいくつかの問い合わせも頂いているため、今後の私ども運営事務局の対応について報告いたします。

 まず、今回ミニシアター・エイド基金が行ったクラウドファンディングは、コロナ禍という未曾有の災害に対する緊急支援としての意味合いの強いもので、そのため私たちは少しでも多くのミニシアターに支援が行き渡るよう、審査の基準をできるだけ簡素にしました。各映画館、経営者それぞれの性質や人格については不問としております。

 なぜなら、こういった支援策はいわば災害時の生存をかけた「緊急避難所」であって、避難所である以上、入り口での選別は原則的に行うべきではなく、その方針は堅持すべきと考えています。

 以上の理由から、すでに各劇場と交わしている同意事項に沿って、当初のスケジュール通りに支援金の分配は履行いたしますこと、そのなかにはアップリンクも含まれることをご理解のほどお願い申し上げます(5月末にすでに支援金の一部の支払いは済んでおり、6月下旬に残額の支払い予定です)。

 今回、浅井隆氏が告発を受けているその種々の内容の正否については、当事者同士の話し合いに委ねざるをえませんが、ミニシアターへの支援を広く世間に対し呼びかけ続けた今だからこそ、私たち映画業界に生きる人間は自分ごととして重く受け止めなくてはなりません。ことはアップリンク、ミニシアターだけの問題だけではなく、映画業界全般の信頼と労働意識が今問われているのだと思います。

 改めて、決して被害を訴えた側が不利益を被ることがないよう、また今現在もアップリンクで働く社員の労働環境が守られるよう、浅井隆氏には真摯に被害者の言葉に耳を傾けることを私たちは強く望みます。

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「ミニシアター・エイド基金」運営事務局
(大高健志・岡本英之・高田聡・濱口竜介・深田晃司)
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各地のミニシアターを閉館の危機から守るためにクラウドファンディングを行い、
ミニシアターを愛する皆様から大きな応援を頂き、その名代として対象ミニシアターにそのお金の分配業務を行っている我々ミニシアター・エイド基金の見解となります。

ハラスメントで考えるべきは文脈

 原告側のハラスメント被害の訴えの内容なども読み、個人的にも色々と考えさせられることが多かったです。内容としては明らかなるハラスメントではありつつも、ドキッとする内容もありました。例えば「猫カフェ」ハラスメントの事例。

猫カフェに一緒に行くことを求められ、「それを断ることで、仕事の中で私の立場が不利になってしまうのではという危惧から、断れなかった」

これ、一瞬思った事としては、自分が会社のメンバーに対して、例えば打ち合わせ帰りとかに「飲みにいこう!」とか誘ったりして、嫌々だけど付き合わせてたりしなくもないし、全然自分もあり得るんではないかと思いヒヤッとしました。
(冷静に考えたら、みんな普通に「いや、行きたくないです」って断ってくれるのがMOTIONGALLERYのメンバーだけど(笑))

そういう興味もあって、他山の石とすべく記者会見の動画をみたところ、なんかそんなある種の微妙なニュアンスが孕んだ難しいハラスメントの話ではなく、猫カフェに付き合わされる前からの一連の流れなどを総合的に聞くと明確なるハラスメント(人権侵害)だなと感じる内容でした。と同時に、殴ったとかの様にどんな文脈があろうと明確な犯罪行為があれば白黒つくものの、ハラスメントとされる人権侵害の難しさはそれ単体の言葉だけでは明確な犯罪や加害と言い切れないがゆえ、前後の文脈を詳しく説明しないとそれを問題と感じるかは人それぞれみたいな話になってしまうところだなと改めて実感しました。悲しい事ですがいまだに「愛のムチ」であるとか、そういう厳しいやりとりが飛び交わないと成長しないとかいう言説が残存している理由もそれなんじゃないかと思います。

パラレルキャリアという処方箋

そのような、成長のためにはパワハラ上等論に出くわすと、もれなく自分のファーストキャリアを思い出します・・・。

今はどうだか知らないですが、リーマンショック前のまだバリバリだった頃の外資系戦略コンサルの職場は、それはもうバリバリでした。朝9時出社〜朝5時退社が珍しくもなく、19時くらいになると「やっと半日終わったな」とか思っていたことを今でも鮮明に覚えています。且つ、仕事のスピードとクオリティーへの要求水準がめちゃくちゃ高い上に、マネジメントもガッチリなので、新卒1年目の自分なんて毎日ボコボコにされていました。ものすごい大量のデータをアクセスやエクセルで組み上げまくって分析を回したりするわけですが、上司がレビューでちょっと数値などに違和感持つと、その大量のエクセルの中でものすごい嗅覚で勘所を押さえ、例えばそれがIF関数を10個くらい組み合わせて作っているような関数処理だったとしても、即座にそこの非効率をみつけだして、こういう関数にしたほうがもっと効率的なんではないかとか指摘されるんですが、その指摘にはもれなく「なんでこんな非効率を見逃していたのか」という詰問を10回くらい問い詰められる時間が付いてきました。なんで?を10回も問い質されると、もう最後は「自分がバカだからです」以外になんの回答も出てこない・・・。今冷静に考えると、パワハラじゃね?と思います。
(もちろん、全員が全員そういうマネジメントをする人だったわけではありません。ものすごくフラットにフェアに導いて頂いた上司もいました。)

でも難しいなと感じるのは、怒られる理由が自分の実力不足であることは間違いないし、でっかい経営戦略とかを考える仕事のなかで関数1つの組み方にこだわる凄みを実感したことで大きく自分を成長させプロフェッショナリズムを叩き込んでくれたのは間違いないという事実。。。もしもゆるふわマネジメントをされていれば、雑で浅い考えで仕事する癖は治らなかったと思います。

そう考え出すと、またもやハラスメントの線引の迷宮に入り込んでしまうわけですが、逆に自分がそれでも何故全く被害者意識的なものが無いかと考えてみると2つの大きな要因に気づきました。

自由意志で参加している
戦コンという戦闘民族しか居ない&入社前から戦闘民族でないとやっていけないという特殊状況である事が予め示されていて、それに同意して自分の意志で入社した上に、実際に入社してみても事前に伝えられていたことに何も嘘がない。そういう意味でフェアである

自由意志で退出できる
会社にしがみつかなくてはいけない状態ではなく、自由に退職できる状況である。正確には、外資あるあるですが、いつクビになるかわからなくて望む望まずに関わらずすぐにでも追い出されかねない状況下で働いていたわけで、自然と辞めたあとのことを考えざるを得ないわけではありますが、一方でそこで働いていたことが一定のキャリアパスになる仕事でもあったことで、”踏み台”として入社している人もすくなくなく、入れ替わりも激しく退職への悲壮感みたいなのも会社全体的になかった気がします。つまり、その職場環境が嫌なら辞められる選択肢を提供されていたとも言えます。

結論は、この2点が揃っていた職場だったからだと思います。やはりフェアだし全体的にはいいバランスの会社だったのではと思うわけです。
パワハラで著しく働くものを傷つけてしまう組織には、①と②の両方が無い組織かもしれない。自由意志で参加したはずだったのに、聞いていた話と実態が違いすぎて入社を決めた前提条件と違いすぎる。そして、やめようと思っても転職活動の時間やお金も奪われていたり、キャリアパスになりづらくてそこで働きづつけるのが最適解になってしまう。といった感じではないでしょうか。

そんな風に、自由意志が働かないで固定化/膠着化した人間関係が続くと、微妙なハラスメントを加害側も被害側もスルーしていくようになり、それが積み重なっていき、いつのまにか明確な人権侵害が常態化していくのではないかと思う。今回の浅井隆氏のパワハラ問題もこのような構造があったのではないかと考えます。

かの丸山眞男が戦後民主主義の担い手として期待したのは「自発的結社」だったわけですが、この「自発的結社」の必要条件こそ、実は①自由意志での参加と②自由意志での退出が可能なコミュニティーであることなわけです。殆どの人が所属せざるを得ない数少ないコミュニティーが「職場」であることを考えると、①と②を備えた職場が増えることは、パワハラやセクハラを減らすだけでなく、民主主義にも貢献するといえるでしょう。目指すべき社会の形だと私は思います。

とはいえ、①と②の両方を備えた職場を増やすのは難しいという現実的な問題もあります。その両立を企業努力に求めてしまっては、結局高給を出せるプロフィッタブルな会社だけが実現でき、収益性だけが活動の主目的ではないような文化に携わる業種ではどうしても業界構造的に利益が薄いが故に①と②が実現できずまたパワハラ問題が起こるかもしれません。

では、今回の事案から学び、文化に携わる業種で、構造的に再発を防ぐソリューションはあるのだろうか。そこで私が考えるソリューションは『パラレルキャリア』の標準化です。

パラレルキャリアを企業が認め、また個人も積極的にそれに対応していくことで、
・企業側のコスト負担が減り余裕が生まれることで、フェアでオープンな採用活動にも繋がりやすい(①を実現しやすくなる)
・個人側は、キャリアが文字通り複数同時並行で築いていくことになるので、コミュニティーの退出の自由度を自分自身で高めることができる(②を実現しやすくなる)

という形で①と②の両立が、自律的に確立できるようになるのではないかと感じています。更には、個人側が1つのコミュニティーだけに属すことでそのコミュニティーのルールを内在化してしまうようなことも、コミュニティーを掛け持ちすることで価値観が相対化され、防げるでしょう。それによって、まだ微妙なハラスメントの種の時点でも、自信をもって拒否・拒絶でき、積み重ねていくことを防げるかもしれませんし、それでも修正が効かない組織であれば、とっとと退出できるようになるのではないでしょうか。ハラスメントが続く企業からは人がどんどん退出していき、営業ができなくなる。そんな実効性ももちうると思います。

幸いなことに、アフターコロナで起こる変化として、パラレルキャリアの浸透が挙げられて来ているという記事も目にしました。

これに連動し、マネジメントや評価方法も様変わりしていきます。デジタルベース時代の組織は間違いなくフラット化し、給与は役職ではなく専門性と成果を評価軸として決定されると考えます。キャリア形成も垂直方向ではなく、パラレルキャリアが主流になるでしょう。

コロナ禍によって、様々なものや価値観が大きく変わりました。
同時に、パブル世代とミレニアム世代の価値観の違いも浮き彫りになることも増えた気がしています。アフターコロナの世界における職場環境の変化によって、パラレルキャリアが増え、「自発的結社」の形成がされやすくなり、ハラスメントの少ない、そしてより一層の民主主義的な社会になって行ければ嬉しいなと思います。

自分も含めて、クリエイティブ業界を中心に、パラレルキャリアの実践をこれから考えていきたいなあと、今回のパワハラ問題を端緒に考えるようになりました。そいう活動、なにか動いていきたいです。この論に興味がある人がいたら是非お話しましょう。

最後に、
今回、損害賠償を求める訴訟を起こした原告の方々に敬意を表します。自分が所属していたコミュニティーやそのリーダーを訴えるのはとてつもない労力や葛藤があったと思いますし、今回は各地のミニシアターの困窮が発生している状況で、それを支えようとするムーブメントに水を指してしまい、ミニシアター全体への悪影響が及んでしまうのではないかなど色々と考えておられた旨を、記者会見でもおっしゃってました。そんな状況下でも、論点がずれないように整理した上で、訴えるべきと考える声を挙げてらした姿に、強い共感を覚えました。

この提訴に対して、当日アップリンク側から発信された声明では、「深く反省」し「誠意をもって対応」するとことでした。アップリンクでの映画体験を愛している人はたくさんいると思います。そんなファンの方々が何のわだかまりもなく、またアップリンクで映画を見れる日がまた早くくることを待っています。

頂いたサポートは、積み立てた上で「これは社会をより面白い場所にしそう!」と感じたプロジェクトに理由付きでクラウドファンディングさせて頂くつもりです!