きれいごとでは済まない話ー石炭火力100基休廃止ー
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きれいごとでは済まない話ー石炭火力100基休廃止ー

読売新聞が朝刊一面で報じて、その後メディアが一気に追随して報じた本件。特に新しいことを打ち上げたという訳ではなく、もともと2018年に策定されたエネルギー基本計画や長期エネルギー需給見通しに書かれたことの実効性を持たせようとしているものと受け止めています。

わが国は電力システム改革を進めてきて、発電事業も自由化されていますが、一方で低炭素化は大きな流れであり社会の要請です。政府として示した長期ビジョンの実現に向けて取り組む姿勢を示すものでしょう。ただ、この問題を「きれいごと」として語るのではなく、いくつか必要な視点を書きたいと思います。

まず一つ目は電気代の問題。当面、廃止される石炭火力の代替をするのは天然ガス火力発電が主力になると思いますが、そうなると石炭よりは高い燃料を使うことになります。コロナでこれだけ経済が痛み、2020年代前半、少なくとも数年単位で深刻な状態を引きずるとすると、電力コストが上がるリスクに家庭や産業がどれだけ耐えられるかを問う必要があります。しかも、いま石油や天然ガスは価格が下落して新規投資が行われなくなっています。2025年頃には、世界経済全体が復興してきて天然ガスの需要も伸びてくるでしょうが、いま新規投資が行われていないので供給は過少になる可能性があります。そうなると天然ガス価格が高騰しないとも限りません。天然ガス依存度を数年かけて高めてしまった後にその状態になれば、日本のエネルギーコストは大打撃です。

もう一つは安定供給の観点です。本当に発電所の効率だけでデジタルに廃止を進めてしまえば、いざなにか災害や大規模な設備故障が起きたときに国民生活に大打撃を与えかねません。例えば北海道では泊原子力発電所が長期停止しており、この状態のまま苫東厚真火力発電所を廃止するということになればリスクが相当高まることになります。そうした事態を避けるためには、普段はあまり稼働させないものの設備としては維持するという発電所もある程度必要になってくるでしょう。ただ、普段あまり稼働させてもらえないような発電所を維持したいという事業者はいませんし、自由化市場ですから退出の自由は当然事業者にあります。もし、一定程度の発電所は地域の安定供給等の観点から維持したいということになれば、例えばドイツなどで行ったように、「その発電設備を維持することに対して政府が対価を払う(専門用語ですが、戦略的リザーブと言います)」といったことも検討が必要でしょう。国民からすれば発電していないのに対価を払うというのは意味が分かりづらいと思いますが、「安定供給上の保険料」のようなものです。こういう「保険料」も私たちはどこまで支払えますか、という議論をせねばなりません。

あとは地域への影響ですね。地域の電力供給という視点とはまた別に、発電所が立地する自治体にとっては雇用や税収が大きな影響を受けます。サイトごと廃止というようなことになる場合には特に、自治体の経済に与える影響は甚大ですので、そうした点も考慮する必要があります。

最後に、温暖化対策として、取り合えず石炭をこれだけ廃止するというのは諸外国へのメッセージ(諸外国に評価されるためにやるというのも格好悪い話だなと私は思いますけどね。やらねばならないことだからやる、と言った方が潔い)にはなると思いますが、ただ、天然ガスで代替しても石炭から比べれば少ないというだけで、ゼロになる訳ではありません。既に天然ガスに対する投資も微妙になってきており、今後さらに削減を進めるというのであれば、再エネの更なる拡大をどう進めるか、あるいは、原子力の利用を進めるといった「きれいごとでは済まない議論」に真正面から取り組む必要があります。

なお、この記事の冒頭に書いてある、「~再生可能エネルギーの普及につなげる」というのは書いた方の気持ちでは?この件が再エネの普及につながることになるかと言うの希望的観測で、再エネを普及させるには地域環境と調和するような責任ある事業者に投資を促していく仕組みづくりを含めてもっと地道にやらなければならないことが多々あります。他がコケればこっちがうまくいくなんて言う甘いものではありません。

#COMEMO #NIKKEI

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温暖化・エネルギー政策の研究をしています。現実的な移行とサステナブルな未来を考えています。 国際環境経済研究所理事・主席研究員/筑波大学・関西大学客員教授/U3InnovationsLLC共同創業者・代表取締役。