ブランドが捉えるべき“お金を使う意味“の変化
KOL(キーオピニオンリーダー)として参加させてもらっている日経COMEMOで「 #そのお金どう使いますか 」というテーマの投稿募集企画が行われています。
「お客さんがお金を使う=“何か”に価値を感じて対価を払う」の構図において“何に価値を感じて払うか”は全てのブランドにおいて考え続ける永遠のテーマです。その“何”を考え、理解し、対価に見合う価値を提供する努力をし続けていくこと重要です。
時代と共に少しずつ変わるお金の使い方の変化のグラデーションを常に見ていることは大切です。そこにブランド運営側が捉えるべき消費の未来ががある気がします。
問題提起:1枚1000円の板チョコは高いのか?
Minimalの板チョコレートは、1枚1000〜1500円くらいします。まだ、ミニマルを立ち上げてから1年も経たない頃、チョコレートを毎週2、3枚買いに来てくれるお客様がいました。30歳前後の女性で、仲良くなって話をするようになると、丸の内に勤務している普通のOLさんだとわかりました。
正直に言うと、購入頻度と金額からてっきりお金持ちの方なのかなと思っていたのですが、事務職OL収入だけで生活をしているとのことでした。さらには実家に仕送りしているとの事でしきりに「節約生活なんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。
購入頻度も考えると「1枚1000円の板チョコは高いと感じているのでは?」と思って、ご本人に聞いてみたことがありました。
そのとき彼女が言ったのは「私にとってミニマルのチョコレートはコスパがい良いんです」と。これは僕にとって大きな気づきになりました。
例えば、丸の内でランチを食べれば1回で1000円程度はかかってしまいます。それを自分でお弁当を作るようにすれば、また週末にはミニマルでチョコレートが買える。「次は何を買おうかな?」とワクワクしたり、仕事中に食べるミニマルのチョコレートで気分が上がったりすれば、また頑張ろうと思える。そう考えるとコスパがいい
と、彼女は言っていました。
当時の僕は心のどこかで、コンビニに売っている1枚100円の板チョコの10〜15倍の価格の自分たちのチョコレートの価値を、お客さま様が感じてくれているのか……不安だったのかもしれません。
最近の自分自身の消費行動を考えてみると、僕もこのお客様とまったく同じで、自分を「豊かにしてくれるもの・楽しませてくれるもの」=「自分の好きなもの」は、あまり値段を気にせずに購入していると思います。
正確に言うと、値段を気にしていないのではなく、値段以外の尺度が判断に影響を与えているだと思います。
前提:値段が高い安い以外の価値基準が買い物に影響を与える時代
僕自身が最近買って一番良かったと思っているものに、「真空グロウラー」があります。
グロウラーはクラフトビールを樽生から直接入れてもらって買える、水筒のような入れ物のことです。美味しいクラフトビールの店が、コロナの影響もあって量り売りをしてくれるようになったので、休日に買いに行っては家で楽しむようになりました。
もちろん、僕は缶ビールも大好きで飲みますが、グロウラーを使ってレストランや専門店に行かなければ飲めないクラフトビールを家で楽しめることには、缶ビールとは別の価値を感じています。
それからもう1つ、最近よく買っているものの1つに、紙の本があります。以前から本はよく読むほうでしたが、移動のことを考えて電子書籍が中心でした。ところが最近は、紙の本をよく買うようになりました。しかもできる限り書店にいって、偶発的な本との出会いを求めている事があります。それはコロナの影響で情報交換や知的交流が抑圧されて、「発見への欲求」が高くなっているからかもしれません。
コロナ以前の社会では、リアルでの移動や交流の中に、偶発的な発見があふれていました。それがコロナによって一人でいる時間が増えて、ある程度行動に制限があったため、より刺激のあるもの、自分の時間を豊かにしてくれるものをほしがるようになったのだと思います。
冒頭で紹介したお客様が、1000円のチョコレートをコスパがいいと感じたり、僕が缶ビールではなくわざわざクラフトビールを買ったり、紙の本を購入したりするのは、単純に「値段が高いか安いか」では比較することができない価値を感じているからです。
つまり、他のものと比較して高いか安いかで判断するのではなく、「自分にとって」その値段の価値があるかどうかで判断しているということです。
変化①「相対的な価値」よりも「絶対的な価値」
コロナの影響で消費行動が具体的にどう変わったのかを調べた、野村総合研究所のこのような調査結果が公開されています。
自分のおうち時間を贅沢に過ごすための消費が増えて、満足度も上がったということがデータからわかります。
さらに今年の4月、Googleがスマホ世代の消費行動に「パルス消費」という名前を付けて話題になりました。スマホの操作中に見つけた商品を瞬間的に欲しくなり購入まで終わらせてしまう消費行動のことを指しています。
パルス消費のような消費行動が起こるようになった理由は2つあります。
1つは、スマホによって24時間いつでもどこでも情報に触れられるようになったこと。もう1つは「価格を比べて買う」「他人の評判を聞いて買う」よりも自分の「好き」という直感的な消費をする人が増えたこと。
つまり、情報へのアクセシビリティが高まって情報の非対称性がなくなっていく中で、他人によって外発的に置かれた軸(価格や評判など)から、内発的な軸(自分の好きなど)による消費に、変化してきたということです。
これまでの外発的動機による消費行動が、内発的動機による消費行動に変化してきている。これがまさに、冒頭で紹介した僕のお客様や僕自身の消費行動であり、ものの価値を「相対的な価値」で判断するのではなく、自分の中にある「絶対的な価値」で判断する人が増えてきているということではないかと思います。
特にコモディティ商品とは違う領域でブランドを運営するという観点で捉えたときには、値段などの論理的に判断できる部分以外に、よりその人に直感的な感覚に訴える魅力要素を押さえておくことは外せない観点となりつつあると思います。
変化①の例:クラウドファンディング
コロナの影響で利用者が拡大しているクラウドファンディングにも、僕はこれらの消費行動の変化と同じようなものを感じています。
僕も1年前の夏にクラウドファンディングに挑戦しましたが、そのときにやったことは「とにかく思いを伝えること」です。
クラウドファンディングに支援する人は、お金を払った時点でその商品がどれだけ素晴らしいものなのかわからないことが多いと思います。商品はまだ世の中に出ていませんから、他と比べることもできません。
クラウドファンディングに支援する人は、プロジェクトを立ち上げた個人や企業の「思い」に共感して支援をしていて、極端なことを言うと「リターンはどうでもいい」という人も少なくありません。
では、お金は具体的に何に対して支払われているのかというと、そこから得られる共感をベースにした「高揚感」や「納得感」、そしてその支援・応援するという行為で「そのストーリーに参加する事」ではないかと僕は思っています。
先ほど、コロナの影響で「発見への欲求が高くなった」と書きましたが、自分が発見していくというプロセスにこそ価値があると考えて、お金を使っている人が増えているのだと思います。プロセスを含む発見や共感から得られた高揚感や納得感に「絶対的な価値」を感じて消費する、ということです。
変化②「固い重い」よりも「カジュアルさ」
上記のクラウドファンディングがここまで広がっている理由には、もう1つの消費行動の変化が関係していると、僕は見ています。
それは「消費に対するカジュアルさ」です。
欧米など比べて日本には、寄付やチャリティーの文化がまだまだ根付いていないように思います。日本人の寄付額は少なく、諸外国に比べて寄付しないようです。
この一因として、寄付を「義務・誠実・正義」などの固く重いイメージで受け止めている人が多いからではないかと思っています。
クラウドファンディングがここまで広がったのは、その固く重いイメージをライトにカジャアルにしたからではないでしょうか。
「おしゃれで・ポップで・カジュアル」なイメージによって、ある意味で軽い気持ちで支援ができるツールになっていると思います。
パルス消費が起こる背景にあるような、インターネットやモバイルが進んでいく時代において、「カジュアルに」ということは非常に重要なキーワードになっていると思います。
ミレニアム世代やZ世代のようなデジタルネイティブは、簡単に情報に触れることができて、1つ1つの情報に対していい意味でカジュアルです。
これもいいし、あれもいいし、それもいい。
非常にカジュアルに「いいね!」を押すように、情報に触れています。
クラウドファンディングにも、気軽に触れて、気軽に応援して、気軽に支援する。ある種の消費行動に対する敷居が、とても低くてカジュアルです。
これからの消費行動の変化の方向性の1つが、この敷居の低さを作る「カジュアルさ」ではないでしょうか。
変化②の例:D2Cブランドの台頭「エバーレーン」「オールバーズ」
2011年に誕生したサンフランシスコ発のアパレルD2Cブランド「エバーレーン(EVERLANE)」は、“徹底した透明性(Radical Transparency)”を理念に掲げている。プロセスが不透明であったアパレルの製造のおいて、各商品の材料費から人件費、出荷コストに至るまでの製造原価も分かりやすく開示されている。
2016年に同サンフランシスコに誕生したシューズD2Cブランドの「オールバーズ(ALLBIRDS)」。2020年4月から全製品にカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)を表示し、“カーボンニュートラルを目指す”と宣言。「カーボンフットプリントを抑えながら、自然由来の原料を用いたモノ作り」を推進している。
上記の2社は世界のD2Cブランドの中でも成功事例として多く取り上げられています。2社共にエシカルやサステナビリティを理念に掲げてもの作りをしており、そんな2社のブランドを支持しているのが多くのミレニアム世代、Z世代のデジタルネイティブ達です。
デジタルネイティブ達にとって、「エシカル」「サステナビリティ」という要素も買うための判断軸になっています。
彼らにとってはその部分に共感して買った服を着たり、シューズを履いたりする事自体がCoolであり、おしゃれなのだと思います。
彼らにとってエシカルやサステナビリティは真剣に考えるべき未来であり、それを自分の日常の消費行動で「カジュアル」に表明出来る事がCoolであり、おしゃれであるのです。
情報の非対称性が無くなっていく時代において、固く重い要素をいかに「カジュアルで、魅せる」かは捉えておくべき文脈なのです。
これからのブランドがやらなければならないこと
ここまで書いてきた、「絶対的な価値への消費」や「カジュアルな消費」といった消費行動の変化は、あくまでも変化の一端についての話で、全体的にはまだまだ今までと同じ消費行動を続ける人もいるはずです。むしろ、そちらのほうが多数派かもしれません。
しかし、消費行動が少しずつ変わっていることは確実ですから、今は少数派の「変化の部分」=「トレンド」をしっかりと見ていくことは大切だと思います。コロナによって時代が加速し、「長期的に消費をどう捉えるか?」を見ていないことは危険だと感じたブランドは多かったはずです。
そして、「自分の好き」に対する「絶対的な価値」に消費の重きをおいていく流れが確実にある中で、ブランドがやらなければならないことは、大前提として相対的にも価値があるものとして選んでもらえる品質のものを作ることです。その上で、高揚感や納得感を感じて共感し、重すぎずカジュアルに消費してもらえるおしゃれさがあること。
Minimalも、そのことをずっと考え続け、話し合い続けて、長く愛されるブランドになっていきたいと思います。
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