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スタートアップバブルの実態と事業失敗の共通法則

 日本ではこれまでに、大きく3度のネットバブルが起きている。第1次は1998~2000年頃にかけて、インターネット企業が株式上場するまでのプロセスが初めて構築された、ドットコムバブルと騒がれた時期である。第2次は「Web2.0」のキーワードを足掛かりにIT企業への出資が加速した2005~2006年頃だが、ライブドア事件を発端にバブルは崩壊した。そして、第3次といえるのが、シェアリングエコノミーやAI・IoTなどのテクノロジーをテーマにしたスタートアップ企業が増えている2016年頃から現在にかけてのことである。

現在のスタートアップ市場が、バブルがあるか否かは、何年か先にわかることだが、投資が加熱している状況は統計からも読み取れる。ジャパンベンチャーリサーチの調査によると、国内スタートアップ企業(未上場)の資金調達額は、2013年頃までは年間800億円前後で推移していたが、その後の資金流入は加速して、2018年には3,848億円にまで拡大している。

これらの資金は、好調な株式市場から還流される形で、次のリターンを期待して出資されているもので、相場が軟調になれば、継続的に得られるとは限らない。 その間に事業を軌道に乗せられないスタートアップは、やがて運転資金が枯渇することになる。

ベンチャー投資が活発な米国でも、投資家からの出資を受けたスタートアップ企業の生存率は決して高くない。投資家向けの情報提供を行う「CB Insights」が、2008~2010年にかけて、シード段階の資金を調達して創業したスタートアップ企業1,100社を調査したところでは、IPO(株式上場)またはM&A(事業売却)に成功したのは全体の3割に過ぎず、残り7割の企業は、追加の資金調達ができずに、倒産または廃業同然の状態に陥っている。しかも、生存企業の中で、Uber、Airbnb、Slackなどのようなユニーコーン企業(未上場の段階で評価額10億ドル以上)にまで育つ確率は1%に過ぎない。

CB Insights RESEARCH BRIEFS

スタートアップが失敗するのは、運転資金の枯渇に加えて、需要の読み違い(想定よりも実際の顧客が少なかった)、チームの崩壊や仲間割れ、競合との価格競争、消費者が満足する製品を作れなかった、法律による規制強化、ビジネスモデルの欠陥など、様々な要因が潜んでいる。

日本では、米国で流行っているビジネスを手本にするケースが多く、特にシェアリングエコノミー系のプラットフォームビジネスや、サブスクリプション型のビジネス、IoTのテクノロジーを活用した製品開発にチャレンジするスタートアップが増えている。ただし、この3つのビジネスモデルは、米国では成長のピークを過ぎており、問題点のほうが露呈するようになっている。

【サブスクリプション型ビジネスの問題点】

月額定額制で固定会員を集めるサブスクリプション型のビジネスは、会員数を増やすことで毎月の安定収益が得られることから、小売業やサービス業、法人を対象としたクラウド型のソフトウエアレンタル(SaaS)など、多分野に広がっている。しかし、水面下ではサブスクリプションサービスの解約率も上昇している。

定期購買制の商材はいつか飽きられるタイミングがあり、契約者数が一定の水準を下回ると、毎月の赤字が続く状態となり、新たな商品開発や人材採用に資金を投じられなくなる。サービスの魅力は更に落ちるため、客離れは加速度を増していく。

【シェアリングサービスの問題点】

多様なモノやサービスを共有するシェエアリングサービスは、世界的に人気の起業テーマであり、日本でも新たに登場しているスタートアップの多くは、世の中をシェアリングエコノミーの力で変えたいと考えている。ただし、シェアリングの発想には、相互扶助の精神が根底にあるため、営利のビジネスとして事業を拡大していくこととのバランス感覚が難しい。

また、英語圏では「Uber(ライドシェアリング)」、「Airbnb‎(宿泊場所のシェアリング)」、「TaskRabbit(軽作業のシェアリング)」など、メジャーなシェアリングサービスのサイト機能を模倣したソースコードが数千ドル(数十万円)で出回り始め、個人の副業としても類似のシェアリングサービスを立ち上げられるようになっている。

もちろん、事業規模の面では、大手のサービスには及ばないものの、地域に密着したシェアリング事業を非営利で運営することで、ローカル消費者からの支持を受けているサービスもある。シェアリングサービスの将来的な方向性は、手数料マージンの引き下げや無償化へと進みはじめており、営利事業としての生き残りは難しくなっていくとみられる。

【ハードウエア系スタートアップの失敗要因】

最近では、クラウドファンディングでも資金が集めやすくなったことから、モノ作りにチャレンジするスタートアップも多いが、ハードウエアの製作が伴うビジネスは、従来のネット事業よりも失敗確率が高いことが明らかになっている。 CB Insightsの調査でも、ハードウエア系スタットアップの失敗率は、97%という悲惨な状況を示している。これはゼロから製造業を起こすことの難しさに加えて、製品の品質や、安全面の問題が浮上するリスクが高いことが起因している。

米ハードウェア系スタートアップの大半は、中国の工場を生産拠点としているが、品質管理を自社でコントロールできないことが、不良品率の高さに繋がり、顧客からのクレームで販売中止に追いやられるケースが多い。特に、安価な中国製リチウムイオン電池の熱暴走による火災リスクは、新たな問題として浮上してきている。

もちろん、これらの問題点をクリアーしながら、成功の階段を昇っていくスタートアップ企業も存在しているが、確率からいえば少数派である。人気のビジネスモデルには流行廃れがあり、世間の注目度だけで事業テーマを選んだ起業家の大半は、創業から数年で運転資金が枯渇して、廃業またはゾンビ状態の死に体となっているのが、米国スタートアップ市場の実態でもある。日本の起業家は、そうした厳しさを理解した上で、時代に翻弄されずに、人生を賭けて取り組むべき事業課題の柱を見つけることが、本物のやり甲斐や幸福感に繋がる。

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