
企業内スタートアップの罠とジレンマ⑤〜ユニークじゃなければバリューじゃない(後編
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こんにちは。uni'que若宮です。某インタビュー記事の影響で会う人会う人「今日は短パンじゃないね」と言われますが、さすがにもう長ズボンですよ。
さて、気づけば長くなり三部に分かれてしまったコアバリュー論、いよいよ後編です。
前二回では、
・コアバリューは「三方良し」のようにあれもこれもにならず、”ひとつ”のバリューであるべき
・コアバリューには要件が3つある
・コアバリューはその中でも「ユニーク」が大事
ということを書きました。
僕のコアバリュー論でもっとも大事なのがこの「ユニーク」(”1つ”っぽいこと)なのですが、これがなかなか見つけるのが難しい。なので予告したとおり、その陥りがちな罠について書いてコアバリュー編を締めたいと思います。
ユニークはなぜ見つからないのか?
過去、いろいろな企業やチーム、そして個人のコアバリュー探しを手伝ってきて、ユニークさが見つからないケースはだいたい以下3つに集約されるように思います。
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これらはいうなれば固定観念と惰性の罠なのですが、過去の経験や既存の価値観に引っ張られてしまうこの罠を回避するのはなかなか難しいです。
実は、コアバリュー論をテキスト化するのをこれまで渋っていたのもこの罠があるからで、読んでわかったつもりになってしまうのが一番危ない。頭では理解したつもりでも無意識にこの罠にハマり、結果ユニークではないコアバリューに終わってしまうことが残念ながらとても多いのです。
中途半端なコアバリューを設定してしまうと、それが真のコアを隠してしまうため、むしろ害悪だったりします。怪我や病気についてネットで情報を集めて勝手に病状を判断し「にわか治療」をすると、かえって症状を悪化させてしまう事があるのに似ています。
なので今日は治療法についてはあまり踏み込まず、症状にフォーカスして書くことにしたいと思います。このポストはHow-toのマニュアルではなく、あくまで「罠」についての注意喚起です。
1.大きいものに隠れる
特に大企業でコアバリューを探すとハマりがちなのがこの罠。
太陽の近くにある星が見えないように、大きなものがあるとそれに注意が取られ、ユニークなものは小さいために霞んでしまうのです。
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これは「バンドワゴン効果」という認知バイアスなのですが、多かったり大きかったりすると、人はそれが正しいと思ってしまう。グループワークでよくポストイットにブレスト的に書き出してそれを重ねてまとめたりしますが、こういう時に、”沢山出た意見”が重要な気がしてきてしまう。
そうしてバリューは「世界平和」的になる。これを避けるため、コアバリューワークショップでは「多数決をしない」というのを第一ルールに定めています。
新規事業に関していうと、この罠が怖いのはどうしても既存事業が「大きい」から。クリステンセンがいう「イノベーションのジレンマ」もその根はこの認知バイアスにあると考えます。
企業でコアバリューワークショップをやってみると、たとえばドコモだと「無線技術」とか、伊藤園だと「お茶」とかが第一声にでてくるのですが、”第一声でほとんどの人が言うバリューは実はコアバリューではない”のです。
え?真っ先に出てくるのがコアじゃないの?と思うかもしれませんが、これらのバリューはよくよく考えると自分たちだけのユニークなバリューではないんですよね。たとえば「無線技術」は他の携帯電話キャリアにも当てはまりますし、技術そのものならベンチャーや大学でもっとすごいところもある。「お茶」はサントリーも売っているし、極めるなら茶道家とか櫻井焙茶研究所のような高級なお茶屋の方が強い。
佐賀県唐津市の市職員さんとコアバリューワークショップをやった際には、第一声で出てきたのは「歴史ある町」でした。
でもそれはユニークじゃない。
日本に「歴史ある町」がどれだけあるでしょう?そして「歴史ある町」で京都に勝てるでしょうか?
ユニークなバリューはそういう大きなバリューの陰に隠れがちなので「掘り出す」必要があるのです。
2.欠損と捉える
次にハマりがちな罠が「欠損」と捉える、という罠です。
「ユニークさ」は、周囲とは異なるため、時に欠損だと考えられがちです。
例えば、プロのF1レーサーの恐怖心の感覚というのは一般人とはちがいます。それは安全性の観点では、ある種”壊れて”いる。
先程の唐津市の例で言えば、市職員さんたちは当初、「街に統一感がないのが課題」だとおっしゃっていました。
京都のように整然とした統一感のある町並みじゃない、それをなんとか直すべく今取り組んでいる、と。
唐津市には、縄文時代の遺跡から秀吉の朝鮮出兵の城跡、お城、明治時代の西洋建築の銀行まで、小さい町の中にバラバラの時代の文化財があるんです。だから景観は統一性がない。それを直さないと、と。
でも、そんな風に色んな時代のものがバラバラにある街なんてそうはありません。ただの「歴史ある町」より「色んな時代をタイムスリップするように楽しめる、パッチワークみたいな街」と捉えて、バラバラ感を全面に出していった方がよっぽどユニークですし、唐津市らしい。そのバラバラ感をなくして統一感を持つようにしていくと、むしろユニークさは減ってしまう。
こういう思考の罠は日本の教育のせいでもあると思っています。一教科だけ飛び抜けていたり、ある教科が飛び抜けて悪かったりすると、点数が悪いところの「対策」をして全教科満点を取ることを目指す。
そうやってどこかにあるような、generalな世界平和バリューが量産されていきます。製造業時代はそれが効率性であり、均質化し不良品率を下げることが成功の方法論だったので、これが刷り込まれている。「欠損は治すべき」と思ってしまうのがユニークの第二の罠です。
dスクールのティナ・シーリグの「スタンフォード白熱教室」に、「最悪の家族旅行を考える」という回があります。人は「いいもの」を考えると思考がロックしてしまう。女性に好みの男性のタイプは?ときくと、「誠実な人」とか「優しい人」みたいなどこかで聞いたことがあるものしか出てきませんが、絶対付き合いたくないのはどういう男?ときくと、「魚の食べ方が汚い人」とかバラバラの意見が出てくる。一見「悪い」ものの方がむしろユニークさに近いのです。
3.自分では当たり前で気づかない
最後の罠は、自分たちで解決するには最も厄介かもしれません。なぜなら自分たちでは”わからない”からです。
「天才」と呼ばれる人と話すとよく感じるのですが、彼らが自分たちの才能を至極「当たり前のこと」だと考えているのに驚きます。
たとえば、イチローが毎日千本もの素振りをしたり、カレーを食べ続けている、という話を聞くと、周りは「あーやっぱそれくらいストイックに努力しないと成功できないんだなあ」と言う。僕はこれは間違いだと思っています。
イチローや才能がある人にとっては、実はそれは努力ではなくて、むしろ「ついやっちゃうクセ」みたいなものなのではないでしょうか。”頑張って”やっているのではないからこそずっと続けられる。
「努力」というのも、日本人が陥りがちな幻想です。
たとえば僕、人間ドックでひっかかったり二日酔いで死にそうになったり、とにかく色々な困難があってもほとんど毎日お酒を飲み続けているんですね。
でも、
だれも「努力家ですね」って褒めてくれない。
「いや、それただ酒好きなだけでしょw てかやめなよw」って言われる。でもイチローの野球と僕のお酒には実は優劣はないんです。
努力ではなく自然にできることを、人は過小評価しがちです。逆に言えば、「努力」を過大評価しがちです。
「努力は夢中に勝てない」という言葉がありますが、ユニークさというのは頑張って努力しないとできないことではなく、呼吸のように当たり前にしてしまうようなnature(自然な性質)にこそある。だからそのゾーンに入れると、とても楽に、力を入れなくても最大のパフォーマンスが出る。Goal設定が大事、とかPDCAとか、やる理由をみんな作ろうとするけど、究極を言えば、"理由がなくてもやっちゃうもの"に出会えるのが一番の幸せです。
でも、そういうものがあっても、自然にできるから当たり前だと思ってしまい、才能だと気づかない。
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このように、「ユニーク」を見つけるまでには色々な罠があります。ユニークさというのはとても見過ごされやすい。じゃあどうやったら見過ごさずにそれを見つけられるかというと、それには「感度」が必要で、その感度は「鍛える」ことはできても「学ぶ」ことはできないと思っています。
(少し話は逸れますが、そういう"1つ"しかない「ならでは性」に対する感度を鍛えるのには「アート思考」が役立つと考えています。
なぜなら上記の罠は、すべて固定観念や惰性的な因習によるもので(ニーチェ的に言うと「重さの霊」というやつです)、それを外して「重さ」から自由になり、自分自身や自分の体感によって意義を改めて捉え直す、そういう研ぎ澄ましはアートがなすことと近いのです)
https://comemo.io/entries/11214
「僕らにユニークさなんかあるの?」
最後によく聞かれる質問について書いておきたいと思います。
一つは自分たちに「ユニークさ」なんてあるのか?という問いです。自分たちはとても平凡だし、「他と違う自分たちにしかもの」なんて特に思い当たらない。
ですが、これまで色んなチームのコアバリュー・ワークショップをやってきた経験から言うと、ユニークさはどんなチームにも、個人にもあります。
前回までに述べたように、「ユニークさ」とは「風変わり」や「突飛さ」ではありません。他の誰よりも平凡なら、それはユニークなのです。自分ではユニークさだと思ってもいなかったことがユニークだったりするのですが、それが見つかってみると、過去の選択や行動が、とてもしっくり来る。背骨や遺伝子のように筋が通って納得がいくのです。(Connecting The Dotsの感覚)
たとえば、任天堂のwiiは、家族の真ん中にある鍋のようなゲーム、というコンセプトで作られました。僕は、このコンセプトは、任天堂に「ファミリー」というコアバリューがあるからこそ、そのバリューに導かれて生まれたのではないかと思っています。
「家庭」用ゲーム機に、「ファミリーコンピューター」という名前をつけた任天堂。売れるタイトルでも家庭で安心して楽しめないエログロなゲームは「やらない」と決めてきた。それは「ファミリー」を大事にしてきたからだと思います。
そんな任天堂だからこそ、「お母さんにもゲームを好きになってほしい」という課題認識をもち、子供部屋にひきこもるのではなく、リビングルームにゲーム機を置いてもらえるように知恵を絞った。(このwiiのストーリーはとても面白いので、玉樹真一郎『コンセプトのつくり方』をぜひ読んでみてください)
「ファミリー」という、意識的か無意識的にかそれまでずっと大切にしてきた遺伝子、それは任天堂ならではのユニークさです。「ファミリー」で思いつくゲーム企業と言われたら、間違いなく任天堂が第一想起されるでしょう。だからこそその「ユニーク」に即したwiiというプロダクトは強いのです。たとえPlayStationやセガが真似して同じようなゲーム機を作ろうと、「ファミリー」軸では任天堂が誰よりも早く走れる。最近ではNintendo Laboが話題になりましたが、こういうのもコアバリューの芯を食ったプロダクトだと思います。
「いくらユニークでも、ニーズがなくちゃだめじゃん?」
これもとても多く受ける質問なのですが、コアバリューワークショップで自分たちのをどんどん掘っていって「ユニーク」を見つけれたとしても、そのバリューに対する世の中のニーズがなきゃだめじゃない?っていう質問をよく受けます。
これは、そのとおりです。
特に企業のの場合、「バリュー」は基本的に顧客に対してのもので、その対価として収益を得るので、事業は他者のニーズなしにはありえません。ですがそれは、他者だけのものではなく、自分と他者の掛け算なのです。
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いくらニーズがあっても、貢献できるものが自分になければ、もっと言うと自分”だからこそ”貢献できるものがなければ、それはすぐに代替可能な、箱ティッシュ的バリューになってしまいます。
ラウターボーン以降ここ30年くらい、企業の新規事業では「顧客視点」「マーケットイン」ということが言われ続けてきました。それはもちろん大事なのですが、企業は自分たちの”外”ばかり見すぎるようになってしまった、と僕は思います。他者である「顧客」を捉えることは容易ではありません。起業家にとって「原体験」や「創業の理由」など「WHY ME? WHY US?」という問いが重要ですが、僕が「ユニーク」なバリューにこだわり続けているのは、企業内の新規ではあまりに「自分」が忘れさられがちだから。僕自身、定量調査ニーズから出発してありがちな事業プランを立ててしまったや、実際にはいもしない「でっち上げのペルソナ」からサービスを考えて沢山失敗してきました。
いくらニーズがあっても、「自分」の項が0ならば、掛け算したバリューもまた0なのです。反対に、同じニーズでも、「自分」の項が5倍なら、5倍のバリューが出る。
コアバリューのまとめ
さて、3回にわたって書いてきたコアバリューについて最後にまとめます。
・コアバリューは「あれもこれも」にならず、”一つ”の価値として研ぎ澄まさなければならない。
・「ユニークである」「浸透する」「やらないことを決める」
・コアバリューはユニークでなければ、箱ティッシュのようなコモディティになる。
・ユニークとは「風変わり」ではなく、自分たちにしかない「ならでは性」「らしさ」
・ユニークさは固定概念や惰性のために見つからない罠がある
・バリューは自分のユニークさと他者のニーズの掛け算
いかがだったでしょうか。
あなたのチームのバリューは一つに定まっていますか?
そのバリューは三要件をみたしていますか?
世界平和バリューになっていないでしょうか?
事業プランは、他でもない、あなたたちらしさを活かしたものになっていますか?
もし、Noがあるなら、、、少し戻ってでもコアバリューを見直すべきかもしれません。もし、すべてがYesであれば、その先、事業のHowへとすすみましょう。
次回はもっとも実務的な実行フェーズの理論、「事業フェーズ」について書きたいと思います。
それは、事業の時間軸を巡るお話です。
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