日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感②

日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感① の続きです。

次のコメントは②(執筆者は星岳雄・東京大学教授)で、実際の論考は以下になります。

この論考のうち筆者が最初に気になったのは以下の部分になります。

利子率が成長率を下回れば、返済がなくても国債GDP比率が低下するのは確かだ。しかし返済がないだけでなく財政赤字があれば、赤字をファイナンス(資金繰り)するために新たな国債発行が必要になる。さらに財政赤字の額が十分に大きければ、たとえ利子率が成長率を下回っていても国債GDP比率は上昇してしまう。
簡単な事例で説明しよう。前年度末の国債GDP比率が200%、今年度の利子率と成長率がそれぞれ0%と1%とする。
この場合、国債の返済がなくても利子率はゼロなので国債残高は今年度末も変わらない。一方、GDPは1%増えるので、国債GDP比率は2%(=200%×1%)低下する。今年度の基礎的財政赤字がGDPの2%以下なら、今年度末の国債GDP比率が前年度末を上回ることはない。しかし基礎的財政赤字がGDPの2%を超えれば、今年度末の国債GDP比率は前年度末より上昇する。

この記述は概ね正しいのですが、基礎的財政収支の赤字(対GDP)が2%以内であれば、財政は問題ないという印象を与えてしまう可能性があります。このような印象は、執筆者の星先生が全く意図するところではないと思いますが、そのような印象をもった読者がいるとすれば、それも誤解です。

以下、順番に説明しましょう。

まず、日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感① でも説明したように、「債務残高GDP比」の動学方程式として、以下が成立します。

今期の債務残高GDP比 = 財政赤字(対GDP)+(1-名目成長率)×前期の債務残高GDP比      (1式)

また、「財政赤字(対GDP)=基礎的財政収支の赤字(対GDP)+名目金利×前期の債務残高GDP比」ですから、基礎的財政収支の赤字(対GDP)が1%で、名目金利がゼロのとき、財政赤字(対GDP)は1%になります。

このような状況で、名目成長率が一定の値gで推移すると仮定する場合、(1式)は以下に変形できます。

今期の債務残高GDP比 - 1/g = (1-g)×(前期の債務残高GDP比 - 1/g)      (2式)

この式から、g>0のとき、債務残高GDP比は「 1/g」に収束します。1995年度から2018年度までの名目GDP成長率の平均は年率0.39%しかない状況ですから、(2式)で、成長率が0.4%、つまりg=0.004とすると、債務残高GDP比の収束値は250%に膨張します。

なお、名目成長率がマイナスで、g<0のとき、(2式)の数列の収束値は発散しますから、債務残高GDP比の収束値は無限大になります。

この意味で、星先生の論考の以下の記述は甘く、名目成長率が低下する場合、基礎的財政収支の赤字を2%以下の1%に抑制しても、財政は破綻する可能性があることになります。

最近の日本のように2%を超える基礎的財政赤字が続く状態では、将来のどこかで赤字が2%を切らなければ、最終的には財政が破綻し、何らかの調整を余儀なくされる。


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小黒一正(法政大学教授)

法政大学教授/鹿島平和研究所理事/新時代戦略研究所(INES)理事。『財政危機の深層』『財政と民主主義』『薬価の経済学』など著書多数。専門は公共経済学。世代間問題や財政・社会保障を中心に研究。

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