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井の中の蛙で戦国時代をやっている日本の宅配フードサービス【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】

周回遅れで普及した宅配サービス

Uber Eats に代表される宅配サービスも、COVID-19 による消費スタイルの変化が後押しとなって、ようやく日本にも定着してきた。ようやくというのは、海外諸外国と比べて普及に苦戦していたためだ。

欧米中といった先進諸国はおろか、東南アジアなどの新興国でも宅配サービスはなくてはならない存在だ。私の第2のホームタウンであるインドネシアは、数年前から宅配サービスがなくては生活が成り立たないほどだ。スターバックスには、普通の客よりも宅配サービスのドライバーの方が多いというのも当たり前の光景だ。

日本では、そもそも出前館や楽天デリバリーなどの出前文化が存在しており、通常の出前との差別化が飲食店側と顧客側の双方に理解を得ることができていなかった。しかし、「スマホアプリで出前専門店ではない料理を注文する」という顧客体験は、1度使ってみると、既存の出前ビジネスとは全く異なるものだということがわかる。そして、この新しい顧客体験を覚えてしまった後は、昔の出前文化に戻ることは難しいだろう。

今回は、先日、日経COMEMOで募集されていた「#毎日Uber Eats有りですか」と絡めて、昨今の宅配サービスについて考えてみたい。

宅配サービス群雄割拠の時代

Uber Eats の世界的な成功と共に、日本でも米国でのサービス開始当初から、いつかは来る黒船として注目を集めていた。しかし、facebookに対するmixiのように、米国から本家が来日する前に日本で独自サービスを立ち上げようとする動きは見られなかったように思う。あったかもしれないが、少なくとも花開かなかった。

それが、COVID-19 によって、一気に注目度が高まり、様々なサービスが表舞台に躍り出てきた。代表的なのは、ネット宅配の老舗である「出前館」だ。22年までに加盟店10万店に拡大させると、現在の追い風を活かしてビジネスを拡張させようとしている。同様に、大手EC系では「楽天デリバリー」も好調だ。

ベンチャー企業も元気がある。「menu」や「チョンピー」、「フードパンダ」などの企業が参入し、激しい市場競争が生まれている。

異業種からの参入もある。COVID-19 による需要増に対応するため、タクシー業界も宅配サービスに意欲を見せる。タクシー宅配では、高価格帯の商品を安全に届けるという付加価値をつけることで差別化を図っている。

また、宅配サービスの隆盛は大都市圏だけの話に限ったことではない。地方都市である大分県でも、別府市を中心に地元ベンチャーの「pakpak」、地元大学の留学生が起業した「マイニチモンキー」がサービスを提供している。

まさに、COVID-19 による新しい生活様式によって、日本全国津々浦々にまで宅配サービスは新ビジネスとして広まったと言えるだろう。そして、サービスを提供する事業者の数は増え、戦国時代の様相を呈している。

日本版Uber Eatsがパッとしない

このように、一気に広まった宅配サービスだが、話題の割に景気の良い話しはそんなに聞かない。Uber Eats は言わずもがな、同じようなサービスを提供している世界の企業は、企業評価額が10億ドルを超えているユニコーン企業や100億ドルを超すデカコーン企業として名をはせている企業が多い。東南アジアでは Go food と GrabFood が代表的な企業であり、北欧のエストニアの Bolt もユニコーン企業として知られる。

これらの企業の評価額が大きいことは、Uber 同様に宅配サービスだけをやっているわけではないという要因もあるだろうが、それだけではない。先行者である Uber のクローンで終わるのではなく、世界市場に打って出れるだけの独創性を付加価値としている。

例えば、エストニアの「Bolt」は旧サービス名「taxify」が示すように既存のタクシー事業者との連携を強みとしている。そのため、規制のために Uber が進出できない国や都市にも機動的に進出が可能となっている。今年5月には、Bolt は規制のためにUberが進出できないクロアチアにて宅配サービスをスタートさせている。

レッドオーシャンに飛び込みたがるのは止めよう

日本は未だ世界第3位のGDPを持つとはいえ、人口減少と内需が縮小傾向にあり、新規事業を興すにあたって楽観視できる市場とは言い難い。子供の貧困率に至っては、OECD平均の13%を下回っており、00年以降13~16%台で推移している。極端な言い方をすると、船底に穴が開いてゆっくりと沈んでいる大型船に、「まだ、すぐに沈没するわけじゃないから」と次から次へと新しい乗客が乗り込んできているようなものだ。

当然、そのような市場で事業規模が大きく成長するような事業は生まれてこない。地域密着と言えば聞こえが良いかもしれないが、事業規模の小さなビジネスがいくら生まれようと、日本の抱える「低成長」「所得水準の相対的低下」「低い労働生産性」「グローバル市場での存在感の希薄化」等の社会課題の解決には寄与しない。

宅配サービスに注力することが悪いのではない。日本の国内市場ばかり見ていて、既にプレイヤーも多数いるレッドオーシャン(競争の激しい既存市場)で隙間産業を狙おうという姿勢に疑義を呈したい。日本の市場は特殊だからと紋切り型の固定概念に囚われるのではなく、世界市場と接合することでブルーオーシャンが見えてくることもある。

事業アイデアの抽象度を上げ、世界市場への応用可能性を見据えたうえで、日本市場の現状にローカライズ(現地化)していくという発想が、現代の起業家や新規事業開発者には求められている。学術的には、グローバル・マインドセット(Global Mindset)と呼ばれる研究領域だ。グローバル市場との接合ができない状態では、どれだけ新しいビジネスが生まれようと、日本という閉ざされたレッドオーシャンから逃れることはできない。そして、低コストで低い利益率のビジネスを回すという労働生産性の低いモデルから脱却することもできないだろう。今の日本に求められているのは、レッドオーシャンの中でもブルーオーシャンを志向する起業家や新規事業開発者の存在である。

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