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AI革命時代のマインドフルネス〜スタンフォード×鎌倉でヒトの進化を考える

9月22日、23日に鎌倉で開催されたZEN2.0のスピンオフイベントとして開催された今回のイベント「AI革命時代のマインドフルネス〜スタンフォード×鎌倉でヒトの進化を考える」
このイベントはチケット販売開始後まもなく満席となり現社会のマインドフルネスへの期待の高さがうかがえます。

登壇者は
スタンフォード大学「マインドフルネス教室」主宰・心理学博士(ハーバード大学)のスティーヴン・マーフィ重松さん

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一般社団法人Zen2.0 代表理事の宍戸幹央さん

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立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 特任教授の梅本龍夫さん

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マインドフルネスを「知る」

まずは宍戸さんによるマインドフルネスを「知る」お話からスタートです。

宍戸さん:高校時代にぜんそくで体が弱く、様々な健康療法や思考を試すうちに意識の世界にたどり着いたんです。東洋的な思想が世界で取り入れられるようになり日本には逆輸入されています。そこでもっと海外からも日本に学びに来られる場を作りたいと鎌倉に7年前に拠点を設け、マインドフルネスの国際カンファレンス「Zen 2.0」を3年前から開催しています。

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宍戸さんは組織作りをしながら企業にマインドフルネスを取り入れチームビルディングを行うとともに鎌倉市、児童養護施設などの研修にもマインドフルネスを取り入れています。

AIの進展で起きる雇用崩壊

宍戸さん:AIの進展により現存する職業の半分はなくなると言われています。その中で創造性、協調性が必要な業務は残るといわれています。創造性や人との関係性構築の観点からマインドフルネスは有効と考えられているのです。

今なぜマインドフルネスが必要なのか

宍戸さん:変化が激しく、先行きの見えない不確実性の高い時代に人がストレスを感じる状態が高まっています。さらに情報があふれすぎているために現代に生きる人々は「自分」をとらえにくくなっていて脳疲労をおこしているのです。そのような状況下でいったん立ち止まり、日々の中で自分の心を見つめ、リセットする時間が重要になってくるのです。

創造性、協調性、心の中からわき上がっていくモチベーションを維持する、他社との関係性を豊かに育みながらチームワークをする上でマインドフルネスが必要になるのです。

マインドフルネスの定義

では、近年よく耳にするようになったマインドフルネスとはいったいどういう定義がされているのでしょうか。

宍戸さん:マインドフルネスとは
過去や未来に意識が奪われることなく、また、評価、判断をするのではなく、”気づき”に満ちている状態です。また「子どもの頃、言葉を覚える以前に体験していた世界の見方」とも言われています。

マインドフルネスとは瞑想する行為を指すものではなく、瞑想によって到達しやすくなる意識の状態のことをいいます。

マインドフルネスではない状態とは

では一体マインドフルネスではない状態とはどういう状態なのでしょうか。

宍戸さん:今やるべきことに注意が向いていない状態、気づいたら将来や過去のことで意識が分散されている状態をマインドワンダリング(Mind Wandering)といい、1日の半分はマインだワンダリング状態なのです。またこのマインドワンダリング状態は幸福感が低いことも証明されています。(Killingsworth et al.,2010, Science)

また外部状況に対して、無意識に反応してしまっている状態をオートパイロット状態といい、この状態もマインドフルネスではないといいます。

過去の固定観念に合わせて反応したり、他社との関係性の中で反応的になってしまう状態になると脳が疲労するのです。


マインドフルネスの実践の結果

このように脳疲労をおこしやすい現代にあって、マインドフルネスの実践は

・集中力UPによる生産性向上
・不安感の軽減によるストレス耐性の強化
・怒りや恐れの感情への対処能力が高まる
・思いやりが深まることによる人間関係力の向上
・先入観のない見方による想像力の向上

などが期待できるといいます。

アメリカではGoogle、Facebook、Linked inなど様々な企業がマインドフルネスを取り入れているそうです。

科学的に証明されたマインドフルネス

宍戸さん:鬱病の薬以上に再発率をおさえることができたというマインドフルネスの効果は科学的に証明されており、企業がマインドフルネスを実践することによりどれだけ経費削減を達成できたかなどデータ集積により検証されています。

マインドフルネス実施による生産性の向上は企業のみならず国家レベルで期待されておりイギリスではMindful Nationをうたう国会議員までいるといいます。これはマインドフルネスが狭義の心の病気だけでなく、身体の病気の苦痛の緩和、日々のストレスの軽減、集中力向上など、広範囲のメリットを有していることが着目されている表れだといいます。

瞑想だけではないマインドフルネスのトレーニング

宍戸さん:山道を走るトレイルランニング、ヨガなどいまこの瞬間に意識を巡らせること、今に気づいている状態にどれだけ近づけるかがトレーニングです。掃除も座禅よりもトレーニングにつながり、断捨離で有名な「こんまり」さんの掃除も禅につながり注目されています。

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組織開発にマインドフルネスを取り込む

組織開発にマインドフルネスを取り入れている宍戸さんは「ヒエラルキー型組織マネジメントの限界」がある、といいます。

宍戸さん:変化が激しく、またイノベーションが常に求められている、上から言われたことを愚直にやる組織だとこれからの時代どこまで残れるかわからないのです。1人1人が他者と協働しながらいかに共通の目的に邁進できるかというところにもマインドフルネスの考えは重要で、そのような背景のなかでティール組織のような組織形態が求められているのです。

わたしの上司は目的 My boss is purpose.

宍戸さんは、今、個人と組織がpurpose(目的)に向き合う必要があるといいます。


宍戸さん:組織全体のpurposeとともにそれ以上に自分の中でのpurpose、心の声を聞いて邁進していくことが大事なのです。1人1人のpurposeを感じながら、しっかりと関係性を構築するために対話する文化が求められているのです。どこかに正解があるわけではなく自分の心をしっかりと聞きながら、そして他者と対話しながら相手の文脈背景に目を向ける。関係性のためのマインドフルネスなのです。

ここでファシリテーターを務められた梅本さんが宍戸さんの講演の内容を以下のようにまとめられました。

マインドフルネスは手法ではなく、意識の状態です。そのある意識の状態にいくためにはいろんな方法があります。その中に流行っている物はいくつもあるが状態が大事です。どういう状態が大事かというと「be here now」〜今ここにある〜過去、未来などに飛ばず今ここに意識がある状態です。それは実は自分1人ではないのです。

スティーヴン・マーフィ重松さんによる講演

宍戸さんによる「マインドフルネスを知る」講演に続き、スティーヴン・マーフィ重松さんによる講演です。

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スティーヴンさん:大学で講義をしていても学生からも「人生を変える力がある」と言われるんです。

マインドフルネスはカタカナで書かれて、スタンフォードなど海外から入ってきた新しい物と思っているかもしれないですが、決して新しいものではないんです。僕は10年前からスタンフォード大学で教えていますが、2016年に「スタンフォード大学のマインドフルネス教室」という本をだしました。

いつマインドフルネスをはじめましたか?と聞かれます。
シリコンバレーでは「成功して金持ちにもなったけれど心身をこわしてしまってマインドフルネスに出会って救われた」という話をよく聞きます。
僕の場合はちょっとちがっていて、昔から祖母にもマインドフルな子どもだったと言われていたし、物静かな子どもだったんです。

だんだん成長して人生のつらさに負けてかなりひねくれた青年になったんです。「つながりがきれてしまった」そんな気持ちになったんです。神とのつながりが途切れたと感じ、本来の自分がわからなくなってしまい、さらに他人の信頼を失ったと感じたんです。

暗い森にはいっているような状態でどうやって脱出すればよいかわからなくなりました。

20代のとき、住んでいたアパートが火事になってしまいギターだけをもって逃げたんです。アパートは全焼し、僕の持ち物すべてを失いました。
自分にとってこの火事はtransformation(変化、生まれ変わり)だった気がしました。

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火事は破壊だけではなく、厄払いでもあると感じました。古い物を手放し、新しい道ができ自分は生まれ変わった気がしました。

一度途切れてしまったものと再びつながる

火事ですべてを失った時、スティーヴンさんは信仰していたカトリックの祈りに触れ、過去に失った三つのつながりと再びつながったと感じたそうです。
カトリックの祈りとはこちらです。

A prayer from fire
Oh, my God, YOU are here
Oh, my God, I am here
Oh, my God, WE are here

YOU are here
神とのつながり
I am here
自分とのつながり
WE are here
他者とのつながり

を再び感じたそうです。

Stanford Duck Syndrome

その後東京大学の教授を経てスタンフォード大学で教鞭を執ることになったスティーヴンさんは当初スタンフォードの学生は美しく、聡明で、幸せそうだと感じたそうです。

スティーヴンさん:スタンフォードで学生達と過ごし、そうではないとわかったんです。それはまさにStanford Duck Syndromeというもので、一見、美しく素晴らしく見える水鳥が水面下では足を必死でかいているのと同様で学生たちは見えないところで必死にもがいているというのがわかったんです。

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学生たちは内面には敗北感、劣等感、焦りなどを感じ心理的な問題を抱えているとわかりました。優秀な大学生の精神状態が決してよいものではないと感じました。また、学生たちは生きる意味を知りたいのにもかかわらず、それを教えるような授業がなかったんです。だから僕はそういう授業を作りたいと思ってマインドフルネスハートフルネス教育をはじめました。

神秘とのつながり

スティーヴンさん:クリスチャンの世界ではGodという言葉をよく使います。Godとはまさしく神のことです。マインドフルネスの考えでは広い意味で自分より大きなものを認めること、手放すことが必要で、自分の弱さを認める、不完全さを認めることにつながっています。

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私たちの多くは周りの環境をコントロールしたいと考えています。しかし、コントロールできない神秘的なことがあると信じることが重要だと考えます。

あるとき、僕の友人が亡くなり、葬儀で蝶を一斉に空に放しました。100匹の蝶を放しましたが、たった1匹の蝶が亡くなった友人のご主人の指に留まっていたのです。

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これが神秘です。大学の授業でもどうやって説明すればよいかわかりません。しかしながら、神秘を認めることが非常に重要なのです。

この神秘とのつながりを感じると「一期一会」という考え方も理解できると思います。

自分との繋がり

スティーヴンさん:半月のことを英語でハーフムーンといいますが、実際には陰になっているだけでフルムーン(満月)なんです。人間も同じです。癒やしとは陰になっている部分に光をあてることなのです。人は生まれたときはフルですが、社会の中で生きていくうちにだんだん小さくなっていくのです。傷、トラウマ、拒否していること自分の暗い部分がありますがそこに繋がることが大事なんです。

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自分の暗い部分は隠してしまおうと思いますが、それがあるから自分なんだときちんと受け止めることが大事です。

完全に自分を受け入れることで、そこから自分が変わることができるのです。自分と完全に繋がることで新しい自分になろうという行動ができるようになるのです。

他者とのつながり

スティーヴンさん:自分の強みだけを前面に押し出しても人と分かり合えることはできません。むしろ自分の弱いところを見せていくことでお互いに理解ができるのです。生きるとは人とつながることで、とても基本的なことなのです。

また、感謝の心が非常に大事です。毎日を感謝の心で過ごすということがマインドフルネスだと思っています。

サウボーナ

講演の最後にスティーヴンさんは「サウボーナ」という南アフリカのズール族の言葉を紹介しました。

スティーヴンさん:サウボーナとは

I see you
I am here という意味合いを持っています。

これは、「私は一人だけではなく、私はご先祖様と一緒にいるという感覚」です。あなたもあなた一人だけではなくて、ご先祖様など大いなるものの一部として生きているのです。Seeという英語はとても深い意味を持っています。

もともとラテン語で「はっきりとみる、明確にみる」という意味を持っています。Seeはあなたの存在を認識していますよ、存在を見ていますよという意味なのです。

文化を超えたもの

スティーヴンさんの講演を受けてファシリテーターの梅本さんがアメリカと日本のマインドフルネスの背景や文化を踏まえたうえでこのようにまとめられました。

アメリカ人の個人主義、合理主義がアメリカで進んでいるマインドフルネスを規定しています。それに対してもともと日本人が仏教の伝統を含めてマインドフルネスをとらえたとき、それはもっと関係性に開かれているものなのです。自分一人が良くなれば良いということではなくて、開かれてはじめてマインドフルになっていくのです。

今回の講演の中ではスティーヴンさんのいくつかのワークもあり、とてもマインドフルな空気に包まれて終了した今回のイベント。

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AI革命の時代、個の時代と言われる現代において、もともと仏教や禅の文化が常にそばにあった我々日本人は、より一層マインドフルネスを受け入れやすく、それが今多くの人やビジネスの側面にも求められているのだと深く感じられるイベントとなりました。

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