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提供者目線のDXは本当に「X=トランスフォーム」しているか

やむを得ない所用のため、大変久しぶりに新幹線に乗った。しばらく新幹線に乗ることはなかったので約1年半前に開始された、交通系 IC カードで新幹に乗れる「新幹線 eチケットサービス」の利用も初めてだった。そこで改めて気がついたことは、日本の鉄道のチケットレス化やIC化がコストを増大させる方向に進み、そのうえユーザーにとって複雑でわかりにくいものになっているのではないかということだ。

新幹線 eチケットサービスは、チケットを購入して自分の手持ちの交通系 IC カードを登録すると、駅の窓口や券売機で紙のチケットを発行する必要がないというサービスだ。これが1年半前まで出来なかったということにまず驚く。東海道新幹線のEX-ICサービスは以前からあったが、これについては有料で、なおかつ専用の IC カードを作らなければならない。

それでなくても持ち歩くカード類が増える傾向にあるので、新たなカードを作らずともサービスが受けられるという点では新新幹線 eチケットサービスは歓迎すべきものと思う。

ただ、利用の仕組みはやや複雑で、最初に在来線の自動改札を通った後、同じICカードで新幹線の改札機を通り、新幹線を降りてから在来線に乗り継ぐ場合は、最終目的地 がIC カード非対応駅の場合、紙のチケットで新幹線を降りた後の乗車券を持たなければならないなど、この仕組みを理解して使いこなすことはかなり複雑だと思った。高齢者にとってはハードルの高いサービスのように思う。

もちろん国の違いや文化の違いがあるので一概にどれが正しいとは言えないが、例えばヨーロッパの鉄道改札の仕組みと比較すると、日本の主要鉄道の改札システムは、利便性もあるものの複雑になる傾向もあり、改札機等に多額の投資をしなければならない点でも、果たしてこれからの時代にふさわしい方向でデジタル化されているのか、ましてこれをDXと言えるのかと思うと、疑問が残る。係員がいた改札口を自動改札機に置き換え、紙の切符から IC カードに変えただけでは、デジタル化ないし無人化・自動化・機械化ではあってもこれをDX=デジタルトランスフォーメーションと呼ぶには無理があるだろう。

しかも場合によっては EX-IC サービスのようにもともと持っている交通系 IC カードのほかに専用のカードを持たなければならなかったりする点で、サービスの提供者都合と思わざるを得ない面もあったりする。こうした提供者都合でコストがかさみ、それが最終的に利用者の料金として跳ね返る仕組みで高コスト体質になっているのではないかと思ってしまう。

ヨーロッパの場合、一部の例外を除くと駅のホームに入るまでに改札機はなく、紙の切符の場合には日付を刻印する必要があるものの、この刻印機くらいが駅側のハードウェアであって、設置やメンテナンスに多額の費用がかかるものではない。このため切符を買わずに乗る無賃乗車も容易であるが、その代わり車内検札に遭遇しその時に切符を持っていなかった場合にかなり多額の罰金を取られる仕組みである(この車内検札がかなり陰湿に罰金を稼ぐケースも何度か遭遇しているが、本題ではないので触れない)。

日本のほうが人々のマナーがよくルールを守る傾向にあるので性善説に基づく仕組みが有効に機能しそうに思うのだが、こと鉄道の改札のシステムという点で見ると日本の鉄道は性悪説的であり、ヨーロッパの鉄道は性善説的であるということもできるだろう。

そしてヨーロッパの特急列車の特急券もスマートフォンから簡単に予約し決済ができる点は日本と変わりないと言えるが、改札がないために日本のような在来線と新幹線の改札の2つを通るといった複雑さがなく、また良くも悪くも IC カードといったものが普及していないために、チケットはスマートフォンの画面に表示される(自分で紙に印刷してもよい) チケットのQR コードを車掌が専用の読み取り機で読み取って確認をするというスタイルになっているものが多い。長距離バスなどだと、類似の仕組みだが車掌の読み取り機は普通のスマホであったりもする。

こうすれば鉄道会社側の改札システムに関する設備投資は、ハードウェア的にいえば車掌が持っている QR コードの読み取り装置、そして紙のチケットのためにホームに設置する日付と時刻の刻印機ぐらいで済む。

日本の鉄道で導入されている自動改札機は Wikipedia によれば1台あたり数百万から高機能なものであれば1000万を超えるという。こうしたものが1改札口あたり数台から多ければ10台以上設置されているので、小さな駅でも数千万円、大きなターミナル駅になれば数十億円といった費用が改札機の導入初期費用だけで必要になる。その上、紙(磁気券)の切符を扱える改札機であれば定期的なメンテナンスのコストもかかってしまう。

これは国の違いによるのだというのであれば、日本の航空会社の国内線を見ればかなり早い時期からヨーロッパの鉄道とあまり変わらないチケットの予約発券から改札までの仕組みが整っている。スマートフォン登場以前から携帯電話でフライトの予約や便の変更が可能になっていたし、これまでは IC カードが主に使われてきた搭乗口の改札も今は QR コードに徐々に置き換わりつつある。

これも鉄道と航空の違いだと言われるのかもしれないが、このように改札ひとつをとっても多額のコストをかけている鉄道業界が赤字に苦しんでおり、その補填について取り沙汰されるようなニュースを見ると、コストをかけるべきところを本当に精査しているのだろうかと思ってしまう。

もちろん安全性を重視する点に関しては譲ってはならないが、改札の仕組みは輸送の安全性に直結するものではないのではないだろうか。改札機にかけるコストと、無賃乗車をする人によって失われる利益のどちらが多いのだろうかと思ってしまう。

実は、これは鉄道業界に限らず同じようなことが日本の様々な業界で起きているのではないかと思う。デジタルトランスフォーメーション=DX が話題になっているが、少なからぬケースでこれまでのものを単純にデジタル化したり自動化・無人化・機械化することによってそれを DX と称してしまっているケースはないだろうか。むしろD=デジタル以前に、どのようにX=トランスフォーム(変態)するのか 、まずはX の部分を十分に突き詰めて、それをデジタルにする必要があるのであれば DXにすれば良いのだ。

たとえば、この顔パスは、どう評価するべきだろうか。プライバシーの問題も気にかかるところだし、「改札機」の発想から抜け出していないと感じる。

鉄道をはじめ交通業界は、人口の減少もあり、コロナの影響もあり、これからどのように存続していくかということに知恵を絞らなければならない時期に来ている。そうした中で改めてX=トランスフォーメーションをどのように組み込んでいくのかを考えるべきだろう。


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