
新卒へのジョブ型雇用の流れがついに本格化か
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
先日サイバーエージェントが発表したニュースが大きな反響を呼びました。「新卒初任給42万円」という数字が多くの方の想像を上回ったからでしょう。
サイバーエージェントは全社員に一定の残業時間を含んだ年俸制を適用している。これとは別に業績連動賞与を社員の評価に応じて支払っている。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(21年)によると、大卒者の平均初任給(残業代・賞与は別)は22万5400円だ。サイバーエージェントの場合は残業代を含むため一概には比較が難しいが、初任給として平均賃金を大幅に上回る水準を提示して人材獲得に弾みをつける。
新卒入社の初任給は年俸を12分割すると月額34万円だった。23年春入社からは、営業などのビジネス職やCG(コンピューターグラフィックス)制作などのクリエーター職の初任給を一律で月額8万円(23.5%)引き上げ42万円とする。
記事にもある通り、大卒者の平均初任給が約22万円です。42万円というのは数字だけみると倍近いものですので、予想を上回ったもの納得でしょう。しかし、これは残業代や賞与を除いた金額ですので、比較対象として同一の条件ではありません。
サイバーエージェントでは一定の残業代を含む年棒制を採用しており、今回の引き上げ分である月額8万円を残業時間に換算すると約40時間程度となります(22営業日に1日8時間労働を定時と仮定)。新卒から裁量労働制を適用したと考えれば、リーズナブルな上げ幅に思えます。
エンジニア職などの高い技術が業務のレベルに直結するような職種に対しては、すでに18年春入社から一律の初任給を廃止して新卒でも月額60万円以上の給与を得られるようにしていたそうです。今回の変更により、大半の職種において年棒制が適用されることとなります。
ここだけみると「人材不足が深刻化して、獲得競争が加速しているのだなぁ」と思うかもしれません。しかし、このニュースの本当のポイントは以下にあると考えています。
2年目以降は評価次第で初任給を下回る年収になる可能性もある。22年春以前に入社し、月給が42万円に達していない社員については、スキルや業績を評価したうえで個別に調整する。ベースアップとは異なり、引き上げ幅は役割ごとに定めた既存のグレード(等級)の範囲内で対応する。
これは新卒という枠が完全に崩壊したとも言える大変革です。一般的に、新卒3年目くらいまでは評価によらず「一律ベースアップ」という会社が多いでしょう。まず、この「一律」というものが撤廃され、しかも評価次第で「初任給を下回る」可能性もあるということです。その後もベースアップという概念はおそらくなく、スキルや業績を個別に評価した上で昇給・昇格なしは減給・降格がなされるということを意味しています。
つまり、日本でもついに真の意味でジョブ型雇用が始まった、と。
ジョブ型雇用は基本的に固定給で、より高次のポジションを手に入れない限り昇給がない。日本で一般的な職能給でなく、仕事そのものに支払う職務給になるため社外との比較が容易になる。その分、企業は給与だけでなく働きやすさや働きがいのある職場づくりに一層の配慮が求められる。新卒採用や育成、評価にも再考がいる。
今後、少子化を背景にした人材獲得競争が加速することは間違いありません。大企業を中心に、このような制度の導入も進んでいくことでしょう。一方で中小企業においては人的余力に限りがあり、一人何役も担う多能型人材が重宝されることからジョブ型導入のハードルは大企業よりも高いです。
よって、今後10年くらいはかなり複雑な人材市場となることは間違いなさそうです。個人のキャリアとしてもどのような働き方を望むのか、また企業としてもどのような人材戦略を描くべきなのか。まさに企業経営における最重要テーマのひとつとなるこでしょう。
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タイトル画像提供:kouta / PIXTA(ピクスタ)