見出し画像

ミニマリストから支持される原価公開型の透明性ブランド

 Z世代やミレニアル世代の若い消費者から支持を受けているメーカー直販型(D2C)アパレルブランドのキーワードに「Transparency(透明性)」がある。商品のできるだけ詳しい情報を開示することで、その商品を購入することの妥当性を判断してもらうものだ。その中でも、商品の原価率を正直に公開するブランドが急成長している。

2011年に米サンフランシスコで創業した「Everlane(エバーレーン)」は、自社開発した商品をネットで直販する D2C型の新興ブランドで、商品単価はコットシャツが35~50ドル、ジーンズが約70ドルと、従来のファストファッションと同程度に設定されている。中国や東欧などの提携工場に、商品の生産を委託しているのも同じだが、商品別に詳しい原価率を公開しているのが、これまでのアパレル業界には無い特徴である。

たとえば、68ドルで販売されているスリムジーンズは、生地の材料費(14.21ドル)、ボタンやジッパーなどの部品代(3.71ドル)、労務費(8.50ドル)、他の経費(4.39ドル)、輸送費(0.96ドル)という原価の内訳で、それに35ドルの粗利益を乗せして販売している。百貨店に店舗を構えるアパレルブランドは、原価に対して5~6倍の販売価格を設定しているが、Everlaneは原価のおよそ2倍に設定している。

画像1

これまでアパレルブランドの原価率は非公開とされてきたが、消費者がその詳細を把握できれば、68ドルのジーンズが妥当な買い物であるか否かの判断がしやすい。人によっては、材料費が高いほど素材が良いと判断するし、労務費が高いことは、縫製技術が高いことの裏付けになる。このような原価率の開示は、価格に対して高品質の商品を求めている消費者にとっては、“信頼できるブランド”としての根拠になる。

米国でEverlaneは、センスの良いブランドとしても若者層から大人気となっており、2017年に上記のジーンズ(68ドル)がオンライン発売された時には、在庫が瞬時に完売となり、2万人以上の予約待ちが付くほどのヒット商品となった。このジーンズは、ベトナムの提携工場で生産されているものだが、伸縮性にこだわった細身のシルエットが美しく、メジャーなブランドならば 165ドルはする品質のものという。若者の中では表面的なブランドイメージよりも、商品の本質で優劣を判断する価値観が浸透してきている。

商品原価までを公開するブランドが登場してきた背景には、スマートフォンの普及が関係している。商品情報を詳しく調べてから購入することに長けた10~30代前半の消費者に対しては、広告宣伝に多額のコストを投じた、従来のブランドマーケティングは通用しにくくなっているのだ。

それよりも、商品の販売者は、原材料の入手経路、製造工程、価格の決め方、注文後の商品配送は、何日の何時に届くのか、返品保証の内容までを詳しく解説することが、消費者からの信頼を獲得する上で重要になっている。また、商品のラインナップやデザインは極力シンプルにして、同じ物を長く使い続けられるようにしたほうが、顧客からの支持率は高くなる。これは“なるべく物を増やしたくない”という「ミニマリスト」の価値観とリンクしている。次々と新作商品をリリースして、買い換えサイクルを意図的に早めようとするブランドからは、消費者が次第に離れている。

言い換えると、ミニマリストの消費者は、価格の安さだけで飛びつく「貧乏人の銭失い」ではなく、高品質の商品と、そうではない商品との目利きをする力に長けていて、長く使える本当に良い商品に対しては正当な対価を払うことを良しとする価値観を持っている。

■関連情報
ネット直販(D2C型)で展開される新興アパレルブランド
Z世代から支持される新興ブランドの販促手法
ブランド資産を守るプロテクションテクノロジー
JNEWS公式サイトビジネスモデル事例集

JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を精力的に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。また、JNEWS会員読者には、副業ビジネスの立ち上げ、独立起業までの相談サポートも行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?