見出し画像

スタートアップはカネだけでは成らず。ヒトの問題を解決する働き方改革を、そろそろ。

首都圏の自治体や金融機関がスタートアップへの投資をさらに加速させていくという。


デジタル化の遅れなど社会課題の解決や地域活性化のほか、金融機関は取引先の拡大につなげたい考え


と、多岐にわたる期待が寄せられているようだ。

大企業を中心に、コーポレートベンチャーキャピタル( CVC) 設立の動きは引き続き流行とでも言える状況が続いており、このまとめによれば今国内では200社以上の CVCがあるという。


ただ、先の記事にある通り、

投資は今後も伸びが見込まれるものの「米国など海外と比べるとまだ規模が小さい」(都担当者)。

というように、スタートアップへの投資の資金は特にアメリカに比べれば少ないことは事実だ。そうしたなかで、スタートアップへの投資が増えることは歓迎したい。

ただ、投資の目的については、 CVC の普及に伴ってやや不明確になってきている印象も否めない。純粋な VC ではなく CVC なのであるから、その会社が目指すもの、戦略に即して出資していかなければいけないはずだが、そこが曖昧なままに設立されたのか、(同業)他社がやっているので自分の会社でも、といった理由で設立されたのではないかと思わされるケースもなくはない。

また、出資する側が増えても、出資される側が増えなければ投資資金は行き場を失うのだが、日本国内のスタートアップが十分な質と量(数)で生まれる環境にあるのかと言うと、まだ十分ではないと感じる。また、仮に国内で起業するスタートアップが多数であったとしても、国内の課題を解決するにとどまらず、世界全体の流れに沿った社会課題の解決を行い、それが日本国内のみならず諸外国からも、事業内容でも投資先としても支持され、いわゆる「ユニコーン」と呼ばれるような、企業規模の大きいスタートアップに成長する道筋が整っているかと言えば、まだ十分ではないように思う。

よく言われる、「ヒト・モノ・カネ」について言えば、(モノについてはおくとして)カネはこうしたファンドの充実によって徐々に改善しつつあるが、一方でヒトの面で十分かと言うと、まだそこが追いついていない。


このヒトの問題については、出資する企業側と、出資を受け入れるスタートアップ側の双方に課題がある。

まず、企業側の課題は、 CVC から出資した場合に何らかの形でスタートアップの成長を、資金以外の面でもサポートしていくのが一般的な CVC の在り方かと思うが、その際に CVC の企業側担当者が、出資先スタートアップとの組み方に不慣れで、スタートアップ企業の特性を理解しておらず、下請けと同様に扱っているのであれば思うような成果に繋がらないだろう。つまりスタートアップ企業についての理解があり、新たな価値を共創できるCVC側の人材が必要になっている。CVC を作ること自体はお金を用意して運営者を委託する先を決めれば比較的簡単ではあるが、CVCのカネを活かしてインベストメント・リターン以外の価値を生める人材を作ることは、それほど簡単なことではないだろう。

スタートアップ企業を理解し、起業家マインドの理解と醸成を目的に、昨今ではスタートアップへの出向を取り持つビジネスも事業として生まれてきているが、ローンディール社の事例数は47社134名とまだまだ少数に留まっているという印象を持つ。

出向に踏み切れないのが企業(人事)側の問題が大きいのか、出向対象になる社員側の問題が大きいのかは分からないが、なかなか進まない出向に代わるサービスも開始されたようだ。

他方、出資を受け入れるスタートアップの側は、その人材をどう幅広く得ていくか、という課題がある。学生など若手の起業も有益だが、同時に大企業勤務を始めとして社会人経験を積んだ人がそのビジネス経験とスキルや技術などを最初から持った状態でスタートアップを起こすことも、会社を大きくするための時間を短縮できる効果も見込めるなど、有益で推奨されるべきだろう。

ただ、これまでの大企業を中心とした終身雇用を前提に手厚く従業員を守ってきた制度、裏返せば従業員が企業を離れ難くしている制度にメスが入らないと、こうした社会人起業のハードルが高いままだ。


この記事では大企業在籍・出身者のスタートアップについて取材されているが、特に大企業に在籍したままの起業の場合、本当に新たな事業に対してコミットしきれるのかという点で疑問を持つとは、この記事の中でも指摘されている。これは日本の労働に関する法律や制度が、起業家の存在や、ある企業をやめて別な企業に移ったり起業したりすることを十分に想定したものではない、というところに根源的な問題があると思う。新卒で入った会社を離れてしまうと社会的なセーフティネットが十分ではなく、さらにリスクを取って起業する人にはなおさらサポートが薄いため、この記事にあるようなスタイルを取らざるを得なくなっている一面がある。

日本の労働法制は雇用者に対して厳しい解雇規制をしているが、これは別な言い方をすれば、企業を離れた人のセーフティネットが十分に用意できていない、ということにもつながっているのではないだろうか。このため大企業を離れて起業することに対して二の足を踏んでしまう人たちも少なくないだろう。例えば、子育て中だったり面倒を見なければならない親がいるといった人が、そうした状況の中でも会社を辞めて起業できるような制度を作り、ヒトの面からも起業をサポートする社会のしくみ、そして法制度が整備されなければ、この問題は解決しないように思う。

これは単にスタートアップだけの問題ではなく、日本の企業社会のあり方、ひいては働き方全体の問題であり、法制度に手を付けることは拙速には進められるものではないとは思う。だが、多くの人の生活を守りながらも人材の流動性を高め、一時的に仕事を離れても安心して暮らしていける制度や法律が出来るなら、結果的にスタートアップにチャレンジする人も増える、そのような方向に法律も社会も変わっていく必要があるのではないだろうか。昨今のいわゆる「働き方改革」については、定年延長や残業抑制など、あくまで企業の中の人材が外に出ない前提での「改革」の 動きは強まったが、人材の流動性を高め、起業の可能性を作り出し、安心してチャレンジできる方向には、なかなか政策が打たれていないように感じる。

簡単な課題ではないことは十分に承知しているが、労働法制を再検討することも、スタートアップが一層この国で重要な社会的な役割を果たすために避けて通れないことであり、時間のかかることだけに、今すぐにでもそうした検討を始めなければいけない時期に来ている。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?