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自由民主主義は再起可能か?

2021年は、国際協調が復興するかあるいは、利己的で権力政治的な国際政治が加速していくかの、大きな分岐点となると考えます。また、自由民主主義が、その魅力と活力を取り戻せるかどうか、大きな転換点になると思います。

これまで19世紀は「パクス・ブリタニカ」、そして20世紀は「パクス・アメリカーナ」と、二つの自由民主主義の覇権国によって、世界史が動かされてきました。他方で、もしも中国がアメリカを上回るパワーを備えて、アメリカが衰退して影響力を後退させていけば、21世紀はこれまでとは異なるイデオロギー、そして国際秩序原理によって動かされることになります。

日経新聞が力を入れて取り組んでいる「パクスなき世界」の特集企画は、毎回魅力的な論者がインタビューに応じ、また記者が情熱的な記事を書いており、読み応えがあります。とてもタイムリーな特集であり、また記事の内容もよく考えられた企画です。そして今回は、納家政嗣上智大学名誉教授が、実にバランスのよい、そして鋭い洞察力の記事を書いておられます。

納家教授は、国際政治学の世界ではとても尊敬されている研究者のかたで、上智大学で緒方貞子教授の薫陶を受け、上智大学教授、一橋大学教授、そして青山学院大学教授を経て、現在は母校の上智大学で研究と教育に関わっておられます。私自身、慶應の大学院生だった頃に、納家教授が主催した上智での研究会に参加させて頂き、多くの刺激とご教授を頂きました。

納家先生の魅力は、安全保障研究と、国際政治経済学、そして国際政治史と国際政治理論と、それらを幅広く、バランス良く総合するとともに、つねに新しい情報でアップデートされていることです。ですので、私が担当した『アステイオン』第88号(2018年)の特集、「リベラルな国際秩序の終わり?」でも、納家先生に巻頭に「歴史の中のリベラルな国際秩序」という素晴らしいお原稿をお寄せ頂きました。最近では、納家先生が編者となるかたちで、門下や元同僚の方々を中心におまとめになった、『自由主義的な国際秩序は崩壊するのか ー危機の原因と再生の条件』(勁草書房、2021年)で、自ら最先端の見解を示されています。

今回の日経の記事で、とても印象的だったのは、納家先生の次のような言葉です。

「中国は経済力をテコに勢力圏を広げているが、自由民主主義の代替になる秩序原理を提示できていない。どこまで中国が大きくなっても他国は警戒するだけで、自ら失点しているように見える。権威主義と自由市場経済の組み合わせの強さは戦後のアジアの発展をみれば、歴史的にも証明されている。ただ、それがどれくらい持続するのか、これから見極めないといけない」

これは、中国が抱えている問題、そして欧米が直面する危機、さらにはそのようななかで、戦後のアジアが困難の中から歩みべき道を摸索してきた歴史について、見事に、そして簡潔に描写されています。これこそが現在の国際政治が直面する現状であり、また歴史的な経緯から生成された国際秩序の現実であるように感じます。

中国を過剰に怖れる必要はない。中国は、世界を魅了して、世界に浸透させる秩序原理を有しているわけではない。他方で、アジア諸国がコロナへの対応でも、経済成長についても、「権威主義と自由市場経済の組み合わせ」という強さを見せていることは、とても重要な点だと思います。

将来は、科学的な法則性によってあらかじめ規定されているわけではない。だから、科学的な研究によって、将来を予測することなどはできない。できることは、われわれが将来に向けた想像力をはたらかせて、ファクトを元に現状を適切かつ冷静に理解して、それらの意味を歴史や思想を基礎に深く分析すること。それらのことを、とても自然体で、そして熟慮ながら行うことができる希有な国際政治学者が、納家教授であるように思います。



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