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同時流行は本当に発熱外来逼迫をもたらすのか?

 今年もあと1週間となりましたが相変わらず新型コロナ(COVID-19)の話題は尽きることなく、発生してから3年が経過しようとしています。12月中旬あたりから当院でもインフルエンザの患者さんが散見されるようになり、東京都では12月22日に流行期に入ったと公表しました。

東京都は22日、季節性インフルエンザの流行期に入ったと発表した。定点医療機関からの1週間あたりの患者報告数が1.12人と、流行開始の目安となる1.0人を超えた。新型コロナウイルスとの同時流行の恐れもあり、都はワクチン接種やこまめな手洗い、必要に応じたマスク着用などを呼びかけている。季節性インフルエンザの流行期に入るのは2019年以来、3年ぶり。今期は12月18日までに、都内の学校や社会福祉施設などでインフルエンザが疑われる29件の集団感染事例が報告されているという。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC226CR0S2A221C2000000/

このような状況になり医療体制の現状はどうなのでしょうか。

 東京都内で定点当たり患者報告数が 1.0 人/週を超えた保健所は都内 31 か所中 11 か所で報告数が 高い順に、北区(2.64 人)、八王子市(2.56 人)、荒川区(2.33 人)、町田市(2.08 人)、 練馬区(1.95 人)、渋谷区(1.86 人)、世田谷(1.84 人)、中野区(1.80 人)、南多摩(1.64 人)、多摩小平(1.27 人)、多摩立川(1.10 人)となっており、私の施設のある千代田区はまだ1未満です。しかし当院は定点ではありませんが既に1週間に3人ほど陽性者が確認されており、この定点の設定も妥当なのかと考えてしまいます。
 昨年末はアフリカで発生したオミクロン株がいつ国内に流入してくるのか、流入したら第6波になるのか等が議論されていましたが、1月に初めて確認された後は瞬く間に国内で拡散し、2月には第6波のピークを迎えました。ただ昨シーズンはインフルエンザの発生がほとんどなかったので、発熱外来ではほぼCOVID-19診療に特化されていたわけです。ところが例年のインフルエンザの本格的な流行は1~2月であることを鑑みれば、その流行の程度によって発熱外来の負担が増えるかもしれません。ただメディアなどで「逼迫・逼迫・逼迫・・」などと強調されていますが、実際のところはどうなのでしょうか?
 東京都は発熱外来が逼迫しないように「発熱などの症状が出たらまずご自身で検査をしてください」(*重症化リスクのある方や小学生以下の子どもは発熱外来を受診)「COVID-19の検査が陽性であった場合には陽性者登録センターにご自身で登録してください」とホームページで案内をしています。

 したがってこの案内をよく理解していればいきなり発熱外来を受診することは避けられるはずです。またこの情報を知らずに直接発熱外来に問い合わせをしても、外来における電話対応でこのような案内はできるはずです。
 当院では年齢や基礎疾患の有無などを確認したうえで患者さんに対して同様の案内をしており、9月末にこのような体制が整備されてから問い合わせはある程度はあるものの発熱関連受診者数は大幅に減っていますので、第6波や7波の時に比べればかなり余裕があり、通常の診療にも時間を割くことができています
 現在COVID-19関連で受診するのは「高熱が出て自宅で抗原検査をしたが陰性であった」「陽性であったので内服薬が欲しい」などという方々が多くなっています。自身で検査をして陰性であったが受診して検査をすると陽性である方はかなり多い印象です。多くの方は検査のタイミングが早すぎる(高熱が出てすぐに実施している)場合や検体が十分に採取できていない(ぬぐいが不十分)などの理由であると思われます。
 ただ最近はCOVID-19検査が陰性であってもインフルエンザが陽性の方も散見されますので、同時検出キットを使用することが多くなりました。この同時検出キットも市販されるようになりましたが、インフルエンザも同様に検査のタイミングが早すぎると正確な結果が得られないことを十分に理解しておく必要があります。
 このように積極的な情報提供を行い国民の理解を得ることで発熱外来受診者は制御することができるようにも思えるのですが、医療側としては逼迫してでも多くの患者さんを受け入れるメリットがあることも事実です。2類相当であることから得られるCOVID-19関連の報酬です(ここからは弱小診療所のつぶやきと思ってください・・)。
 発熱外来を掲げる施設で1人の発熱患者さんを受入れて抗原またはPCR検査をした場合、初診料などのほかにトリアージ加算(時間や空間をわける)、2類相当感染症患者入院診療加算、受診当日に診断すれば救急医療加算などが加わり、おおよそ27,000円近くの報酬となります。検査をしなければ半額以下ですので、発熱外来を掲げていればたとえ発熱していなくてもCOVID-19疑いでひたすら検査だけすれば大きな収入源となるのです。それでも患者さんの窓口負担額は検査をしてもしなくても検査に費用はかからない(公費負担である)ので変わりはないのです。私は当初より何でも構わずやみくもに検査をすることには賛同できませんでしたので、現在でも発熱しておらず検査の必要性が低いと考えられた患者さんに対しては、時間をかけた説明のうえで検査をしないこともよくあります。それでも同意していただけない場合には無料の検査場や都の検査キット送付案内をお知らせし、翌日などに発熱すれば再診していただき検査を行っています。
 人口が多い自治体では発熱患者さん自体も多いことは理解できますが、「逼迫」を避けるためにウェブサイトや受付での電話案内などを積極的に行うことにより、受診する必要性の低い方々を減らすことは可能なのではないかと思うのです。少し乱暴な言い方になるかもしれませんが、「やみくもに検査だけすることで報酬が上がり受診者からは喜ばれている」施設はもしかしたら逼迫するのかもしれませんが、その費用は多額の税金で賄われている訳で、「問診や症状から本当に必要な方に対してのみ適切に検査を行い、しっかりと説明をしたうえでフォローしているにもかかかわず、検査を渋っているなどど揶揄される上に報酬もその分少なくなっている」施設にとってはわりに合わないようにも感じてしまうのです。
 私も経営者ですので報酬額はとても重要なところではあるのですが、やみくもに検査ばかりをすることは好ましくないと考えていますし、来年度予算額が過去最大となったことを考えると、これまでのCOVID-19関連予算の使い道をもう少し吟味した方が良いのではないかと考える今日この頃です。皆様はワクチンも含めたCOVID-19関連医療費のあり方についてはどうお考えでしょうか。

#日経COMEMO #NIKKEI

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