見出し画像

サイボウズの取締役制度からの気付き ~ガバナンス(≒もしもの時にCEOを牽制する仕組み)を機能させるには、「情報の見える化」がとても重要な理由を学術の視点から考える~

 サイボウズの株主総会が話題となっています。同社は、社内公募で自薦した取締役候補17人の選任議案を、株主総会で審議しました。社内公募による取締役選任は、ほぼ聞かないので驚いた人も多いと思います。また、一部の有識者には、

「取締役は、CEOをガバナンスするのが仕事。つまり、もしも業績が悪化したり、CEOの不正を見つけたら、CEOを解任するのが仕事。社員からの公募では、CEOにモノを言えるわけがない!!!」

 という方もいました。しかし、上述の考え方を押し付けるのは時期尚早なのかなと感じました。私は、仕事でもサイボウズにはお世話になっているので贔屓目に視ていることはあるかもしれません。しかし、学術的に見ても、サイボウズの取り組みはガバナンス的にも興味深いところが多いのです。今回は、そう感じた理由を記載していきます。


なぜ取締役が居ても、CEOによる企業不正が消えないのか?

 そもそも、この世の中にはCEOによる企業不正は山ほど起きています。そして社外取締役という、社内取締役よりも厳しくCEOを牽制するのが仕事の人が企業内に存在していても、CEOによる企業不正が起きています。なぜでしょうか? それを考えるために、CEOをけん制する仕組みには、何が必要かを先行研究をベースに考察します。

 下記の研究では、そもそも取締役の仕事の種類を整理しています。そこでは、①CEOへの経営アドバイス、②不正を防ぐためのCEOモニタリングに分けています。この論文では、どちらの仕事も「社内情報にどうアクセスできるかが鍵」と、理論的に指摘しています。仮に、②ばかり頑張りすぎても、CEOに煙たがられて、社内情報にアクセスできなくなれば(≒CEO主導で情報を隠蔽しかねない)、①も②も遂行することができません。なので、この論文では、機能する取締役会(①も②も両立して株主価値を向上させるような取締役会)を構築するためには、取締役が社内情報を入手できる環境を創るために、①と②のバランスをとりながらCEOと向き合うことの重要性を報告しています。つまり、CEOによる企業不正を社外取締役が未然に防げないケースが存在しているのは、社内情報にアクセスしにくい環境も影響しているのです。CEOが隠蔽し続けていたら、判明しにくいですよね…

RENÉE B. ADAMS  and DANIEL FERREIRA, 2007, "A Theory of Friendly Boards" HE JOURNAL OF FINANCE•VOL. LXII, N0. 1

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1540-6261.2007.01206.x


社外取締役がいても必ずしもガバナンスを効かせられないケース

 上述の学術研究を踏まえると、取締役の人数や、社外取締役の数だけではなくて、「情報アクセスの容易さ」が、機能する取締役会には必須なのです。サイボウスの取締役制度について、記事中では下記のように記載されており、社員・取締役・CEO間で徹底的に情報の見える化をしている環境では、誰もがCEOに牽制しやすい環境なのかもしれません。

 そういう意味では、一概に批判できる制度ではないし、むしろ情報の見える化をしていない企業では、取締役がCEOをけん制はおろか、経営アドバイスするのも難しいのではないでしょうか。CEOが隠蔽体質では、何もできません…


株主総会では株主が「売上高(2020年12月期で156億円)などで会社の規模を考えれば取締役17人は多いのでは」との質問をネット上から寄せた。青野社長は「情報を徹底的にオープンにすれば人数自体は問題ではない」と応じた。株主総会後には日本経済新聞の取材に対し、「これまでも全社員が取締役の役割を担い、互いを監督し誰もが助言できる組織をめざしている」と述べ取締役の人数にこだわらない理由を説明した。



サイボウス社の今回の取り組みは、「社外取締役を数だけそろえるのでなく、CEO側も徹底的に情報をアクセスしやすい環境を率先して作り出すことで、真に機能する取締役会が創れるんだよ!」と、多くの投資家に教えてくれているよな気がします。これからの動向が楽しみです!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

崔真淑(さいますみ)


(画像は崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より引用。無断転載はおひかえくださいね)


コラムは基本は無料開示しておりますが、皆様からのサポートは、コラムのベースになるデータ購入コストに充てております。ご支援に感謝です!