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アマゾンが約760億円を投じる10万人の再教育計画について考えること

7月11日に報じられたアマゾン・ドット・コムの人材再教育プログラム、『Upskill2025』プログラムは知れば知るほどいろいろと考えさせられるニュースでした。

このプログラムは今後2025年までの約6年間で米国従業員の3/1にあたる10万人に対して7億ドル(約760億円)を投じて技術的なスキルを中心としたキャリアアップの支援を行う、というものです。企業による社員のスキルアップを後押しする取り組み、ということで称賛、先端的な取り組み、という受け取め方をする方も多いと思います。

実際自分自身も最初にニュースを見た時には、そのような印象を強く抱きました。ただ、以下のようなキーワードを念頭に置きながら改めて考えて見ると、一筋縄ではいかないいろいろな課題を考えるきっかけにもなりました。

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①近い将来に予測されるロボット化・ドローン導入による大規模リストラの可能性(実際いくつかの倉庫(フルフィルメント・センター)では大規模なロボット導入が進んでいて、いずれ人間の仕事はロボットのメンテナンスだけになるのかもしれない、という未来がまことしやかに指摘されています)。そのような観点からすると、いずれ大規模リストラを断行せざるを得ない時に、再教育プログラムを既に先んじて提供している、ということを政府や規制当局にアピールする材料になるという保険としての視点も見え隠れします。

②近い将来アマゾンが米国で最大の雇用主になる可能性(現在は世界中で約65万人、米国内約30万人。米国内ではウォルマートの230万人が最大で2番手)これだけ大規模な雇用主がリストラを行う際のインパクトはとても大きなものになりそうです。

③以前から問題となっている倉庫における労働環境に対する批判(7月上旬に放映された「Last Week Tonight」でも今年の7月15日・16日に予定されているプライム・デーを控え、過剰なノルマや、安全面の配慮のなさ、不安定な雇用条件などを揶揄する内容が紹介されています)。プライム・デー当日にはミネソタなどで労働者のストライキが予定されています。このようなタイミングで大規模な再教育プログラムの発表をすることはPRの観点からみても優れた戦略と言えるかもしれません。待遇に関しては昨年秋に最低賃金を15ドルに引き上げる措置をとり、求人への応募数が倍になったそうです。

④歴史的な低水準の失業率(3.7%)と難易度を増す優秀な人材獲得競争
今年の春の時点のFastCompanyの記事によると、アマゾンの求人数は28,000もあり、ホールフーズのマネージャーから倉庫のピックアップスタッフ、プライム・ビデオの制作プロデューサーからAI、データサイエンティストまで、常に優秀な人材を求めています。会社のカルチャーを分かっている既存従業員を育成する、という視点は、国内でも今後増えていきそうです。

⑤教育プログラムによって誰もが優秀な技術者にすぐになれるか?という疑問

今回のプログラムの内容は技術的なバックグラウンドの有無に関わらず等しく機会が提供される、とはいうものの、いきなり倉庫のピックアップスタッフがソフトウェア・エンジニアやデータサイエンティストになれるのかというと、そこまで簡単なものではない、と穿った見方をしてしまいます。とはいえ、既に素地がある優秀な人材がより多く応募するきっかけ(採用広報)としては、一定の効果があるのではないかと思われます。

アマゾンのHRを率いている優秀なプロフェッショナルの存在
今年は2日間で60億円の売上規模が予測されているアマゾン・プライムデーの直前に発表された従業員再教育への巨額投資、というニュース。こうしていろいろな視点から考えるにつけ、アマゾンの先の先の先を見越した優れた戦略、という点でも意義を見出すことが出来ると思います。

アマゾンの人事部門のシニア・バイスプレジデントであるベス・ガレッティ(Beth Galetti)氏の手腕にも注目が集まります。前職フェデックスでのエンジニアとしての16年間に渡るオペレーション管理経験を経て、6年前にアマゾンに入社した人物です。人事経験が全く無かったにも関わらずジェフ・ベゾスからの信頼も厚く、現在では18名の幹部メンバーとして女性としてただ1人参画しているそうです。エンジニアならではのバックグランドを活かし、社内の人事管理ソフトウェアを開発する約600人のチームも率いながら、アマゾンの急成長を支えています。今回の再教育プログラム策定も彼女のリーダーシップが発揮されたからこそ実現したのではないかと推察します。

さて、国内でも年金2000万円問題をきっかけに、人生100年時代の稼ぐ力、リカレント教育、副業などの話題が今後ますます拡がっていくことと思われます。先見性を持ち、猛スピードで進んでいるアマゾンの取り組みから学ぶことが出来る点は数多くありそうです。

Photo by Bryan Angelo on Unsplash

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