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楽天はファーウェイの代替を提供できるのか?―世界がその挑戦を注目する理由 #世界経営者会議

日本で楽天のモバイル事業と言えば、今年新規参入を果たしたチャレンジャーであり、中小携帯事業者というイメージが大きいかもしれない。

しかし、楽天が、革新的な技術を開発して従来のネットワーク構造を根本的に変革することに成功し、通信業界はもちろん、米欧諸国の政府の間でも「ゲーム・チェンジャー」として認識されていることをご存じでしょうか。

今週第22回日経フォーラム「世界経営者会議」が開催され、私も日経COMEMOのキーオピニオンリーダーとして、ロックダウン中のロンドンからオンラインで参加する機会をいただいた。

今年はテック企業だけでも、MicrosoftやIBM、楽天等ののCEOが登壇し、クラウドや量子コンピューティング、完全仮想化通信技術など、イノベーションを巻き起こしてきた登壇者が揃い、豪華なラインアップ。

日頃から、デジタル技術を巡る大国間競争を追っている身として、今回特に取り上げたいのは、モバイル通信ネットワーク業界のゲーム・チェンジャーとして世界から高い注目を集めている楽天の三木谷CEOのセッションだ。三木谷氏は自社の技術力を世界に売り出していく熱い意気込みを語られていた。

三木谷氏は4月に本格参入した携帯電話事業について「将来的に通信網技術の海外輸出で売上高は軽く1兆円を超える」と述べ、投資・運用コストを抑えられる仮想化技術の海外展開に注力していく方針を示した。

将来的には、国内と国外の売り上げが逆転される可能性もあり得るとも述べられた。以下、楽天がなぜゲーム・チェンジャーとして認識されているか、また、英米で5Gを巡りどのような議論が展開されているか論じる。

楽天がなぜゲーム・チェンジャーなのか

E-コマース国内大手の楽天のモバイル事業への拡大が、世界から注目を集めるきっかけとなったのは、従来のモバイル・ネットワーク・システムの構造やビジネスモデルを根本から変える技術を世界で最初に成功させたことにある。

クラウド上にあり、完全仮想化技術を用いて実現される楽天のネットワークは、これまで専用機器に依存していたシステムを、ハードウェアとソフトウェアに分離させることを可能にし、ソフトウェアのアップグレードによって4Gから5Gに移行できる極めてシンプルなネットワーク構造になっている。

輸出する携帯の通信基盤は「RCP(楽天・コミュニケーションズ・プラットフォーム)」。基地局にコストが高い専用機を使わず、汎用機とクラウドを使う独自方式で、投資・運用コストを3~4割削減できるという。

特に基地局の無線アクセス通信(RAN)部分を早期にハードウェアから分離し・仮想化させ、端末に近い場所でデータ解析・処理を行うエッジ・コンピューティングを実現させた点が革新的だった。導入済みの汎用機を使用し、ソフトウェアをアップグレードするだけで、ユーザーが最新・最先端の機能やサービスを享受できる仕組みになっている。

専用のハードウェアを置き換える必要が無く、投資・運用コストの大幅なコスト削減が可能になったことは、まだ2Gや3Gの利用が多く、これから4Gや5Gを導入したい新興国にとってもメリットが大きい。楽天はインドやシンガポールでも研究開発や実証試験を行っている。

また、オープン化されたシステムを用いて世界初めて商用サービスを展開した点においても、ゲームチェンジャーであると言える。これまでのネットワークは、一社がすべての専用機器を開発する「垂直統合型」であり、5GのRAN市場(基地局)においてはエリクソン、ノキア、ファーウェイによる寡占化が問題視されてきた。

近年、ベンダーの多様化を目指し、複数の企業それぞれが最適な機器を提供してネットワークを作り上げる「水平分業型」の動きが産業界で進み始めている。

例えば、2018年に、米国のAT&Tや日本のNTTドコモ、フランスのOrange等を始めとする通信事業者等は、「O-RAN Alliance」という産業コンソーシアムを立ち上げ、異なるベンダーの機器間の相互運用可能なオープン・インターフェース仕様を策定し始めた。

このシステムは「Open RAN」 と呼ばれている。現在は200社を超える通信事業者やベンダー、研究機関が参加している。このコンソーシアムも、汎用機を用いたソフトウェアベースのシステムを推進し、従来の通信機器ベンダーのみならず、IT企業のモバイルネットワーク市場への参入を可能にしている。

楽天のシステムも、オープン化された機器を組み合わせている。日本で展開しているシステムは、ハードウェアは日本のNEC、ソフトウェアは米系IT企業のAltiostarやMavenirのシステムを統合している。海外展開する際には、他のベンダーとの組み換えも、理論上は組み換えが可能になるわけだ。

ホワイトハウスから呼ばれた楽天-仮想化、オープン・アーキテクチャーへの関心の高まり

そのような特徴を持つ楽天のプラットフォームは、ファーウェイ製の5Gの代替候補の一つとして、各国政府から高い関心を集めている。

まずは、米政府だ。背景には、デジタル空間おける中国との技術覇権争いがある。トランプ政権は、ファーウェイ等の中国製5Gは中国共産党の諜報活動に用いられる等、安全保障面のリスクが高いと主張し、自国はもちろん、同盟国に対しても排除するよう働きかけてきた。

米国にとっては圧力外交を展開する一方で、安価で良質なファーウェイ製5Gのオルターナティブとなる魅力的なオプションを提供できないことがネックであった。アメリカも日本と同様に、5Gシステムの全体を一社フルパッケージで提供できるベンダーが無いからだ。

楽天のシステムは、ファーウェイ製5Gの代替、さらには中国の先を行く技術を追い求めていた米政府の意向とぴったり合っており、米国の強みであるソフトフェア技術を生かすことができるからだ。また、通信業界へ新規参入を目指す米系IT企業の取り組みともタイミングがぴったり重なったのだ。

特に、今年に入ってから「Open RAN」システム及び仮想化技術による5Gが、ホワイトハウスレベルで注目されるようになった。

例えば、5Gサミットの開催を提唱したことが挙げられる。新型コロナウィルスの爆発的拡大により、キャンセルされてしまったが、米国のAT&TやT-MOBILEを始めとする代表的通信事業者の他、楽天も技術力が評価され、数少ない海外事業者として招致された。

また、同時期に、国内の5G政策をまとめている連邦通信委員会(FCC)もRANの仮想化技術についてのフォーラム開催を発表し、その際も楽天が登壇者として招かれた(FCCのフォーラムも延期された後、9月に無事開催された)。

その他の動向としては、米議会がOpen RANの研究開発を推進するため、超党派で法案を提出していることや、CIAが運営するベンチャー・キャピタル(In-Q-Tel)が数年前からソフトウェアベースのネットワークに目を付けて投資を始めていたこと、国防省の中で関心が高まり、早期展開を目指すために米軍基地をテストベッドとして利用する案を出していることが挙げられる。

ファーウェイ排除に転換し、慌てて代替を模索する英国政府も注目

少し遅れてOpen RANや仮想化技術への関心を高めたのが英政府だ。4Gの大部分をファーウェイに依存していた英国は、当初今年1月に同社の5G製品を限定的に導入する決定を行った。
しかし、パンデミックを機に対中感情が悪化したこと、保守党から脱中国依存の声が高まったこと、そして米政府による輸出管理強化がもたらすリスク等を理由に、半年で決定を反転した。2027年までの5G網からファーウェイのシステムを排除する決定をくだし、慌てて代替となるベンダーを探している状況だ。

もちろん従来から、特定ベンダーによる市場の寡占状態を問題視する声があり、英国に通信機器ベンダーが無いことや現状が「市場の失敗」であるという指摘がされてきた(2019年の報告書)。

今年7月に、オリバー・ダウデン デジタル・文化・メディア・スポーツ大臣がファーウェイ排除の決定を発表した際、初めてOpen RANの研究開発への投資に意欲を見せたことに注目したい。

その際、日本でOpen RANに積極的に取り組んでいるNECや韓国大手のサムソンとの協力をもほのめかした。同省は、9月23日、に通信事業者や専門家を招集してタスクフォースを立ち上げ、ベンダー多様化に向けた戦略を年末までにまとめる準備を進めている。

また、議会でも関心が高まっている。9月には、英国議会下院の科学技術委員会で、英国内における通信インフラの今後について検討するセッションにおいて、楽天が証人として招かれた。そこで楽天モバイルCTOのタレック・アミン氏が英国を含む世界に自社のネットワークを拡大させる意欲を示した。

10月に入ってからは、イギリスの放送通信分野の規制機関であるOFCOMも、下院の防衛委員会もOpen RANへの期待を示した(参考、5Gのセキュリティーについての報告書)。

日本・世界の期待に応えられるのか

これほど注目を高めている楽天のプラットフォームだが、海外の通信事業者が実際に使用するかという点では、まだ戸惑いの声もある。

一番多いのは、クラウドネイティブで実現する完全仮想化ネットワークという新しい技術が、本当に大規模展開させられるのかという点であり、トラフィックが密集する都市部ではなく、地方のローカル5Gでしか展開できないのではないかと、懐疑的な見方がある。

例えば、今年2月、ウィリアム・バー米司法長官は新技術が「絵に描いた餅(Pie in the sky)」だと発言したことがあった。英政府や議会も興味を示しているものの、技術の成熟度にはまだ懐疑的であり、完全仮想技術が自国5Gのロールアウトプランに間に合うかどうか、様子を見ているようだ。

楽天が世界展開できるかどうかは、日本での実証実績をいかに作れるかにかかっている。

日本政府も、国内における5Gの早期展開を促進するため、オープン性のある技術を採用する通信事業者に税の控除を認めたり、異なるベンダー間のシステムを相互運用可能にするための研究開発費を予算に計上したりする等、他国に先駆けてオープン化を推進するサポート体制を整えている。

以上のような課題は残るものの、楽天が世界で初めてソフトウェアによるネットワークの完全仮想化により、世界の通信業界にイノベーションを巻き起こそうとしているのだ。各国がベンダーの多様化を目指し、5G及びその先の6Gに向けて研究開発を加速化させる中、日本のIT企業のネットワークプラットフォームが注目されていることは、夢があり、わくわくするような話ではないか。

三木谷氏は、

友人であるテスラ、スペースXなどを創業したイーロン・マスク氏について「ゴルフで言えばドライバーで400ヤード飛ばすくらい振り切っている。チャレンジを楽しんでいる。だから自分も携帯電話事業で振り切った」と話した。

リスクを取り、「振り切った」という言葉や、若い実業家には「世の中の構造を変えるインパクトを与えてほしい」という最後のメッセージはとても大きく響いたのではないか。

今後、欧米及びアジアで展開をどのように進めていくことができるのか。ロンドンから引き続き注目したい。

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国際問題戦略研究所(IISS)研究員として、ジャパンチェアの立ち上げや日本の防衛・安全保障政策や米国のアジア政策の分析・発信しています。 米国ロサンゼルス生まれ。慶應法学部卒、ジョージタウン大学外交政策学院修了。趣味はジャズ・ストリートダンス、お料理。 ※投稿は個人の見解です

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