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「プロメア」興収10億円突破 活気づくアニメの中小規模公開

5月24日に全国公開した劇場アニメ『プロメア』の興行収入が、このほど10億円を超えました。公開から2ヵ月半かけての達成です。
興収10億円は映画ヒットの目安のひとつで、大きな記録です。それでも『天気の子』が100億円超えを視野、劇場版「名探偵コナン」シリーズが90億円を超えるなかでは10億円を小さく感じる人もいるかもしれません。しかし『プロメア』の10億円突破は、いくつもの快挙となっています。

ひとつは興行規模の視点です。『プロメア』の公開当初のスクリーン数は198と中規模になっています。アニメに限りませんが、映画の興行収入は公開スクリーン数(作品を上映する劇場数)に左右されがちです。
例えばハリウッドの大作映画ですと公開初日に400スクリーン以上が用意されることが珍しくありません。
劇場の座席数の違いもありますが、むしろスクリーン数の違いは広告宣伝費の差に直結します。宣伝露出の差は興行成績を左右しがちです。中小規模からの10億円突破は、限られた特別な作品だけが達成するものなのです。

『プロメア』は世界中でカルト的な人気を誇るアニメスタジオのトリガーが、『天元突破グレンラガン』の今石洋之監督、中島かずきの脚本で制作した意欲作です。当初からかなり期待をされての登場になりました。
ただしテレビアニメからの展開でもなく、原作もないことでの知名度の弱さがありました。アニメ情報サイトの「アニメハック」によれば、5月24日(金)~26日(日)の初週末3日間の興行収入は9800万円弱でした。通常であれば、この時点で予想される最終興行収入は4億円~7億円ぐらいでしょうか。
10億円突破は公開当初の予想を覆した点でも異例です。公開後に評判を確実に高めていったことがわかります。
大逆転の理由はやはり、作品の出来のよさに尽きるでしょう。私の周りでも、当初からすごい迫力、いままで見たこともない映像表現と絶賛する声が相次ぎました。当初は知られていなくても、口コミが作品の支持を確実に広げました。そこには作品に魅せられたファンの情熱があったはずです。

中小規模公開とはいえ、『プロメア』の198スクリーンは大きめです。もうひとつのサプライズは本作の配給を「東宝映像事業部」が担当していたことです。『プロメア』は東宝映像事業部配給で初めて興行収入10億円を超えたアニメ作品なのです。
東宝は数々のヒット作を配給する巨大映画会社ですが、その配給には「東宝」と「東宝映像事業部」のふたつがあります。東宝映像事業部は中小規模作品の配給担当の位置づけです。それだけに東宝配給作品に較べて、宣伝のリソースが限られています。東宝映像事業部は、近年ミドルサイズの劇場アニメに力をいれており、公開本数もうなぎ昇りです。ところが本数がある一方で、この10億円以上のヒット作がなかなか出ませんでした。

2010年代、『ラブライブ!The School Idol Movie』や『ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』といった中小規模からのサプライズな劇場アニメの大ヒットが続出しています。それらはアニプレックス、ワーナーブラザース、松竹、ショウゲート、東京テアトルなどの配給によるものでした。
巨大ヒットを連発する東宝ですが、「大きな映画興行を大きなヒットにする」のは得意ですが、「ミドルサイズの映画興行を大きなヒットに育てる」のは実は苦手だったのです。今回の『プロメア』が、それを覆しましたのも意味があります。

【2010年から2018年までの中小規模公開で興行収入10億円以上の作品】
■2018年 0本
■2017年 3本
『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』 25.2億円(アニプレックス)
『劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅰ.presage flower』 15億円(アニプレックス)
『劇場版 黒子のバスケ LAST GAME』 10.6億円(松竹)
■2016年 3本
『この世界の片隅に』 26.7億円(東京テアトル)
『映画 聲の形』 23億円(松竹)
『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』 10億円(東映)
■2015年 3本
『ラブライブ!The School Idol Movie』 28.4億円(松竹)
『ガールズ&パンツァー 劇場版』 24.5億円(ショウゲート)
『心が叫びたがってるんだ。』 11.2億円(アニプレックス)
■2014年 0本
■2013年 3本
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』 20.8億円(ワーナーブラザース)
『劇場版銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』 17億円(ワーナーブラザース)
『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』 10.4億円(アニプレックス)
■2012年 0本
■2011年 1本
『映画 けいおん!』 19億円(松竹)
■2010年 1本
『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』 10.7億円(ワーナーブラザース)
*公開当初のスクリーン数がおよそ200以下の作品をピックアップ

さらにアニメ業界にとっても、2019年が劇場アニメにとって特別な年になりそうです。上記のリストから中小規模の10億円超えは2010年代に入っても、毎年0本から3本と限られていることが判ります。やはり増えたとはいえ、ひとつひとつが特別な事件なのです。

ところが2019年は、これが続出しています。すでに『劇場版 Fate / stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly』、『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』、『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』、『コードギアス 復活のルルーシュ』が10億円ラインを越えました。『プロメア』は5本目です。
さらに『劇場版シティハンター 新宿プライベート・アイズ』はもともと中小規模公開を予定していましたが、公開前の反響の大きさからスクリーン数を急遽251に大幅拡大した経緯があります。
限られた興行と宣伝リソースから予想を超えるヒットを生み出す、劇場アニメならのビジネスのノウハウがさらに巧みになっている。2019年の劇場アニメの異変は、そんなことを感じさせます。

【2019年(8月13日まで) 中小規模公開の劇場アニメヒット作】
『劇場版 Fate / stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly』 16億円超(アニプレックス)
『劇場版シティハンター 新宿プライベート・アイズ』 15億円 (アニプレックス)
『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』 14億円超(松竹)
『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』 10億円超(松竹)
『コードギアス 復活のルルーシュ』 10億円超(ショウゲート)
『プロメア』 10億円超 (東宝映像事業部)
*「劇場版シティハンター」は251スクリーンだが、中規模配給のアニプレックスとしてリストにいれた。

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数土 直志(すど・ただし)

ジャーナリスト。アニメーションを中心にエンタテイメント産業について、見て、聴いて、そして伝えています!

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