見出し画像

岸田氏の「令和版所得倍増」

岸田氏の経済政策は「新しい日本型資本主義」と銘打ち、新自由主義からの転換を掲げたものです。そして、当面のマクロ経済運営の3原則として、「デフレ脱却に向けアベノミクス三本の矢を堅持」「コロナ禍への万全な対応のため財政積極活用」「経済正常化を目指しつつ財政健全化の旗を堅持」としています。

この点に限って判断すれば、岸田氏が描く経済政策は基本的にグローバルスタンダードな経済政策であるアベノミクスを継承しつつ、小泉構造改革以降に主流となった新自由主義を転換して、成長と分配の好循環を目指すということになるでしょう。

再分配政策に大きく影響しているとされるのが、岸田氏が6月11日に設立した格差是正のための再分配を重視した経済政策を検討する議連です。そして、総会には最高顧問に就任した安倍前首相と麻生財務大臣や甘利税制調査会長らも出席しています。

また今回、岸田氏が打ち出した政策の特徴として、これまで岸田氏の代名詞であった緊縮財政色が薄まっていることが指摘できます。実際、今回打ち出された新型コロナ対策でも、持続化給付金や家賃支援給付金の再支給、困窮世帯を対象とした家計向けの給付金などを提言しており、数十兆円規模のコロナ対策の財源は国債で賄うとしています。

こうした政府と中銀が協調する政策は、コロナショック後の主要国で行われてきたグローバルスタンダードなマクロ安定化政策であり、経済が正常化するまでは経済成長を最重要視し、あまり再分配に偏りすぎなければ望ましいマクロ安定化政策と評価できます。

しかし、経済の正常化を目指しつつ財政健全化の旗を堅持していることには注意が必要でしょう。というのも、岸田氏は子育て世代への住宅・教育費支援など中間層を拡大して令和版所得倍増を目指すとする一方で、年収1億円以上の所得税負担率の税率カーブが下がる1億円の壁を打破するとしています。そして、中間層復活のための政策として金融所得課税の見直しに取り組む意向も示しているからです。

経済正常化後に再分配政策を強化することは望ましいことです。しかし、アベノミクスが大きな成果を上げたのに、拙速な消費増税により経済の正常化まで至らなかったことからすれば、岸田氏の政策のカギを握るのは、経済が完全に正常化に至るまでは再分配より経済成長を優先し、いかに増税を我慢できるかでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?