開業医でのコロナ診療は何をしてもおそらく変わらない ー私はヒーローではない、当たり前のことをしているだけー

 厚生労働省は新型コロナウイルスの検査で、鼻の入り口から採取した検体を活用できるようにすると決めました。検体が簡単に検体を採取できるようになり検査拡大につながるとの考えです。

 ある程度の規模の病院では新型コロナウイルス検査はPCR検査も抗原検査も普通に行われていると推測しますが、疑われる患者さんの多くがまず訪れるのは身近な診療所であると思います。今でも「発熱患者お断り」という診療所が少なくありませんが、これから気温が低くなりウイルス感染症が流行する季節を迎えるにあたっては診療所の役割が高くなります。このような背景を踏まえ、院内での感染リスクを極力減らす方策として打ち出されたことと考えます。しかし、開業医からは「検査をすること自体が不可能」「万が一感染者が出たら診療を休止しなければならない」「スタッフの健康被害を考えたら到底同意できない」「感染者が出たことによりかかりつけの患者が来なくなるばかりか風評被害を受け経営破綻になる」といった意見が大変多く、特に感染者が少ない地方都市での傾向が強いようです。私の診療所は東京都心にあり区内の感染者は少ないですが、都内で最も感染者が多い新宿区に隣接しており、スタッフの支援もありこれまで多くの感染者の診療を医師一人で行ってきました。当然ながら自分が感染したら診療継続はできませんし、スタッフに感染させてしまったらご家族にも迷惑がかかってしまいます。それでも積極的に患者さんを受け入れ、診療を継続しているのは、これまで大学病院の感染管理責任者として培ってきた感染対策スキルへの絶対的な自信と絶対にスタッフには感染させないという感染対策の配慮からくるものと自負しています。医療に100%を求めることは不可能ですが、万全な対策を取り使命感をもって向き合っているつもりです。

 これから迎えるシーズンに向けてこのような考えを医師会や匿名による医師のメーリングリストに投げかけますが反応は冷ややかで、「風評被害はさけられない」「スタッフのことを考えたら到底できるわけがない」「どうぞ勝手にやってください」「一人でヒーロー気取りにならないで」などといった反応で、「他がやればいい」、「自分は関係ない」といった開業医の多さには愕然とします。すなわち、政府の「かかりつけ医での相談や診療を推進させる方策を真っ向から否定する意見」がほとんどなのです。その一方で、渡航者の検査や自費の検査は積極的に行うのに「発熱患者さんの検査はできません」などというような、患者さんからみれば「何で?」「何のために検査しているの?」と疑問に思われるような開業医も少なくはないのです。すなわち「検査が容易になる」、「感染リスクが減る」というのは検査拡大が推進するような印象を与えますが、地域の協力体制など上記の現状を打破できるような方策や支援を構築しなければ何をしても根本的な体制は変わらないと思いますし、それによる被害を被るのは皆さん国民ひとり一人ではないでしょうか。

 ただこれは医師であっても「コロナ脳」に洗脳された人間があまりにも多いことから波及するものとも考えられます。以前にも申し上げましたが、新型コロナウイルスはそう簡単に感染するものではありません。これまでインフルエンザの診療を適切な感染対策を行ったうえで感染したことがない医療者であればおそらく感染しないだろうと思います。日本では感染症に詳しい(自称ではなく学会専門医)医師が少ない現状ですので、医師であっても感染対策に対する正しい知識が身についていない人間が少なくはないのです。当院は感染症内科を専門としますので感染症に関する相談を連日受けているのですが、例えば(コロナに限らないですが)「他院で検査をしたら○○感染が疑われますと言われたのですが、どうも調べると違うような気がするので正しいことを教えて欲しい」といった感じです。詳しく話を伺うと、前医では「抗体検査陽性だったのでその感染症が疑われる、だから治療をしなければならない」という感じです。これはコロナに関しても説明してきましたが、「抗体陽性」というのは「過去の感染」を意味するので「今その感染症に罹っているので治療をしなければならない状態ではない」ことがほとんどです。それを前医は理解していない状態で患者さんに説明をしている訳です。新型コロナウイルスの流行が起こり、感染症に対する意識が高まったことで一般の方も専門知識を得る機会が増えてきました。しかし医師がそれに追いついておらず、かえって患者さんを不安にさせてしまっている現状を目の当たりにしています。医師はそれぞれ専門性を持っており、自分の領域には自信をもっているはずですので、それはそれでしっかりと発揮すべきですし、その反面「わからないことはわからない」と言える勇気をもって欲しいものです。

 我々感染症専門医はコロナ発生以前より適切な感染症診療を行ってきたつもりですし、コロナ発生で(例外的な事例を除き)何ら変わったことをしている訳ではありません。過剰な感染恐怖からくる「コロナ以外の健康被害」「風評被害」「差別」「誹謗中傷」など人為的問題解決の方がはるかに大きな課題であり、それによると思われる不幸な出来事が連日報道されることはとても残念に思います。

#COMEMO #NIKKEI

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