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「見た目は女性でも能力は男性と遜色ない、という態度でいました」ー【COMEMO KOLインタビュー】篠田真貴子さん

日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)篠田真貴子さんは、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレなどの外資系企業、「ほぼ日」CFOを経て、今年ベンチャー企業「エール」に転職されました。2人のお子さんを育てながらキャリアアップをしてきた篠田さんに、その背景にあった苦労や女性の視点から感じていたことなどを伺いました。


篠田真貴子さんのプロフィール
1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーの「エール」取締役に。家族は夫と長男(高1)、長女(小6)。趣味は料理。

▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で篠田さんの連載が開始しました。


ー女性が社会の中で活躍しキャリアを積むことについて、篠田さんはもともとどのようにお考えでしたか?

私が高校3年生のときに、「男女雇用機会均等法」が施行されました。ちょうど進学や将来について考え始める年齢だったものですから、とても明るい未来を展望しました。私の実家は、父がサラリーマンで母が専業主婦。父は、海外出張も多く「忙しく・楽しく」仕事をするタイプでした。私は小さい頃からずっと、自分の将来像を母よりも父に重ねてイメージしていました。

小さい頃はぼんやりと、なんとなく「働くんだろうな」くらいに思っていましたが、高校生の頃には、「ビジネスの世界で男の人と同じように仕事をする」というイメージがなぜか明確にありました。

私の大学時代はちょうどバブル期でしたから、かなり保守的な大企業でも、女性にキャリア職の門戸を開こうという動きが進んでいました。

ただ、今と比べればまだまだ。どの会社も女性はコース別になっていて、就職試験を受ける段階で「総合職」と「一般職」の選択肢があり、意思決定を迫られます。ですから、友人たちとによくそんな話をしていました。

私は「総合職」を選びましたが、「一般職」を選んだ友人ももちろんいました。私よりもずっと真面目で律儀な友人は「終身雇用にコミットできない」という理由で総合職を選んでいませんでした。一方私は「終身雇用っていったって、人生いろいろあるからわかんないじゃん!」と、面白く仕事をしたいという気持ちを優先して考えていました。

でもやっぱり面接に行くと、「なぜ総合職を受けるのですか?」「結婚したらどうしますか?」「お子さんが生まれたらどうしますか?」「あなたが総合職を受けることについてお父様は何とおっしゃっていますか?」と、そんな質問ばかり。私は正直に、「それはそのときになってみなければわかりませんが、少なくとも私は本気で仕事をしたいと思っているので、そのときに最善の手を尽くすとしか今は申し上げられません」と言っていました。

当時の社会規範からズレたことを自分がしているということはわかっていました。仕事をしたいという気持ちには一点の曇りもありませんでしたが、それは必ずしも社会に受け入れられるわけではない。ですから、常に「私はどっちを取るのか?」と天秤にかけることを、少し過剰にやっていたかもしれません。

ー外資系の会社にも、日本と同じような状況がありましたか?

日本の会社よりも薄かったと思いますが、やはりあったと思います。世界的にもまだ今の感覚よりはかなり遅れている状況でしたから。あくまで個人がどう生きたいかが中心で、それと会社がうまく合うならば雇用関係を結ぶ、というのが今の組織運営が優れていると言われる会社のスタンスだと思いますが、当時はまだそうなってはいませんでした。

ただ、外資系の会社が日本と少し違ったのは、基本的に仕事中心で、成果を求められるということです。私の直属の上司も女性で双子のお子さんがいらっしゃいましたから、子供を育てながら働くことにはかなりの理解がありました。在宅で仕事をしてもいいし、いろいろなことがフレキシブルで。

そういう点ではとても恵まれていましたが、子供がいる生活をリスペクトしてくれるというよりは、「そういう人もいるよね」という感覚です。子供がいてもいいし、フレキシブルに働いてもいいし、それで構わないから「ちゃんと仕事で成果を出してね」という温度感だったと思います。

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ーこれまでのキャリアの中で、女性であることを強く意識しなければならないような場面はありましたか?

「仕事に打ち込む」=「男性的」という価値観が世の中では根強かったですし、私自身もそういう意識をもっていました。そんな中で私は、「見た目は女性ですけど、能力は男性と遜色ありませんから」という態度でいました。そう表現するのが一番受け入れてもらいやすいですし、そうすることでしか自分の居場所を作れないと思っていたからです。

外資系の会社にいたこともあり、結局は仕事で成果を出せることが価値でしたから、そこに男女差はありませんし、実際に女性だからといって仕事面で何か不利益を被ったり、チャンスが回ってこなかったり、そのようなことはなかったと思います。それなりにうまく回っていると思っていました。

一番強く意識したのは、子供をもったときです。

母親である以上「こうしなきゃ」とか、自分が育ってきた環境と今の自分が置かれている環境は違うのだから、私はあれもこれも全部やる!とか。

仕事をすることも家庭をもつことも、人としては当たり前のことなのに、どうして私が両方やろうとすると、こんなにも大変になってしまうのだろうかと、悩んだ時期でもありました。

30代後半くらいになってくると、同世代の早い人たちは自分の名前で大きな仕事をし始めます。起業している人だけではなく、「実はあのプロジェクトは○○君がやったんだよ」と言った話が聞こえてきたりもします。

そのとき、仕事に100%没頭できない自分の毎日の生活に対して、ドロドロした気持ちを抱えながらも、負けず嫌いの性格なので、今これだけしんどい思いをしているのだから、これが将来の自分の人間的な成長や仕事をする上での成長につながるはずだし、そうならなければ嘘だと思っていました。妙に意地を張って頑張っていた気がします。

ただ、孤独に戦っていたわけではありません。子供を育てながら職務をハイレベルにまっとうする先輩たちが常に周りにいる職場でしたから、ちゃんと理解をしてもらえていました。それも、例えば子供が熱を出せば「早く帰ったほうがいい」と言ってくれますが、でも「今週末までにこの仕事はやっておいてね」というところは譲らない。甘やかす理解ではなく、ちゃんと私に期待してくれる。期待してもらえるということが、私自身のモチベーションになるということも、わかってくれていました。

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ーこれまでにした一番大きな失敗・挫折があればお聞かせいただけますか?

キャリア上での失敗という意味では、マッキンゼーの仕事を甘く見ていたことでしょうか。結果、基準に達していないという評価を受けることになりました。厳しい会社ですから、事実上「お引き取りください」と言うことになりました。30代前半の頃の話です。

そうなってしまった理由はたった1つで、私が「いい気になっていた」からです。自分のキャリア展望を広げたいという思いから、アメリカの希望の大学に入ってMBAを取得、そのタイミングで結婚、マッキンゼーに内定。自分の望むものは狙えば手に入るというような間違った誤解と、それほど必死にならなくても私は大丈夫だ、といういい気になりすぎの状態が修正されないまま、マッキンゼーに入って何年かを過ごしてしまいました。

今振り返れば、その間にも心ある先輩は注意してくれていました。でも、まったく耳に入っていませんでした。かなり明白に自分が悪い状態だというフィードバックをもらって、初めて気づいたほど認識にズレがありました。

その後、心を入れ替えてみたものの、ついてしまった差はそれほど簡単に埋まるものではなくなっていました。

マッキンゼーを辞めることになり、恥ずかしくて人には言えませんし、しばらくはとても鬱々とした気持ちがありました。その後、キャリア形成コンサルタントの伊賀泰代さんから連絡をいただきました。

伊賀さんはマッキンゼーの採用マネージャーで、私も伊賀さんがマネージャーだったときに採用された一人です。当然伊賀さんは、私の会社での評価も辞めた事情もすべてご存知でした。

伊賀さんはその頃、マッキンゼーを辞めて独立され、自分の事業を始めていました。ちょうど「採用基準」が出版された直後くらいです。伊賀さんのウェブサイトに、様々なキャリアをもつ人をインタビュー形式で紹介するコーナーがあり、そこに私に出てほしいと言われました。これが、私が自分のキャリアについて公の場で話した最初でした。

全部わかってくださっている伊賀さんが相手なので、何も隠す必要もないですし、隠しようもありませんでした。彼女に率直に話をしながら自分に起こったことを改めて客観的に振り返れたことで、様々なことを消化できた感覚がありました。

そのときに伊賀さんと話ができたことは、この失敗を乗り越える大きな転換点になったと思います。

ーキャリアアップはしたいものの、今のキャリアを手放すことが怖い、という人に何かアドバイスはありますか?

面接を受けてみることを、私はおすすめしています。今すぐに転職することが難しかったとしても、面接を受けるだけならノーリスクです。

自分の仕事の価値がなんなのかを客観視できますし、他者から評価してもらうことで、ぼやっとした転職への不安が具体的な課題として見えてくると思います。「この分野は自分には無理なんだ」とか、逆に「意外なところでこっちはできるかも」とか、他者からの評価で気づくことができます。

今のもやっとした悩みが、解決に向けて一歩近づくと思います。自分の仕事の価値は社会から見たらどこにあるのか、今の会社を辞める気がまったくなかったとしても、これを知ることには大きな意味があると思います。


▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で篠田さんの連載が開始しました。

▼「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」は、日経COMEMOのKOL(キー・オピニオン・リーダー)の投稿をもとにした連載企画です。

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