探求家の肩書き〜スローリーダーシップ流#アイディアの磨き方
日経新聞と日経COMEMOが出してくださったお題、「#アイディアの磨き方」についての記事です。私自身が社会人大学院生の授業、大学生向けの授業、そして企業研修で伝えている、「スローリーダーシップ」におけるアイディア磨きの方法を紹介したいと思います。
客観からアイディアは浮かばない
次の記事は、「アウトドア施設のアイデアは同社の従業員を対象とした新規事業や新商品などの提案制度から生まれた」とあるように、企業戦略から生まれたものではなく、社員の偏愛から生まれたもののようです。きっと、この社員はアウトドア大好き人間だったのではないでしょうか。
スローリーダーシップでは、このような「自分自身が探究していること」を大切にします。ところが、次のワークショップをしてみると、自分自身が何者なのか、わかっているようでわかっていなかったことがわかります。
ワークショップ方法論:
具体的には、「私は〜を探究しています」という3つのエピソードを語ってもらい、聞き手は「○○探求家」という肩書きをつくってプレゼントします。4人組で傾聴セッションを行うと、3人からいろいろな肩書きをもらうことになります。それらを踏まえて、最後は自分で肩書きを決めます。
大学生の授業では、いつも寝ることばかり考えている一人の学生は、「睡眠探求家」になりました。
優れたアイディアは解像度が高い
なぜ探求家の肩書きがアイディアを磨くことになるかと言うと、「普段から探究していることについては解像度が高い」からです。たとえば「睡眠探求家」の学生は、ほかの人よりも、睡眠については普段からよく考えています。
実際に授業の中で、お茶のペットボトルを見せて、「あなたの探求家の肩書きを使って、新商品を開発してください」というお題を出します。ふつうに「お茶のペットボトルの新製品」というお題を出したとしたら、ほとんど面白いアイディアに出会うことはないでしょう。ですが面白いことに、探求家の肩書きというものと強引に掛け算してもらうことで、ユニークなアイディアが生まれます。寝ることばかり考えている人が、どんなお茶をほしいのか、想像してみてください。
「だったら、お茶×○○でたくさんブレストしたらいいじゃないか」と思う人もいるかもしれません。ここの本質は、その学生が「睡眠についての解像度が高い」というところになります。
デザイン思考の面白いところは、「極端なユーザを観察する」ことで、「洞察(インサイト)を得る」というところだと思います。これだけ聞くと、「客観的に観察するのだから、自分自身を知ることなんて必要ない」と思うかもしれません。でも、人は「自分自身の解像度でしか観察することはできない」のです。
エスキモーは何百種類の白色を区別できると言われますが、人によっては「白」というたった一つのボキャブラリでしか表現できないかもしれません。食レポで「うまい」としか言えないのと同じで、解像度が低い人の観察力の限界になります。
アイディアを磨く近道は自分自身を知ること
たとえばデパートの商品開発をしていたとして、普通に考えてしまうと、ユーザの調査をして、こんなことが流行っているとか、そんな発想になってしまうと思います。この客観的リサーチの弱みは、他社も同じようなことに気づいていることです。イノベーションからは遠ざかります。
アイディアを磨くには、自分自身を知ること。自分自身の解像度の高いドメインを見つけ、その解像度を使ってアイディアを磨くことではないでしょうか。情報収集の手を休め、自分自身は何に心が動くのか、もっと心の声に耳を傾けてみましょう。それがアイディアを磨く、何よりの近道だと信じています。