ビジネス出張者をターゲットとした旅行業界の再構築
2022年のゴールデンウィークは国内旅行者が前年比で168%増の1600万人となったものの、コロナ前(2019年)のGW中の旅行者が2400万人あったことからすると、6割程度にまでしか客足は戻っていない。海外旅行については、各国の入国制限が次第に緩和されてきたが、旅行会社が海外ツアー販売を本格的に再開するまでには至っていない。以前のインバウンド景気を支えてきた訪日旅行者の数も、2022年4月時点ではコロナ前の5%程度という状況で、6月の入国規制緩和以降も、どこまで戻ってくるかはわからない。
2022年の夏以降は旅行市場の本格的な回復が期待されているが、コロナ前とは異なる旅行スタイルへと変化していくことが予測されている。費用の面では、旅行に関連した諸費用の高騰により、格安海外ツアーの選択肢は少なくなる。
米国旅行業界が毎月発表している「トラベルプライス・インデックス(TPI)」の指標によると、2022年4月の調査では、ホテルの宿泊料金はコロナ前と同水準だが、それ以外の旅行経費(航空運賃、都市間の交通費、食品、アルコール、外食代)は軒並み上昇しており、その高騰率は、すべての小売価格を集計した消費者物価指数(CPI)を上回っている。日本からの海外旅行では、さらに「円安」による割高感も生じてくる。
コロナ前には、連休や繁忙期を外した、オフシーズンの平日に安価な旅行を楽しむスタイルもあったが、コロナ後には平日の旅行相場も高くなっていくことが予測されている。これは、リモートワークの普及により、出張と休暇を兼ねたビジネス旅行のスタイルが登場してきているためだ。旅行業界にとって、会社の経費を使える出張旅行者の数は、全体の1~2割程度だが、プライベート旅行者と比べて、グレードの高い部屋や座席を予約するケースが多く、旅行代金に対する利益率が高いため、ノートパソコンを持参した平日のビジネスパーソンを今後の主要客にしたいと考えている。
【変化するビジネス出張旅行のスタイル】
ビジネスパーソンにとって、出張旅行は楽しみの1つになっていることから、コロナの制限解除後は、出張日程の一部にレジャーを取り入れた旅行が流行ることが予測されている。これはビジネスとレジャーを融合させた「Bleisure Travel(ブレジャートラベル)」という新カテゴリーの旅行として注目されている。
企業にとっても、普段は忙しくて休暇を取りにくい社員に対して、出張に有給休暇を加えた日程を与えることは、有意義な福利厚生となり、仕事のストレス解消や離職率を下げる効果が期待できる。
日本では2019年から労働基準法が改正されて、会社が従業員に対して年5日以上の有給休暇を確実に取得させることが義務化されたが、ブレジャートラベルは有給消化率を高める面からもメリットがある。旅行業界にとっても、出張旅行者が楽しめるレジャーのメニューを用意することは、旅行の滞在日数を伸ばして、現地での支出額を増やすことに役立つ。
米国や中国では、頻繁に出張をするビジネスパーソンの中からブレジャートラベルの人気が、2015年頃から高まっている。典型的なのは、3日間の国内出張+2日間の有給休暇と土日を加えた1週間の旅行日程で、ブレジャーを楽しむようなプランだが、旅行予約サイトの「Expedia(エクスペディア)」では、ブレジャー旅行者の特性を詳しく分析している。
それによると、主なブレジャー旅行者層は、年間に平均6回以上の出張をしているビジネスパーソンで、平均3日間の出張日程に2~3日のレジャーを追加している。主な活動は、グルメ、観光地や旧跡の探索、美術館の見学、屋外レジャーなどで、死ぬまでにはしてみたい体験(バケットリスト)をブレジャーの中で実行する人もいる。これらの活動は、1人での現地行動が6割を占めている。
レジャー部分の費用は、出張経費とは別に自費で捻出しているが、現地からの移動や宿泊代の追加となるため、完全なプライベート旅行よりも、観光やレクリエーションに予算を投じやすいのが特徴である。出張の7割は、定期的な会議やミーティングへの出席であるため、現地の旅行業界では、繰り返し参加することで楽しさが増していくようなレジャー体験を提供することが、ブレジャー需要を高めることに繋がっていく。
また、現地でどんなレジャーを楽しむかは、プライベート旅行のように綿密な計画を立てるのではなく、出張の数日前または現地に着いてからネットで検索する割合が68%となっていることから、ブレジャートラベラーの集客には、ネットでの情報発信が重要になる。英国の経済誌「The Economist」では、2019年にアジア太平洋地域でブレジャーに適した都市ランキングを発表しているが、その中では東京が1位にランキングされている。
日本の観光地は、当面は国内のビジネス出張者向けに有意義なプランを開発することが、売上を回復する有効策になるだろう。そして、日本人向けに磨かれた旅行サービスは、やがて解禁される外国人のビジネス旅行者にとっても魅力的なものになるはずで、出張とレジャーを兼用した旅行形態は、世界的にも定着していくことが予測されている。
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