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今年前半、欧州主要国間のGDP成長率の差は記録的水準に広がった。公式なGDPデータを見ると、特にフランスと英国は第1-2四半期に欧州諸国内でもとりわけ低迷している。その原因の大部分は、新型コロナウイルスの感染状況や、それに関連した規制措置の厳格さにあるとみられるが、それだけではない。

巷間言われているように、これは統計上のずれ、公共部門の定量化の違いに起因するところが大きい。公共部門の定量化の際、教育、医療といった行政サービスは金銭的な取引がないため、「非市場生産」を把握するときの考え方で公共部門のGDPの数字に差が出る。下記のようなケースは確かに迷う。

① 一部の国々では、公務員の大部分が出勤も在宅勤務もしていない場合がある。(賃金などの)投入コストをアウトプットの基準とする公共部門のそうした部分では、労働者がたとえ実際には何も生産しなくとも、賃金はなお支払われるため、計測上のアウトプットは落ち込んでいない。
② 教育分野では、オンライン授業への移行により、対面時間が減り、学生にとって教育の質が低下している可能性もある。
③ 医療分野では、新型コロナ関連の追加支出は、歯の治療や選択的手術といった他の医療活動の縮小により相殺されているとみられる。例えば英国では、そうした構成の変化により、医療や社会福祉事業のアウトプットの規模は第2四半期に前期比30%近く落ち込んでいる。

これらをどう捉えるべきか。例えば、アウトプットが賃金の支払われた時間といった基準で測られる場合、活動の変化は反映されない可能性があるが、ユーロスタットのガイダンスは、実際の労働時間がより正確に反映されるよう「然るべき調整」を担当機関に促すに留まっている。ユーロスタットは早くからこうした問題を認識していたが、対処法として示された大まかな指針の執行状況は、国によってまちまちになってしまっている。

英国では、国家統計局(ONS)が教育・医療分野の変化をより正確に反映させるため、代替データを使用。例えば教育に関しては、通常と比べどの程度の時間を教育に費やすことができたかを教員に報告させることで、正規の学校教育の縮小を考慮しようとした。医療に関しても、全体的アウトプットの変化をより良く捉えようと、同様に実験的なデータの利用を試みた。また、フランスの国立統計経済研究所(INSEE)は、賃金の支給継続にもかかわらず、従業員の労働時間が(ロックダウンのピーク時に25%落ち込むなど)縮小していることをアウトプットのデータに反映させる決定を下した。

こうした考え方により、公共消費が英国とフランスの第1-2四半期のGDP会計に及ぼす押し下げ圧力が強く出たというわけだ。その代わり、景気の正常化は第3四半期に自ずと追い風をもたらす可能性が出てくるということになる。第3四半期GDPは英国で5%ポイント近く、フランスでは4%ポイント押し上げられる一方、そうした考えを取り入れなかったスペインやドイツのGDPは実質的に押し下げられる見通しとなる。

さて。統計の捉え方に違いがある、ということがわかったが、なんとなく釈然としない。現状、世界中がコロナ禍で苦境にある中、どの程度の経済の疲弊があるのかは今後の回復のためにも正確に知っておきたいところ。それが、国によってまちまちだ、となると、いかに調整してよいかもはっきりとはわからず、単純に比較すればミスリーディングになりかねない。外からも関心を持たれるデータについては、比較できるデータの開示でなければならないと改めて思う。

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