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「FRBに逆らう」のはラガルドかもしれない

米国の著名な投資家で、人気マーケット・アナリストでもあったマーティン・E・トゥバイク(Martin E. Zweig)の有名な格言『FRBに逆らうな』を地で行くような相場展開が続いています。

一般に、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備理事会)の金融調節が緩和的に運営されている(利下げ)局面では株価が上昇しやすく、逆に金融引締め(利上げ)局面では株価が下落しやすいので、FRBの利上げ局面で株式投資で高い利回りを得ることは困難といわれています。現在はFRBが予防的な連続利下げを実施した後ですから、むしろ株式投資には追い風が吹いていたということになります。

米国は相変わらず、中国との間で厄介な通商問題を抱えており、そのあおりを受けて米国の製造業の収益環境は冴えません。消費者物価の伸び率も鈍いままですから、FRBがいつ「予防的な利下げ」を再開してもおかしくありません。投資家はトゥバイクの格言通り、FRBに逆らうことなく、株価を買い上げているわけです。

現実には、FRBが永遠に利下げし続け、株価が永久に上昇し続けることはありません。米国の物価上昇率(インフレ率)が上昇し、物価目標である2%を上回ると予想される状況になれば、FRBの金融政策は利上げに転じるでしょう。ただ、足元の米国経済にそんな兆候が出ているのかというと、未だ顕在化はしていないと私は思います。

私が気にしているのは、欧州の動向です。具体的には、欧州中央銀行(ECB)の金融政策です。誇り高きドイツ連銀(ブンデスバンク)の伝統を受け継ぐとされるECBは、ハイパーインフレという戦間・戦後の苦い体験を教訓に、インフレ懸念やインフレ圧力の台頭に対しては果敢に金融引締め姿勢で臨みがちです。2010年代の欧州債務危機におけるECBの利上げや、1987年の米国の株価暴落(ブラック・マンデー)の引き金を引いたとされるドイツ連銀(当時)の利上げなどは、FRBが金融緩和を実施している中で正々堂々と、FRBに逆らいました。そして世界の株式相場は当時、強烈な下落圧力に直面しました。

2019年の11月、ECBの新総裁に、ラガルド前IMF専務理事が就任しました。金融市場はラガルド氏のECB総裁就任を好意的に評価したように見受けられます。しかし、果たしてラガルド氏の金融政策の運営手腕にそれほど期待していいのでしょうか。

どの主要国・地域の総裁・議長も、就任して間もない頃は、マーケットとのコミュニケーションに苦労します。就任直後の新総裁の不用意な発言が、世界的な株安・金利上昇を招くケースは少なくありません。

ましてや、半ば独断的に量的緩和の再開に踏み切った前総裁とは異なった金融政策運営に新総裁が挑戦するのであれば、その金融政策スタンスは相対的に引き締め気味にならざるを得ません。もとより新総裁がマーケットとのコミュニケーションに長けているとの評判も聞こえてきません。

これまでの緩和的な金融政策が生み出した過剰流動性は、株式や不動産に集中的に滞留しているうちはまだマシですが、マネーがいったん原油や金、非鉄などの国際商品市場(コモディティ)に流入すると、金融環境は一転します。

コモディティ価格の上昇は、世界の消費者物価を直接的に押し上げます。コストプッシュ型のインフレは持続性に欠けるとの見方も可能ですが、インフレ懸念が燻ればおそらく、FRBよりも先にECBで、インフレ警戒的な金融政策スタンスが現れると思います。ハト派だったECB前総裁との違いを示したい新総裁なら十分に考えられます。

ECBのタカ派的なスタンスは、外国為替市場におけるユーロ高・ドル安圧力を強め、米国にはドル安というかたちでインフレが輸入されます。FRBはECBのように安易な利上げは行わないにしても、インフレ懸念が高まる中では予防的な利下げに踏み切るわけにもいかず、結果的に将来の景気後退リスクを高めるでしょう。そして実際に米国が景気後退になれば、世界景気の減速に日米金利差の縮小による円高が加わって、日本の株価が大幅に下落する展開も予想されます。

FRBに逆らう株式投資家は、滅多にいないかもしれません。しかし、大陸欧州人(ECB)はアメリカ人(FRB)に逆らいがちだというリスク(というより経験則)が、今後、徐々に意識されてくるのではないでしょうか。

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お読みいただき有難うございました。 小難しい経済ニュースをより身近に感じて頂けるよう、これからも投稿してまいります。

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三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所シニアエコノミスト。日本経済の分析・予測を担当しています。
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