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なぜリケジョは少ないのか?その原因と対策

様々な研究結果から、多様な人材でチームを組むことが、イノベーションや価値創出を強化することがわかってきています。

日本の大手企業でも、これまで男性ばかりだった役員陣に対して、多様性を重視して女性の登用比率を高める動きが加速しています。

女性の理系大学進学率の国際比較

それでは、技術的なイノベーションを主導する理系学部の男女学生比率はどうなっているのでしょうか。

文部科学省が実施した「令和元年度学校基本調査」によれば、大学理学部の女性比率は27.9%で、工学部は15.4%と、理系における女性比率は2割程度と極めて男性優位の状況が見えてきます。

米国を代表する技術系の大学であるマサチューセッツ工科大学の女性比率は46%、中国の精華大学では34%となっています。

男性よりは少数であることに変わりありませんが、米中共に、日本と比較すると公平な状況が実現されています。

なぜ理系学部における女性比率は低いのか

なぜ女性の理系進学比率が少ないのか、まず性差に原因が潜んでいないかを考えます。

「もともと性差なんて存在していない、差別的な社会的要請が性差を生んでいる」という極端な議論もあるかもしれません。

しかし、実際のところ平均身長は異なり、女性の平均身長は男性と比較すると低いことはご存知の通りです。小学校高学年では女子の平均身長の方が高いことからも、女性の身長は低くあるべきという社会通念を原因として、平均身長が低くなっているわけではないことがわかります。

差別の話ではなく、人類の進化の結果、生き物として男女には差が生じています。

趣向性に関してはどうでしょうか。ケンブリッジ大学の心理学者サイモン・バロン=コーエン教授は、生後1日の新生児を対象に実験を行いました。新生児に「女性の顔」と「機械仕掛けの車」の写真を同時に見せ、表情をビデオ撮影し、どちらに注意を向けるのかを調べたのです。男児は車をみたがり、平均して車をみている時間が長く、女児は人間の顔に興味を持ち、顔写真をみつめる時間が長い結果となりました。

この結果から、男性が機械に興味をもち、女性が他者との関係により興味をもつ傾向は、教育によるものではなく、生まれつきであると結論付けています。

次に、イノベーションの起こし方の観点から考察します。

問題を解決する方法、例えば遠く離れた人に情報を伝える方法には、大きく分けて2通り存在します。

1つ目は、様々な技術を発明していき、電話を開発するといった技術的な解決手法。2つ目は、仲間内からスタミナがあって足の速い人を見い出して、伝達を依頼するといった社会的な解決手法。

我々は社会的な動物であるため、社会的な相互関係を有意義なものと捉え、たとえ技術的な解決を生み出せる能力があっても、社会的な解決手法に自然と惹きつけられる傾向があると言われています。

反対に、技術的な解決を実現した人は、歴史上の偉人として名が刻まれます。技術的な解決は稀にしか起こらないのです。

バンダービルト大学の心理学者、デービッド・ルビンスキー博士は、数学能力の高い米国学生1500人に対して、長期間にわたる追跡調査を行いました。

調査対象者の仕事に対する興味を尋ねたところ、男性は女性よりも「道具やモノを使って働く」、「影響力のある発明・作成を行う」ことへの関心が高く、女性は「人と一緒に働く」、「自分の仕事の結果が他者へ大きな影響を与える」ことに関心があることがわかりました。

また、中年期において特許を保有している人の割合が女性よりも男性が2倍高い結果になりました。

能力に差のない集団における結果であることから、男性よりも女性は社会的な解決手法を志向する傾向があるという結論になっています。

さらに、ピッツバーグ大学教育・心理学部のワン・ミンテ准教授が行った、1500人を長期にわたって追跡した研究結果も興味深いです。

大学進学適性試験の点数に基づいて、「高い数学力と言語能力の両方をもつ学生」と「高い数学力をもつが中程度の言語能力しかない学生」を区別したところ、前者の7割程度が女性であるのに対し、後者の7割程度が男性であることがわかりました。

数学の才能をもつ女性はあらゆる面において賢いことが多い一方で、男性の多くは数学や科学だけが得意な傾向が強く、高い数学力と言語能力の両方を持ち合わせた学生は数学だけが得意な学生よりも、人と接して働くことへの関心が高く、モノを相手にすることへの関心が低かったのです。そして、あらゆる面において賢い学生よりも、数学だけが得意な学生は物理科学や工学の分野での仕事に就く割合がはるかに高いことも突き止めました。

ここから、女性が理系に進学しないのは、固定観念や冷遇など女性にとって大きな障壁があるという従来の理由だけではなく、たとえ技術的な解決を行う能力があったとしても、女性がもつ元来の趣向性として、人間を対象とした学問や他者との関わりの大きな職業を選択する傾向にあることがみえてきます。

理系進学率を高めるための方策

エネルギー、気候変動、パンデミック、拡大する格差など、現在人類が直面している課題の深刻さは、社会的な解決手法で対応できる水準ではなくなっています。

新たな技術的な解決策の誕生を我々が強く望んでいるのであれば、「高い数学力と言語能力の両方をもつ学生」の多くを占める女子高生に対して、政府や大学の理系学部は、女性の趣向性を踏まえた上で意義を説き、能動的に惹きつける活動を行わなければなりません。

実際、マサチューセッツ工科大学では、優秀な女子高生をスカウトするために多大な努力が費やされていると聞きます。

また、国全体が貧しい国では、社会科学関連の学部に進んでも卒業後に稼げないため、優秀な女子高生は理系学部に進む傾向があり、その結果として日本よりも理系学部の男女比率が公平になっています。理系の女性比率が報酬環境に左右されているわけです。

コミュニケーション能力が高く、チームワークのとれるエンジニアや科学者に対して、企業がより魅力的な報酬を用意して喧伝できれば、日本でも理系学部の男女不平等な状況は改善されていくはずです。

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