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ハイテク人材に広がるCost-of-Living重視の考え方と価値観

 米国では、地域による物価の格差が広がっていることから、大都市から地方へ転居することで、実質的な豊かさを求める動きが出てきている。その指針となっているのが「Cost-of-Living」の考え方である。

たとえば、サンフランシスコから約880キロ離れているオレゴン州のポートランドは、自然環境が豊かで物価も安いことから、ハイテク人材の移住先として人気が高まっている。Cost-of-Livingのシミュレーションによると、ポートランドの生活費はサンフランシスコよりも44.6%も安いため、サンフランシスコで年収10万ドルを稼いでいた人は、ポートランドでの年収が5.4万ドルに下がったとしても、同水準の生活をすることができる。

実際には、移住をしてもそこまで年収が下がることは無い。ポートランドには、インテルを中心として1,200社を超すハイテク企業のオフィスがあるため、同じエンジニアの仕事で年収8万ドルの転職先を見つけることができれば、実質的な豊かさは、サンフランシスコよりも上になる。また、近年ではリモートワークの形態も普及しているため、サンフランシスコの会社に勤めなら、ポートランドに移住することも可能になっている。

サンフランシスコとポートランドの移動は、車なら10時間かかるが、航空機で片道2時間、LCCの格安チケットは往復運賃が100ドル前後と安いため、定期的な打ち合わせのために行き来をすることにも支障は無い。そのため、グーグル、フェイスブック、アップルなども、ポートランドにシステム開発の拠点を設けている。

Cost-of-Livingの考え方は、長期の資産形成をしていく上でも有効策になる。物価の安い地方に住みながらでも、リモートワークで大都市圏と同水準の収入を得ている人材は、月々の余剰資金を投資に回すことで、資産額を増やしていくことができる。米国のシリコンバレー周辺では、オレゴン州、アイダホ州、ユタ州、アリゾナ州、コロラド州などが、新たなテクノロジーハブとして注目され、ハイテク人材の移動が起きている。

また、起業家の中では、カナダに移住をして会社を立ち上げるケースも増えてきている。サンフランシスコとバンクーバーの比較では、家賃、食料品、レストランの料金など、すべての物価水準がサンフランシスコのほうが30%~100%以上高いため、バンクーバーを拠点としたほうが、同じ北米市場でビジネスを展開するとしても、ローコスト経営ができるためである。

日本でも、東京への一極集中が進む一方で、地方移住に関心を抱いている潜在層は少なくない。内閣府が行った「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」では、東京以外への移住を予定・検討したいと考えている人の割合は、全体で40.7%、関東圏以外の出身者では49.7%と、2人に1人は移住への関心がある。

ただし、移住希望者の中でも、移住後の生活プランを具体的にイメージできているケースは少なく、「働き口が見つからない」ことが最も大きな不安材料になっている。逆に言えば、都会から地方への移住を成功させるには、まず、地理的な条件で影響を受けにくい、仕事のスキルや収入源を確保することが優先事項になる。

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