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保育現場から性犯罪者を排除する仕組み。英国DBSの事例と、CtoCの評価制度の限界

私は現在、認定NPO法人フローレンスで働いています。親子の笑顔を妨げる社会問題を解決するべく、多様な保育サービスを提供しています。

そんな私にとって、まさに背筋が凍るような事件が起こりました。

ベビーシッターマッチングサービス大手 キッズラインの登録シッターが強制わいせつ容疑で逮捕されたのです。


そして先日、わいせつ容疑で2人目の逮捕者が出てしまいました。キッズラインのみならず、ベビーシッターサービスそのもののあり方が問われる事態となっています。


キッズラインは、再発防止策として男性シッターのサポートを一時停止するとしました。専門家曰く、男性シッターが性犯罪を犯す確率が高いからとのこと。

しかしこれが本質的な解決策になっているとは到底思えません。

なぜなら、米国司法省の統計データによれば、確かに保育現場の性犯罪の77%は男性シッターによるものですが、身体暴力の64%は女性シッターによるものだからです。

男性を業界から締め出せば問題解決するわけではありません。

また、この方法は個人的にもショックでした。世間に偏見があることを承知で、それを覆すべく人一倍頑張って働いている男性保育士の仲間がたくさんいるからです。


では、解決策として考えられることは何でしょうか。

まず、小児わいせつは再犯率が極めて高い犯罪です。性犯罪者の前科を調べたところ、過去に子どもに対する性犯罪の前科がある者が84.6%もいたという調査結果があります。

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参照元:平成27年版犯罪白書, 法務総合研究所


しかし、現状では過去に性犯罪を犯している者を事前にスクリーニングする仕組みが日本に存在しません。これでは民間企業がいくら努力しても限界があります。行政が主導して仕組みをつくる必要があるのは明らかです。

そこで参考になるのが、英国のDBS(Disclosure and Barring Service)という公的サービスです。弊会代表の駒崎が長く導入を訴えてきました。



前科者を事前に排除する仕組み

DBSは英国内務省管轄の公的サービスです。個人の犯罪履歴がデータベース化されており、子ども、及び、要支援者(大人含む)と関わる仕事をする人は、必ずこのDBSに照会して、犯罪履歴がないという証明書を発行してもらう必要があります。

この証明書なしに働くこと、そして、証明書のない個人を働かせることは違法であり、働き手も雇用者も罪に問われます。

前科のある者はそもそも保育現場に入れない仕組みなのです。

このDBSチェックは保育現場で働く場合はボランティアでも必須です。シッターが子どもを自宅で預かる場合には家族の分まで提出を求める徹底ぶり。


このDBSですが、2018年度には約5万件のBarring(≒ 該当する業界で働くことを禁止する)がありました。年々件数は増加しています。

これが意味するのは、もしDBSがなかったらこの5万件分の人間が野放しになっているということです。考えただけで背筋が凍りますが、日本は今実質的にそんな状態です。

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参照元:Disclosure and Barring Service Annual Report and Accounts
単位は「件数」であり「人」ではないのでご留意ください。ひとりに対して複数の申請があればbarringの件数は増えます


どう考えても日本でもDBSのような仕組みを導入すべきと思いますが、プライバシーの侵害や更生の妨げになるという懸念がよく聞かれます。

しかし、情報の照会ができるのは本人か政府の承認を得た雇用主だけですし、その雇用主もいつでも自由に照会できるわけではなく、定められた手続きをする必要があります。加えて、更生は子どもと関わらない分野で可能です。


また、こんな大掛かりなシステムの運用にはすごいコストがかかるだろうと思われがちですが、なんとDBSは黒字で運営しています。2018年度の純剰余金は約5千万ポンド/年(≒67億円)です。DBSチェックで手数料を取っているのです。

なお、先ほどボランティアもDBSチェックの必要があると紹介しましたが、この黒字でその費用まかなっているので無料です。

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参照元:Disclosure and Barring Service Annual Report and Accounts


これまでの情報を踏まえて、日本政府がDBSを導入しない理由を考えてみたのですが、ついにわかりませんでした。他国の実績もあり、財政的にも問題ないのに…

政治家の皆さまには今回のような悲しい事件を二度と起こさない為にも、ぜひ導入を真剣にご検討いただきたいです。


ただ、本当に残念ながらDBSが実現したら保育現場の性犯罪が根絶されるわけではありません。これでは初犯を防ぐことができないからです。



ベビーシッターサービスのCtoC評価制度の限界

ベビーシッターサービスは、基本的に子どもと密室で行われます。それだけに利用者も慎重に選びます。そこで参考にされるのが口コミです。

ところが、今回逮捕されたシッターの口コミの評価は満点の5でした。


これは、キッズラインに限らずベビーシッターサービスのCtoCの評価制度の構造的問題といえます。評価するのがサービスを受ける子ども本人ではなく、その保護者だからです。

例えばメルカリなどのCtoC評価なら、利用者双方がお互いの体験に基づいて評価ができますが、ベビーシッターではそうはいきません。

小児わいせつはただでさえ表に出にくい卑劣な犯罪です。保護者はシッターの保育の仕事ぶりをずっと見ていられるわけではないので(それができるなら雇ってないし)、印象さえよければ高い評価を与えてしまう可能性があります。

残念ながら、無条件に信頼していい指標ではないといわざるをえません。


必要なのはこういうシッターをそもそも利用者の選択肢に入れないことですが、駒崎が指摘するようにキッズラインのようなプラットフォーム型のマッチングモデルでは難しいのが現実です。

なぜこのような事件が起こってしまうのでしょうか?

その大きな要因は、(保育者と保育の)質の管理に責任を負わないシステムにあると言えます。

今回の容疑者が登録していた「キッズライン」の場合、HPによると2~3時間の無料登録説明会と面談を行った後、2時間くらいの実地研修を行うだけで仕事を開始できてしまいます。


キッズラインは自らの責任でシッターを雇用するのではなく、あくまで利用者とシッターをマッチングするプラットフォームを提供しているだけ、という立場です。

だからこそ採用や研修に関わるコストが削減され、安価でサービスを提供することができます。しかし、その代償として人材の質の確保は困難になってしまいます。

シッターを利用者の親も、子どもも、そして会社すらも適切に評価することができない、これはプラットフォーム型マッチングモデルの大きな問題です。


✳︎


ここから先は完全に私見ですが、私は子どもの安全を確保しながらベビーシッターサービスを提供するには、会社が責任を持ってシッターを雇用し、育成する他ないと思います。シッターに対して責任を持てる主体は会社以外にないからです。

専門家の目を通じて採用面接を行い、チームとして一体感を醸成し、定期的に育成・研修を行っていく… 革新的でもなんでもないようですが、結局これしかないと思うのです。

当然、時間もコストもかかります。しかし子どもの安全のためには必要だと思いますし、何より、このままだとようやくこの国に根付き始めたベビーシッター文化が萎縮してしまいます。

新型コロナウイルスが原因で学校や保育園に子どもが通えなくなり、まともに仕事ができなくなってしまったママパパをたくさん見てきました。私の同僚にもたくさんいました。そういう人たちにとって、ベビーシッターの存在はどれほど有難かったことか。


この国にベビーシッター文化を広げて育児を楽しいものする、笑顔を増やす、私はそんなキッズラインの理念に心から共感します。今回の件でベビーシッターの利用者が減り、業界が細っていくのは親子にとっても悲劇です。

行政と業界と各企業と、みんなで協力してこの危機を乗り越えねばなりません。

読んで字のごとく微力ですが、私もこの件ではできることをやっていきたいと考えています。

親子の笑顔のために。


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ソーシャルマーケター / 認定NPO法人フローレンス。たまに日経新聞に寄稿。前職はリクルートで営業と事業開発。市長選挙に出馬するもボコボコにされたのが社会人の原点。慶応義塾大学総合政策学部中退。妻と娘と三人暮らし。

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