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海外富裕層からみた円安日本へのインバウンド投資戦略

 米国は政策金利の引き上げに伴い、2022年10月の時点では長期金利の指標となる10年国債の利回りが4%を越してきた。単純に考えれば、利息が付かない日本の銀行に預金をしているよりも、米国債を購入した方が賢いことになる。実際には、円高に戻る可能性もあるため、元本保証で高利回りが得られるわけではいが、そうした考えによって日本円が売られることで、円安は更に加速していく。

一方、海外からみた日本の資産は円安による割安感が高いことから、外国人投資家が有望資産を物色する動きも出てきている。ドル建でみた日経平均株価は、2022年に入ってから28%下落しており、円建による日経平均の下落幅(8.8%)よりも大きい。

ドル建て日経平均株価(nikkei225jp.com)

海外の販売シェアが高い日本の自動車業界は、円安の恩恵を最も受けやすいセクターであり、業績からみた現在の株価は低水準だが、それでも「買い」が入りにくいのは、部品供給の遅れによる生産台数の減少に加えて、米国内のオートローン金利が上昇していることで、新車の販売台数が落ち込むことが懸念されていることもある。

一方、日本の不動産は、海外からみれば円安による割安感が高まっている。森記念財団の都市戦略研究所が2021年11月に発表した「世界の都市総合力ランキング」では、世界主要都市の総合力を、経済、研究開発、文化、居住、環境、交通アクセスの面から評価したランキングを行い、その中で、東京は世界3位という評価だ。物価の安さ、平均寿命、治安の良さ、街が清潔であることなどからも、外国人にとって日本は魅力がある。

世界の都市総合ランキング(都市戦略研究所)

このように急速に進む円安では、海外からみた日本資産の安さが際立ってくるが、金利も上昇しているため、資金力に余裕のある個人投資家や富裕層を中心とした「日本買い」が進むことが予測される。

【中国投資家によるインバウンド投資】

 中国の人民元と日本円の関係でも円安は進行しており、2020年5月に1元=15.1円だったレートは、2022年10月には1元=20円前後で推移している。つまり、中国からみた日本円の価値は25%下がっていることになり、中国人富裕層にとっては爆買いのチャンスが訪れている。といっても、今回は日本旅行をして買い物をするインバウンド消費ではなく、日本の資産を取得するインバウンド投資が注目されている。

「神居秒算(しんきょびょうさん)」は、日本国内の賃貸アパートや中古住宅などの投資物件を、中華圏(中国、香港、台湾)の投資家向けに中国語で紹介する不動産情報サイトで、国内の不動産業者から登録された1万2千件以上の物件が掲載されており、購入に関する月間の問い合わせ数も1000件を超している。

神居秒算(しんきょびょうさん)

神居秒算には、日本国内にある新築・中古の賃貸アパート、分譲マンション、戸建住宅、店舗物件などが、販売価格の他に、家賃設定の目安、維持費などの投資分析を加えて掲載されており、中国投資家が希望の物件を見つければ、ARアプリによってバーチャル内覧をすることができる。

物件に対する問い合わせや商談は、物件登録をした不動産仲介会社の担当者が自動翻訳機能付きのチャットで対応して、正確なコミュニケーションが求められる契約業務については、事務手続きの代行会社を利用することもできる。

そのため、中華圏の投資家は、日本の不動産物件をオンラインのみで、購入、契約、決済まで完結させることも可能になっている。こうした投資ができるようになった背景には、日本政府のデジタル改革により、不動産取引における押印の廃止、書面の電子化、オンラインによる重要事項説明などが認められるようになったことが関係している。

神居秒算のビジネスモデルは、不動産業者からの物件掲載料と、売買契約が成立した際の一定割合をコンサルフィーとして徴収することを収益源にしている。不動産業者が中国投資家との交渉を成立させるには、社内に中国語の対応ができる担当者を置くことが望ましいが、自動翻訳機能や手続き代行サービスが充実することで、インバウンド不動産投資のハードルは低くなっている。

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