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「羊頭狗肉」化するマイナス金利政策

羊頭狗肉の様相を呈するマイナス金利政策
「見かけは立派だが中身はそうでもない」。立派な外見と中身が一致しないことを表現する「羊頭狗肉」という四字熟語があります。最近一部の先進国で追求されるマイナス金利政策の在り様を見ていると羊頭狗肉という言葉を想起してしまいます。マイナス金利を採用する国では導入当初、「そう長くは続けられない」という声が多かったはずですが、現在では「準備預金に階層化システムを強化することで銀行部門への影響を限定すれば深掘りは可能」という風潮も感じられます。


もちろん、マイナス金利政策に捨て難いポジティブな効果が認められるならばそれでも良いでしょう。しかし、マイナス金利政策を導入して欧州では丸5年、日本では丸3年が経ちますが、その効用として取り沙汰されるのは不動産を含むリスク資産価格の上昇や金融機関収益の押し下げくらいであり、最終的なゴールであったはずの物価の押し上げについては両地域とも実現していません。ユーロ圏に至っては過去5年間でインフレ期待が完全に腰折れのステージに入った感もあり、現状の景気に関して言えばドイツを中心として後退の淵に立たされています。


片や、金融機関の経営体力がマイナス金利環境の中で衰えていることははっきりしており、「このままシステミックリスクに至っては不味いので軽減策は必要」との判断から階層化システムの検討そして導入に至ったというのが実情ではないでしょうか。そもそもユーロ圏では階層化システムは取引慣行などが国によって異なり、事務的コストが嵩む共通通貨圏では運用が難しいとされ、1回は却下されていた経緯があります。そうも言ってはいられなくなった、ということでしょうか。いずれにせよ階層化システムを導入したことで「利下げをしても短期金融市場の金利は上がるかもしれない」とすら言われているので、ECBは今後もマイナス金利の深掘りを続ける可能性があると思います

「続ける」こと自体が目的化する危うさ
 導入以降の経緯を踏まえれば、今はマイナス金利政策の効果を検証するステージではないかと思いますが、現状では「効果の検証」ではなく「如何にマイナス金利の看板を降ろさずに続けられるか」という「継続の可能性」に焦点が移りつつあるように見えます。金融危機後、ELB(Effective Lower Bound:事実上の政策金利の下限)が実は負の領域にあるのかもしれないという議論が活発化しているが、ELBが正負どちらの領域にあるのかという議論以前に、「効果を顧みずに継続することが目的化している」雰囲気には違和感も覚えます。マイナス金利政策を継続しながらその免除残高を拡大させることで銀行部門への被弾を軽減することに執心する状況に一体何の意味があるのでしょうか。経済や物価へのポジティブな効果が認められていないのであれば文字通り、羊頭狗肉ではないかと思います。

「金融政策の通貨政策化」がもたらす摩擦
 しかし、恐らくマイナス金利が全くの無意味だということはありません。少なくとも直情的な為替市場ではマイナス金利の深度は小さくない影響力を持つでしょう。この意味では「通貨政策としてのマイナス金利政策」は継続させる意味があると思います。しかし、複数の主要国がこれを追求すればいずれ摩擦は不可避だと思います。
 今後、マイナス金利政策の企図するものが通貨安くらいしかないという認識が――その真偽はさておき――金融市場でコンセンサス化してくると何が起きそうでしょうか?例えば政策金利と為替の関係性に関心が強そうなトランプ大統領は一段と語気を強めてくる恐れがあります。いや恐らく米国に限った話ではありません。欧州や日本といった主要国の金融政策で追求できるものが効果の判然としないマイナス金利の深掘りくらいしかなくなっている状況が継続すると、「何故こんなことをしているのか」との思いがそこかしこで生まれ、金融市場では消去法的に「通貨政策としてのマイナス金利」が着目されやすくなるのではないでしょうか。日本は元より、金融危機後はユーロ圏でも金融政策(ECB)が為替に配慮するシーンが明らかに増えています。マイナス金利の常態化そして深化を追求する世の中になると、「金融政策の通貨政策化」の傾向を一段と強まり、各国間の摩擦を招く恐れがあるように感じられます。

こうした議論を一段と詳しくしたコラムを以下に書かせて頂いておりますので、もしご関心があればご笑覧下さいませ:

功罪のマイナス金利、日銀もECBも「深掘り」を検討する本当のワケ
~当局者も葛藤があるのだが…~
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67436


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