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仕事上の難しい話が伝わるかどうかは、日頃の簡単な会話の量で決まる。(藤本あゆみ氏×井手直行氏出演 働き方innovation #04 イベントレポート)

日経COMEMOが主催する「働き方innovation」イベント。皆様から大変ご好評をいただいて、10月から定期開催になりました。今回のテーマは「テレワーク時代のマネージャー」です。

一般社団法人at Will Work代表理事の藤本あゆみさんと、株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行さんをゲストに迎え、日本経済新聞社の石塚由紀夫編集委員がファシリテーターを務め、「働き方innovation テレワーク時代にマネージャーはなにをすればよいのか?」を10月27日(火)に開催しました。


■イベントハイライト動画


■はじめに

ー石塚編集委員
このイベントは、日本経済新聞朝刊に隔週火曜日で掲載される「働き方innovation」面との連動企画として掲載日の夜に開催していますが、本日の紙面は社長のテレワークについてでした。

取材を通して、予想以上に社長もテレワークをしていたということがわかりました。実際にテレワークがうまくいっている3人の社長に取材をしましたが、ポイントは「権限委譲ができていること」でした。その構図は、マネージャーと部下の構図でも同じでしょうから、本日はそのあたりも議論したいと思います。

これから登壇者のお2人に、今回のテーマについてひと言ずついただこうと思いますが、本日はヤッホーブルーイングの井手さんがいらっしゃいますので、まずは乾杯からスタートしたいと思います!

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ー井手さん
テレワークについては、「良いところもあるし、悪いところもある」ということを理解した上で、適切にやることが大事だと思っています。難しいところもありますが、うまく付き合ってやっていくことです。最初は試行錯誤をしながらやっていましたが、だいぶ慣れてきた感じがしています。

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ー藤本さん
私はもともとグローバルな企業で、様々な場所から時差もある中で働くことが当たり前の環境にいたので、基本的にはずっとリモートで仕事をしていました。ですから、今回のコロナでも、何も変わらず同じことをやっているという感じでした。

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ー石塚編集委員
最初に、テレワークにおけるマネージャーの役割について、参加者の皆さんのご意見を聞いてみましょう。この結果をご覧になっていかがでしょうか?

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ー井手さん
うちの会社では「マネージャー」という言い方はせず、「リーダー」と呼んでいます。そもそもあまり社員を「管理」しません。「チームの管理をする」ということに、違和感があります。

うちの会社のリーダーの役割は、明確に4つあります。

・戦略の立案
・戦略の遂行
・良い組織を作る
・上記3つの掛け合わせで生まれる成果

一般的な管理職の考え方とは、大きく違っているような気がします。

ー藤本さん
「管理職」という言葉に縛られているところもあるような気がしています。私も最初の会社で初めて管理職になったときは、「管理をするのが管理職」だと思っていましたから。「部下の成長にコミットしなくちゃ」「ちゃんと働いてもらわなくちゃ」「言うことを聞いてもらわなくちゃ」と。

でも、「プロジェクトを管理して成果を出す」ためにリーダーがいて、それを管理職と呼ぶということが後になってわかりました。

これはコロナとは関係のない話なのに、リモートになった瞬間に多くの人が突然「管理しなくちゃ」と言い始めたような気がします。普通に会社に出勤していたときは、そこまで管理しようとはしていなかったのではないでしょうか。

■先行して開催された【投稿募集企画】に集まった意見とは?

ー石塚編集委員
日経COMEMOでは、今日のイベントと同じテーマで皆様からご意見を寄せていただく投稿募集企画を先行して開催していました。今回は、選者として藤本さんにもご協力をいただきましたので、どういう観点で選んだか伺えますか?

ー藤本さん
「社長に出社してほしいか?」という非常に面白いテーマでしたが、寄せられた投稿を読んでみると「出社してほしい!」という人もいれば、「どうでもいい!」という人もいて、多種多様な意見がさらに面白いと思いました。

社長も1つの「役割」ですよね。選んだ2本は「そもそも社長の役割ってなんだっけ?」と、改めて考えているところがいいと思いました。「社長って何?」「社長に何を期待するの?」というのは、こういうときでなければ考えることはありません。それを改めて考えるきっかけになったと思います。

ー石塚編集委員
藤本さんご自身も投稿されていますが、改めて解説をお願いできますか?

ー藤本さん
私の会社では、社長が一番出社しています。それで、どうしてそんなに出社するのか聞くと、もちろん社員には安全面をしっかり確保してほしいと思うけど、「自分はこういう働き方をしたいから」と言っていました。社長も普通に働いている一人なのだとわかりました。

ー石塚編集委員
井手さんは社長ですが、コロナ禍での出社はどうされていましたか?

ー井手さん
ほとんど出勤していませんでした。うちの会社は長野県にありますが、感染者もそれほど出ていない頃から「リモートをやろう!」と言って、それからはほぼ在宅です。

製造業ですから、社員の3分の1は現場に出社する必要がありますが、それ以外の部門はずっと在宅勤務です。それでも大きな支障がないので、今も「必要に応じて出社する」ということになっています。

「社長がいなくても会社が回る」ということではなく、その場にはいなくても社長の役割は変わらずやれるということです。

■コロナ禍での「チームビルディング」はどうやればいい?

ー石塚編集委員
先程ご紹介いただいたヤッホーブルーイングのリーダーの役割4つについて、コロナの影響で変わったことはありますか?

ー井手さん
基本的には何も変わりません。ただ、3番目の「良い組織を作る」に関しては、私たちは「対面」のチーム作りにこだわってやってきたところがありましたから、改善策が必要になりました。

以前は、わざわざ集まって話をすることを大切にしていましたし、「雑談するだけの朝礼」を毎日30分、もう10年以上やっています。

これがオンラインになると、決まったメンバー同士ではうまくいきますが、他のチームのメンバーはうまくできなかったりしたので、今はその改善策として、1週間に1回「シャッフル朝礼」というものをやっています。チーム以外の誰かがランダムに参加する、定期的にいろいろな人と話ができる機会を、「仕組み」として作りました。

ー石塚編集委員
フラットな組織という印象ですが、どのようにして現在の組織文化を作ったのですか?

ー井手さん
今は150人くらいの会社になっていますが、私が社長に就任した2008年頃は、20人ほどの小さい組織でした。創業から8年連続赤字で、いつ潰れるかわからないような状況でした。

社長になったとき、「チーム作りからやろう」と思いました。2、3人が活躍するような組織ではなく、全員が我が事のように取り組んで活躍できるようにしようと考えました。いろいろやりましたが、とにかくうまくいかない。我流ではダメだと思って「チームビルディング」について本格的に勉強を始めました。

そして、学んだことを愚直にやり続けました。「売上なんかいいからチームビルディングをやろう!」と言って、直近の売上や利益を犠牲にしてでもやろうと思いました。3年くらいでようやく成果が出始めて、5年で今のベースができて、そこからは加速度的に良くなっていきました。

ー石塚編集委員
チームビルディングができていない状態で、つまり信頼関係ができていない中で、突然オンラインをやることになって、みんな混乱しているということでしょうか。

ー井手さん
問題は2つあるんですよ。「良い組織ができていたか」と「オンラインになった」と。良い組織ができていれば、リアルかオンラインかは手段でしかありません。みんなオンラインのせいのように言いますが、良い組織ができていたかどうかの問題だと思います。

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■100%リモートでも信頼関係は築ける?

ー石塚編集委員
藤本さんは1ヶ月間海外からリモートで働いていた経験をおもちですよね。そのときのチームメンバーとのコミュニケーションはいかがでしたか?

ー藤本さん
とても大変でした。転職してすぐだったので、人間関係もできていませんでしたから。

そのときに感じたのは、1人だけリモートという状況はきついということです。今は、全員リモートで、環境も同じで、私もそのうちの1人ですが、このときは、みんなは会社にいて、私1人だけが違う場所にいました。通信が切れた瞬間に、私だけ何もわからなくなります。

次のミーティングのときに「そういえばあのときの話なんだけど」と言われて私だけがわからない。さらに、それをつなぐ人間関係もまだできていない。コミュニケーションをロスしているなと感じていました。

ー石塚編集委員
その経験を踏まえて、チームビルディングにおいて、信頼関係はオンラインのみで可能だと思いますか?

ー藤本さん
全員がオンラインだったら可能だと思います。マジョリティがどちらかという問題だと思います。マジョリティが「会社にいること」になると、リモートの人とのコミュニケーションが対等ではなくなってしまいます。全員がリモートでやるならば、私は100%オンラインでも可能だと思います。

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■「マネージャー」の役割とは?

ー井手さん
私自身もそうなのですが、みんな難しい話だけをしたいと思ってるんですよ。例えば、「今期の戦略をどうするか」「あの競合に勝つにはどうしたらいいか」とか。

でも実際には、それを話すためには、それだけを言っても伝わらない。信頼関係ができていない、お互いのことをわかっていない中では、「質」の高いコミュニケーションは難しい。その前にある程度コミュニケーションの「量」が必要です。「いい服着てるね」「なんか元気ないね」「ラーメン食べに行こうよ」など、つまり雑談です。

雑談は、難しい話をするために、日頃からコツコツとお互いのことをよく知って心の距離を縮めるためのものです。これができていると、難しい話もスムーズにできるようになります。

日頃から「量」を重ねていないと、大事な話をするときに細かく説明をする必要が出てくる、ということだと思います。

ー石塚編集委員
テレワークで「1 on 1」を導入する企業が増えたようですが、どうもうまく機能していないように見えるのですが。

ー藤本さん
「1 on 1」はメンバーが話したいことを決める場で、人によって話したいことは全然違うので、それを受け止めなければなりません。きっちりアジェンダを出してくる人もいれば、とにかく雑談したいという人もいる。

例えば「調子が悪そうだな」とこちらから見えたとき、何か悩みがあるのか、それともただの筋肉痛なのか、言ってくれれば話を聞くし、言わなければ注意深く相手の様子を見るだけにする、そういうことが大切だと思います。

ただの進捗報告になってしまい、「個別に進捗管理をされている」と感じさせてしまうと、うまくいかないと思います。

ー井手さん
大企業のようなピラミッド型の組織で、従来のやり方を変えていくことは難しいという人もいると思いますが、大企業の社長さんたちと話をすると、彼らはピラミッド型の組織を決して良いとは思っていません。社員にはできるだけ自発的に生き生きと働いてほしいと思っていますし、そういう組織に変えたいとも思っています。

いきなり全体を変えようとするのではなく、まずは自分の小さなチームからやることです。時間はかかりますが、絶対に良くなりますし、少しずつ周りの見る目も変わってきます。「あのチームだけ、オンラインなのにみんな生き生きと仕事をしていて、成果も出してるな」と。それを広げていくことが大事だと思います。

ー藤本さん
私が日本の会社を見ていてもったいないと思うのは、最初から全部一気に変えようとしてしまうところです。計画と調整に1年以上かけて、1年も経つと状況が変わってしまうので、特に今回のコロナのようなことが起これば、今までの準備が全部無駄になる。

社会の動きは早いので、まずは「自分のチーム」からやればいいと思います。未来永劫変えますということではなく、とにかく1回やってみることです。ダメなら戻せばいいだけです。

ー井手さん
以前、とある大企業の方たちから、「チームビルディングをどうすればいいか?」という相談を受けたことがありました。

社長直轄のプロジェクトで、やる気のある若手のチームが「うちの会社はもっと顧客思考でいくべきだ!」と、ヤッホーブルーイングがどうやってファンとの絆を結んでいるのかを聞きに来たんです。

それで、その企業の方を何十人か集めて、私たちがやっている「ファンイベント」をやりました。管理職の方もたくさん来ていて「とても感激した」と、今度はその企業の本社でやろうということになって、200人くらい集めてイベントをやりました。

最初は3、4人くらいだったプロジェクトメンバーも、今では百数十人になっているそうです。今までにない自主的なプロジェクトということで、社長も喜んで「どんどんやれ!」と。大企業でも、小さな渦を大きくしていくことは可能だと思います。

ー石塚編集委員
今は大企業でも、リーダーに求める役割として、「管理」ではなく「モチベートすること」を重要視するようになっていますが、それができるリーダーであれば、もしその会社でそれが通用しなかったとしても、そのスキルをもって他の会社に移ることは可能でしょう。そういうスキルをもっている人をほしがる会社は多いはずです。

会社がどうしようとしているかとは別に、個人でできる改革はあると思います。

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■質疑応答

質問:ヤッホーブルーイングのようにクリエイティブでユーモアのある社員を育成するにはどうすればいいですか?

ー井手さん
自分からやっていくことです。もちろん、会社の方向性がそれぞれ違いますから、やり方はいろいろあると思います。クリエイティブでユーモアがあることをうちの会社は良しとしていますが、例えば、お医者さんがあまりクリエイティブでユーモアがあることをやっても、それがいいとは限りませんよね。会社の方向性の中で、自分の中に課題感があるなら「自分がやる」ということだと思います。

質問:年上の部下が多い中、若年の子たちがなかなか声を上げてくれません。

ー藤本さん
「何かないの?」と聞いてしまうと、失敗が怖くてなかなか声を上げづらくなるかもしれません。「一緒にやろう」とか「これどう思う?」など、質問の仕方を変えてみてはどうでしょうか。若い人は経験がない分「これ言っても大丈夫なのかな?」という気持ちがあるので、それを引き出すために聞き方を変えるという方法はあると思います。

質問:リモート環境下で新卒・若手・中途入社など、経験が浅いメンバーの自主性や意欲を高めるポイントがあれば教えてください。

ー井手さん
チャレンジさせることだと思います。そして、もし失敗してもそれを責めないことです。「なぜうまくいかなかったのか?」を考えて修正して「次こそうまくいくようにしよう!」と、常に次につながるようにアドバイスをするのがいいと思います。もしチャレンジしてうまくいったなら、ちゃんと褒めた上で「もっとうまくいくためにはどうすればいいか?」と、常に次にチャレンジさせる。それを繰り返すと、若い人は希望をもって自分から走り出すと思います。

■まとめ

ー井手さん
自分が変われば周りも変わっていくので、まずは自分から変わること。すると、誰かが必ず見ているし、仲間は増えていきます。ただ、時間はかかります。辛抱強くやり遂げることが大事だと思います。頑張ってください!

ー藤本さん
やってみれば何かが動くと思います。「at Will Work」は5年限定の社団法人なので、来年で終了になります。5年前は「働き方改革」という名前ではなく「1億総活躍」でした。来年2月に最後のカンファレンスがありますが、この5年で何が変わったのかを話し合います。次の一歩を踏み出すきっかけとして、もしよかったら見にきてください。今日はありがとうございました。

■登壇者プロフィール


藤本あゆみさん
一般社団法人at Will Work代表理事

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2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年、結婚を機に退職しグーグルに転職。代理店渉外職を経て、営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立


井手直行さん
株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長

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1967年(昭和42年)生まれ。ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、現在まで15期連続増収増益、クラフトビール国内400社の中でシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)


石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員

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1988年日本経済新聞社入社。女性活躍推進やシニア雇用といったダイバーシティ(人材の多様化)、働き方改革など企業の人事戦略を 30年以上にわたり、取材・執筆。 2015年法政大学大学院MBA(経営学修士)取得。女性面編集長を経て現職。著書に「資生堂インパクト」「味の素『残業ゼロ』改革」(ともに日本経済新聞出版社)など。日経電子版有料会員向けにニューズレター「Workstyle2030」を毎週執筆中。


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