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一棟貸しホテルと農業民泊による地方再生型起業の手掛け方

 過疎化が進む地方の自治体にとって空き家の増加は深刻な問題だが、それら物件の中には、都会の旅行者が中長期に滞在する民泊施設として再生できるものもある。

ホテルとは異なる民泊物件の特徴は、接客はセルフサービスが基本となるため長期滞在者向けの割引料金プランが作りやすいことがある。Airbnbでは、物件ホスト(貸し手)向けに、長期滞在予約の週割、月割、その他の泊数に応じた割引プランを設定できる機能を提供していることが、総宿泊数の2割が28泊以上の長期滞在者が占めるという好成果に繋がっている。

物件ホストにとって、宿泊者の滞在日数が長くなるほど、消耗品の交換や清掃にかかる手間と費用を下げることができるため、料金を割り引いても収益性は高くなる。長期滞在者を増やす方法はシンプルで、予約の受付期間を6ヶ月先までとして、最低宿泊日数を15泊以上、30泊以上と中長期の連泊に限定すれば良い。

Airbnbには、軽井沢や熱海にある高級別荘の中でも月額30~40万円の利用料で登録されているものもある。1ヶ月間滞在できることを考えると、家族で海外旅行をするよりも安価で贅沢なリゾート体験をすることができる。また、リモートワーカーにとっても、長期滞在可能な別荘は、仕事とレジャーを兼ねたワーケションの拠点として活用されはじめている。

1ヶ月以上の長期滞在向けAirbnb物件

【規制緩和される一棟貸しホテル事業】

 古民家などを宿泊施設に改装して収益化する事業については、安全性の面などから法規制の縛りが多いが、地方で増える遊休物件の再生や、訪日観光客の誘致を目的として、条件が緩和される方向にある。金融機関でも、空き家を民泊物件に改装する事業者向けの融資には、前向きな姿勢を見せ始めている。

 家主が常駐しない民泊物件には、「年間営業日数が180日以内」という規定があるため、資金を投じて古民家をリノベーションする場合は、投資利回りが低くなってしまう。そこで、Airbnbに掲載するオーナー達は、旅館業法で定められた「簡易宿泊所」としての営業許可を取得することで、営業日の上限規制をクリアーしているケースが多い。そのため物件の改装工事は、旅館業法の基準に沿った仕様で行われる。

2017年に改正された旅館業法では、客室の個数と最低面積、トイレの設置個数、フロントの設置条件などが緩和されため、古民家を一棟貸しホテルとして改装することも容易になっている。法律上は「ホテル・旅館」と「簡易宿所」の区分があるが、簡易宿所としての営業許可を取得すれば、フロントを設置する必要もないため、非対面での鍵の受け渡しや接客対応も可能になる。

そこに向けては、スマートロックや遠隔操作が可能なキーボックスと連携したセルフチェックインシステムが多数開発されて、安価で導入できるようになっている。一例として、株式会社電縁が開発する「maneKEY(マネキー)」は、予約者のスマートフォンにQRコードを発行した後、宿泊施設の入り口に設置したタブレット画面にQRコードをかざすと、AIによる本人認証が行われ、ルームキーの暗証番号が表示される。

【移住希望者の農家民宿起業】

 地方移住の希望者が、移住後の収入源を確保する方法としては、「現地の会社に就職」「リモートワーク」「現地での起業」という3つの選択肢があるが、移住者を誘致する農村部の自治体では、地元での起業プランとして農家民宿の経営を推奨するようになっている。

農家民宿とは、宿泊サービスに加えて、旅行者に田植え、稲刈り、果物の収穫、蕎麦打ちなど、多様な農業体験サービスも提供するもので、経営ができるのは、農山漁村余暇法という法律によって、農業者や漁業者に限られていた。しかし、2018年からは、それ以外で現地に住む個人や団体の開業も認められるようになった。

農家民宿の開業には、旅館業法の営業許可を取得する必要があるが、通常の宿泊施設よりも面積基準などが緩和されるメリットがある。さらに、農業体験サービスをセットすることで付加価値を高めることができ、ファミリー客の他に、小中高校生の自然体験学習、企業の社員研修としても使われて、宿泊日数も長くなる傾向がある。このような農村滞在型旅行は、「農泊」として国が地方自治体と連携する形で推進しており、農村地域の新たな収益源にすることを目指している。

農泊ポータルサイト(農林水産省)

《農業民宿の法的メリット》
 ○通常より狭い客室面積でも簡易宿所の許可取得ができる。
 ○地元消防署の判断により、消防用設備を簡略化できる。
 ○囲炉裏や茅葺き屋根など火災対策の制限も緩和される。
 ○農家民宿が宿泊料金に農業体験を付加しても旅行業法に抵触しない。
 ○浴室やトイレ設置の条件も緩和される。

上記以外でも、宿泊客の食事提供に使用する厨房を家庭兼用のキッチンでも許可したり、農家民宿が自ら生産した米や果実を原料とした酒を、宿泊客に提供することを認めたりする規制緩和も、自治体によっては行われている。このように、法律面の規制緩和と、自治体の支援により、農業民宿の開業はしやすくなっており、移住先での起業を目指す人の事業テーマとして人気が高まっている。

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