「昔は苦手だった」を得意とするビジネスリーダーは多い

「苦手な仕事」を強みにした人は多い

日経COMEMOの企画にて、「#苦手な仕事克服のコツ」というテーマで記事が募集されている。誰でも苦手だなと思う仕事はあるだろう。それが、性格や個性に繋がっている人も少なくない。
例えば、ADHDの傾向がある人はコツコツとした仕事やミスが許されない堅実な仕事が不得手だ。また、ASDの傾向がある人は人の出入りが激しい仕事や突発的なイベントが多く定型的な要素の少ない仕事を苦手とする。
このような個性や性格に根差した「苦手な仕事」は、基本的には「やらない」で済むような仕事や環境に自らを持っていくことが解決策になる。克服しようとするよりも、うまく付き合っていくほうが良い結果を導きやすい。
一方で、営業活動やマネジメントなどのテクニカルなスキルが生きてくる「苦手な仕事」は、当初は自分に合っていないと感じていても、そこから努力することで逆に「得意な仕事」となることがある。

『日経xWoman』の記事では、阿川佐和子氏が、苦手なことを続けていたら本職になったと語っている。阿川氏のように、継続して活動する中で熟達し、他者よりも秀でた強みへと昇華させるケースは多い。

最低の営業から最高の営業に

苦手な仕事を得意としたビジネスリーダーとして、元富士ゼロックスの渡邊 茂一郎氏(現シェルパワークス株式会社 取締役)の事例が有名だ。
渡邊氏は新卒として富士ゼロックスに入り、半年の研修後、京都営業所でコピー機販売のセールスマンとしてキャリアをスタートさせたが、まったく売ることができなかった。研修中の実習でも1台も売ることができず、営業成績は全国約600人の中で550番程度だった。当時の渡邊氏よりも下の順位表にあるのはほとんどが休職中で、実質、全国最下位のようなものであった。その状態で2年目、3年目となり、あまりにも夢も希望もない心理状態で、立派な家の庭で犬がのんびり寝ているのを見て、「オレも犬になりたい」と心底思ったと語る。
そのような渡邊氏が変わるきっかけになったのが、同期入社の同僚と「アプローチブック」という2つの存在だった。その同僚は素晴らしい営業成績を残しており、彼の担当していた顧客を引き継ぐことになった。そこで3日間、一緒に影響をしたのが「自分が変わらないといけない」と自分の殻を破る決心に繋がったという。
その同僚は「営業はゲームだ」と述べ、予測にもとづいた臨機応変の受け答えで顧客担当者からうまくニーズを聞き出し、その解決策として新しい機種への買い替えや新商品の購入を提案していた。あまり自分から話さないのに、次々と受注をとっていた。
しかし、渡邊氏は同僚のやり方は自分には無理だと考えた。そこで、低業績者向けの研修で教わった「アプローチブック」を手作りすることにした。A4版のバインダーに、商品紹介の写真や、顧客が気づきにくいコピー機の問題を表す絵などをたくさん綴じ込み、とにかく面白くて、独創的なアプローチブックを作った。時には、コストパフォーマンスの良さを示すために、現金をアプローチブックに貼り付けたこともあったという。
この結果、「顧客にどうアプローチし、提案していくか」というセールスストーリーを何通りも作ることができ、「日本一売れないセールス」から「日本一売れるセールス」に変身を遂げた。
できない現状の理由を自責として、これまでの自分の殻を破ること。そして、勝ち筋となるストーリーを作り上げるために目の前の仕事に対して創造性を発揮することで、渡邊氏は苦手を克服している。

強みにできる「苦手」と強みにできない「苦手」

さて、それではどのような「苦手」であっても克服するように努力すべきかというとそうではない。キャリア開発の基本からすると、努力して苦手を補うよりも、得意とする自分の強みを伸ばし、一点特化したほうが市場価値が高まりやすい。飛びぬけた個性は稀少性があり、求められる環境とマッチすることで大きく評価される。
では、克服すべき「苦手」とそうではない「苦手」をどう区別すべきだろうか。これには2つのアプローチがあると思われる。
1つは、冒頭でも述べたが、「性格」や「個性」といった自分の根幹に根差した要因からくる「苦手」は克服が難しい。克服というよりも、苦手であることを受け入れて、付き合っていくことを覚えることをお勧めしたい。
もう1つは、「苦手」のアウトソーシングができるかどうかだ。これは経営者やアーティストによくみられる。自分が苦手な仕事は、従業員に任せたり、一緒に働く仲間の中で得意な人に担当してもらう。
しかし、「苦手」な仕事をアウトソーシングできず、得意分野を伸ばすことに集中できる環境に移ることもできないときは腹をくくってやらなければならないこともある。創業経営者の多くが起業初期の苦労として、「会計を勉強しておくべきだった」「労務を学んでおくべきだった」と言って、四苦八苦しながら学び、なんとか乗り越えてきた話をする。またアウトソーシングできるほどの資金力のない状態では、創業経営者は仕事内容に好き嫌いを言っていられず、事業を継続していくために取り組むことになる。
だが、そうやって取り組むなかで、自分でも気が付かなかった新たな強みを発見することもある。まずは「苦手」だからと言って目を背けるのではなく、とりあえず取り組んでみて、そのうえで環境を移すことができたり、アウトソーシングできるようになれば頼めばよい。そうではないときは、目の前の仕事に得手不得手を言わず、取り組むことが「苦手」な仕事を克服するために大切なことだろう。


#COMEMO ##苦手な仕事克服のコツ


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