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ウクライナ問題から学ぶビジネススキル「窮した人への接し方_轍鮒の急」

窮した人の訴状にどう相対するか

先日、ウクライナのゼレンスキー大統領による国会演説が行われ、その素晴らしい演説と平和を望む声に多くの人々が称賛の声を上げた。国会演説前は賛否両論が渦巻いていたが、蓋を開けてみるとほとんどのメディアは演説を称えた。日本は1940年代の戦後復興、2010年代の震災復興と壊滅的な被害を受けた都市機能を復活させることには実績がある。ウクライナに平和が戻った暁には、多くの日本企業と日本人が復興のために力を尽くすだろう。

このように日本では大成功を収めたゼレンスキー大統領の演説だが、他国では批判的な態度を示して、ネットで炎上するという事態も起きている。日本でも、幾人かの識者や政治家のコメントが批判を集めている。日本の場合は、さすがに服装に苦言を呈するようなことは見かけないが、「ウクライナの政治や外交も良くはなかった」という『そもそも論』が議論を巻き起こしている。

窮した人のアドバイスは「轍鮒の急」を意識する

ウクライナの状況やゼレンスキー大統領の演説に対する、さまざまな反応を見ていると、窮している人に直面した時、その人がどのような態度をとるのかが透けて見えるようだ。中には、正論を述べて問題がなぜ起きたのかについて分析し、言及する人がいる。また、ある人はゼレンスキー大統領の経歴やこれまでの言動(ロシア侵攻以前から)をまとめて、ゼレンスキー大統領をはじめとしたウクライナの政治家の質について問う姿勢の人もいる。窮している人に対して、自分の分析結果を述べるべきではなく、手の差し伸べるべきだという人もいる。

今回は戦争という極限状態が切っ掛けとなっているが、スケールを小さくして、自分の身の回りのレベルにまで落とし込んだとき、何が考えられるだろうか。困難に直面している人、危機に窮している人から相談を受ける場面は、多くの社会人のビジネスシーンでも数多くあるだろう。

「職場の人間関係に困っている」「プライベートで問題が起きて仕事に影響がでそうだ」「対応がうまくいかず、顧客を怒らせてしまった」「実はハラスメントの被害にあっている」

そのような相談を持ち掛けられたとき、皆さんはどのような対応をとるだろうか。

このような窮している人に直面した時に、アドバイスの参考になる故事がある。中国の戦国時代の思想家『荘子』の言葉で「轍鮒の急」という。轍鮒の急のストーリーを大まかに説明すると以下の通りだ。

荘周という男は家が貧しく、監河侯(役職)に穀物を借りに行く。そうすると、監河侯は「もうすぐ年貢が入るので、そこからお金を貸そう」と言う。それを聞いた荘周は憤然と起こって、顔色を変えて話し出す。
私が昨夜、道中で呼ぶ声がするので探してみると、轍に貯まった水たまりに鮒がいるのをみつけました。私が鮒にどうしたのかと問うと、鮒は「私は東海の波臣であり、なんとか一升の水をもらえないか」と乞いました。そこで周は「わかった、私はこれから旅をして呉国と越国の王に会うつもりだ。そこで、西江の水を動かして貴方を迎え入れよう。そうすれば、もう干上がることもないだろう」という。
それを聞いた鮒は猛然と怒り始めます。「私は常に共にいるべき水を失って、いるところがないのだ。一斗一升の水さえあれば元気になるのだ。それなのに、貴方はそんなに悠長なことを言っている。そんなことを言っていたら、私は明日、乾物屋の軒先に並べられているだろうさ。」

この故事成語は、困窮している人に問題が発生した原因を探って根本から解決するように提案したり、正論を述べてアドバイスしても意味がないことを示している。窮している人は、目の前の難題で手一杯であり、まずはその問題が解決することができなければ何も建設的なアクションを起こすことができない

言われてみると当たり前のことだが、ゼレンスキー大統領の演説に対する反応を見ていると、その当たり前のことができない人が多いように見える。そして、実際にさまざまな職場で起きている悩み事や相談を聞いていると同じような場面に直面する。

例えば、職場の先輩と後輩の関係で年齢が近しいからとチームを組ませたら、人間関係がもつれて問題が起きているとする。先輩は後輩が仕事があまりにもできず、物覚えも悪いので一緒に仕事をしたくないという。後輩は先輩の態度があまりにも冷たく、ストレスを感じてしまいミスを頻発してしまうという。このとき、貴方ならどのようにアドバイスをするだろうか?

窮している人に対するアドバイスは、まずは問題の所在を明らかにしたうえで、目の前の問題からいったん遠ざけ、冷静にさせることが大切だ。まずは一斗一升の水を与え、活力を与えよう。問題の原因を探ったり、ふさわしい行動や振る舞いについて考えたり、再発防止について論じるのは、目の前の火事を鎮めてからではないと、どれだけ良いアドバイスをしたとしても当事者に聞いてもらえることは、残念ながらほとんどないのだ。





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