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スローファミリー:家族のようなつながりをもったコミュニティ〜#理想の家族

(Photo by Duy Pham on Unsplash)
日経COMEMO、一般社団法人Public Meets Innovationのお題の「理想の家族」に答えてみたい。

一年半前に、「スローイノベーション」というコンセプトの会社を立ち上げた。ファストイノベーションが市場での短期的な成功をめざすのに対して、スローイノベーションは多様なステークホルダーとつながり、長期的に地域や社会を本質的に変えていこうという取り組みである。この一年半は、この「スローイノベーションというコンセプトを体現する会社とは、どんなカタチか?」という問いを追いかけ続けた時間であった。


スローファミリー

スローイノベーションを追求していくと、会社は開かれコミュニティの一部となったつなげる30人の仲間と働き、つながり、行事も一緒に祝うようになった。その結果、ワークとライフが融合していくのを感じた
昭和の時代の家族型経営とは、会社がもっとも大きな存在となり、家族はその一部であった。従業員にとって「会社=コミュニティ」となり、会社中心で生きていく構図を作り上げた。
それに対し、スローイノベーションの世界観では、会社はコミュニティの一部にすぎない。

「スロー」の本質は、結果を急いで求めるのではなく一歩下がって問題を全体から見渡すこと、そして問題解決そのものよりも関わる人たちのつながりを大切にすること。この原則を「家族」に適用した「スローファミリー」とは、狭義の戸籍上の家族ではなく、「家族のようなつながりをもったコミュニティ」である。そんな「スローファミリー」こそが、「理想の家族」の関係である。


少子化対策は「家族」のデコンストラクション

少子高齢化は、日本という国自体が存続できるかどうかの問題である。特に地方に行くと、経済的にも文化的にも豊かな地域であっても、子どもが急激に減少し、廃校と合併が繰り返されている。

高齢化に対応する予算がふくらむ中で、子どもを増やすことを政策的に後押しするのは容易ではない。現代の核家族化した「狭義の家族」単体で、共働きをしながら2人から3人以上の子どもを産み、育てることを期待するのは現実的だろうか。子ども庁は、どんなロジックモデルを立てて、少子化を食い止めるというアウトカムを達成することができるのだろうか。

一つの可能性として、「狭義の家族」を解体して、「スローファミリー」を社会の単位にすることはできないだろうか。スローファミリーは、狭義の戸籍上の家族ではなく「家族のようなつながりをもったコミュニティ」なのだが、少子化対策の文脈で言うと、「働き暮らす場所を共有したり、ともに子育てや家族の行事を共有するチーム」だ。


スローファミリーのための新たなハウジングの仕組み

スローファミリーの実践としてまず思い出す取り組みが、北欧発祥の「コレクティブハウジング」である。価値観を共有した多数の家族や個人が、ゆるくつながりながら暮らす取り組みだ。

スイスのチューリッヒでは、公共住宅がコレクティブハウジングとして運営されることが増えていて、その建設に向けたプロセスがとても面白い。大きな土地を行政が入手して公共住宅にしようと決まると、コレクティブハウジングのコンペが出される。それに応募したい人たちは100人くらいで組合をつくり、どういう人たちが、どういうコンセプトで、どういう建物をつくり、どういう運営をしていくのか、というプランを提案するのだ。私が友人に誘われて参加した組合のミーティングは、500人規模で暮らす公共住宅のコンペをめざしたもので、建築や都市農業の専門家なども入って真剣な議論がなされていた。ユニークなところは、これは建築のコンペではなく、実際に一緒に住みたい人たちの組合同士のコンペであることだ。

次の記事は2013年のものだが、残念ながら日本では大きく広がっているとは言えない。「共同生活」のようなイメージが強すぎるからだろうか。スイスの事例のような、「理想のまちをつくる」イメージとはかなり異なる。

米国ではコレクティブハウジングに似た、「コ・ハウジング」という取り組みが広がっている。コ・ハウジングは、個人主導で進められる。発起人が大きな土地を用意し、そこにメンバーを集め、それぞれの一戸建てをつくる。バラバラで土地や建物を買うよりも効率的なため、浮いた予算と土地で共有棟をもう一つ建てられるところがミソだ。そこに共有キッチンなどの助け合い機能を集中させることで、各家のプライバシーと、共有棟での助け合いを両立しようとするものだ。

私の友人もシアトル郊外で、このコ・ハウジングに取り組んでいる。まず友人夫婦が発起人となり、適切な土地を見つけ、事業計画を立て、銀行に融資を受けるところから始まる。そして数人のコアメンバーを募り、ワークショップを重ねてミッション、ビジョン、バリューをつくる。まさに、会社を立ち上げるようなプロセスだ。大枠が決まったら、言語化された想いをベースにマーケティングをして、一緒に住む人たちを募集していく。


スローファミリーを生み出す「コミュニティの結節点」

スイスの行政主導のコレクティブハウジング政策、そして米国の個人のもつ起業家精神主導のコ・ハウジング事業。どちらも、「理想のまち、理想の家族をつくっていくための仕組み」である。これらが日本の中にも広がっていくことを期待する。

最後、コインランドリーが地域の人たちの居場所であり、コワーキングする場にもなっているという記事を紹介したい。コインランドリーに併設されたネイルサロンが管理人を兼ねているなど、ユニークな生態系をつくっている。

このような自然発生的に場を生み出していく「コミュニティの結節点」のような場所が、「スローファミリー」という家族のようなつながりをもったコミュニティを支える新たなインフラとなり、日本的な「理想のまち、理想の家族をつくっていくための仕組み」になり得るかもしれないと思うとワクワクする。

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