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国民が直接総理を選ぶ唯一の機会(のようにみせかける)党総裁選挙について〜タフでしたたかな自民党の衆院議員選挙の序曲が優雅に奏でられた〜

小学4年生の時の自民党総裁選の思い出


1978年の秋、祖父と父がやや緊張した面持ちで自転車に乗って別々にどこかに出かけていった。
帰ってきた父にどこに行ってきたかと聞くとソーサイ選挙だという。ギインよりも偉そうだし、なぜ父がそのような権利をもっているのか、母は何故いかないのか、街にいつもの選挙のポスターがないのか、色々訝って

「ソーサイ?いつもの選挙とは違うの?」と聞くと、誇らしげに

「自民党員でないと投票できないんだ。」と父は言った。

そして急に毅然とした顔つきになって

「お父さんは総理大臣を選びに行ってきたんだよ」

と答えた。

後からわかったことだが、一般党員投票はその時の1978年の総裁選挙が初めてのことだった。

大平陣営は田中派の全面支援を受け、過去の都道府県別の党員名簿を手に入れて丁寧な集票活動を行い、福田、中曽根康弘、河本敏夫に圧勝した。
福田は予備選での勝利を疑っていなかったので、「(予備選で大差がついたら)天の声に従うべき」で、その場合には、党大会での投票は行わないことを呼びかけていたので、「総理大臣が自分で言ったことを覆すわけにはいかない」と立候補を取り下げ、記者たちに対しては「天の声もたまには変な声がある」という迷言を残して舞台から去った。

河野氏は、石破氏、小泉氏の国民の人気の高い有力議員の支持を得て党員投票で圧倒的な支持率を背景に最初の投票で過半数を押さえ総裁当選を目指したが思ったように票が伸びず、1票差でまさかの2位に留まった。

河野氏は決選投票で地方票は39票と8票の岸田氏を大きく上回るも国会議員票を多く集めた岸田氏に破れた。

党員投票は、4割は所属団体の組織票とも言われるが、私の父や祖父と同様に一般国民の支持に近いと言われている。2012年の石破氏と安倍氏の選挙同様、総裁選挙は地方で圧倒的に勝っても派閥の国会議員票を集めないと総理にはなれない構造だ。

二階氏は、これで目論見通りだったのか

9/9の総裁選を立候補しない事への記者会見で「ご存知のように私は派閥がありませんから」と自虐的ともみえる寂しい微笑をみせた。

吹っ切れたのか、最近の菅総理の表情は柔らかだ。緊急事態の全面解除にも目処が付き安堵する気持ちもあるのだろう。

思い返すと、5年在任している実力幹事長であり、菅総理誕生の道筋をつけたのだから当然と言えるが菅総理は哀れなほどに二階幹事長に気を使い続けてきた。

支持率低下のきっかけとなったGoToキャンペーンにこだわったのも日本旅行業協会会長でもある二階幹事長への配慮であり

そのGoToキャンペーンを苦渋の判断で停止した事のお詫びにと、二階氏の仲間の忘年会に律儀に40分、顔を出したおかげで「5人以上の会食」に総理自身が参加したと批難を浴びその頃から首相の支持率が下がり始めた。

冷徹な仕事師の様に見えた総理が、意外にブレているように国民にみえてしまったのが、緊急事態宣言を巡る東京都小池知事とのやり取りだった。

コロナを国民が楽観視している昨年秋頃は、不人気な経済活動の自粛施策に踏み込む政治リスクを避けるために「あくまで現状を知る自治体東京都の要請を受けて」と駆け引きをしていた。今年春以降、デルタ株などの蔓延等で緊急事態宣言の発出を求める国民の声が主流になると、今度は「分科会のご審議とそれを踏まえた知事からの要請を受けての判断だがと前置きしつつも、私個人としては〇月○日までの緊急事態宣言発出が望ましいと思っている」と小池知事に振り回されない姿勢を必死にアピールしていた。

こうした小池都知事を過剰に意識していると思える言動も、二階氏が、都知事の国政復帰と自分の代わりに総理に担ぐのではないかという疑心暗鬼の気持ちが総理にあったのではないか。

安倍さんらの動きを警戒しているのが二階さんで、小池さんを手中に収めていることをブラフにし、続投を狙っているのです。

自民党総裁選への出馬を表明した岸田文雄前政調会長が26日の記者会見での総裁を除く党役員の任期を「1期1年、連続3期まで」にすべきだと提起した。それを打ち消すために5年にわたり幹事長を務める二階氏の交代を決断。続けて、総裁選前に党役員人事にも手をつけ政権浮揚を図る算段だったが、要職の引き受け手が現れず、万策が尽きる。最後に幹事長を打診したのは、同じ神奈川県出身で32歳下の小泉進次郎氏だったという。(これはさすが本人も断ったのだろうがこの人事案に総理が相当追い詰められていたことがわかる)

結局、総裁選挙前の人事刷新も封じられるなか、総裁選挙の前に衆院解散を強行するという1つの案が毎日新聞の報道で流れ、

「総理は保身のためならなんでもありだ」と自民党国会議員の気持ちも大きく離れ、総理の専権事項の解散権も封じられる。

総理は戦意を完全に喪失した。

麻生太郎副総理兼財務相(80)と官邸で面会した際は「正直、しんどい」と弱音を漏らしていた。

総理は退任し二階氏は幹事長に留まり、本日の総裁選に至る。

立ち止まって考えるべきだったな。恩知らずだった、ということだ」(二階氏)

二階氏は感情をみせる時「愚問」という言葉で反応する。

8月24日の記者会見では二階派は菅義偉首相の再選を支持するかを問われ「当然のことだ。愚問だ」と述べたが、8月26日の岸田氏の立候補等動きを察知して派閥内にも色々な意見があることを察知してのことだったのだろう。

また9/28でも、決選投票、派閥で結束し対応の考えを聞かれたときにも同じく、愚問という言葉が出た。

「(派閥でまとまって)対応したくない人は出てってもらうよりしょうがないね。そうでしょ?ちょっと愚問じゃないかな。こういうプロの世界では

自らが担ぎ上げた総理総裁の再選を支持する、派閥というものはまとまって投票行動し影響力を示しポストを得る、それはそのとおりだが、思い通りにならない時、締め付ける感情を見せる時に怒気を含んだ「愚問」という言葉を使う。

こういうプロの世界では。

相当、国民から離れた怖い言葉だ。

先程のこの記事の亀井静香、山崎拓などの長老の放談のなかに真実がある。

亀井:あれは紀伊半島の山賊だからね。素朴な正義感なんかはなく、権力を自分がどう振るうかしか考えていない。しかし、こういう時にはああいう男が強いんだ

自らの派閥から候補を出さずにキャスティングボードを握る戦略だったが、今回は2A(安倍、麻生)に権力基盤を戻された感がある。

自民党というタフでしたたかな組織

高市氏の出馬で自民党は保守タカ派への配慮を示すことができると同時に、議員票で河野氏を上回る得票を獲得したことで、安倍元総理の影響力が強い事を示された。安倍総理の意向もあり要職に着くことが想像される。何よりも、これまでは小池都知事が女性初総理候補の第一人者だったが、ここで先頭に出た感じがある。

河野太郎氏もまだ若いので、ここで閣僚ではなく党の要職の経験を積み、基盤を固め次に備えることが出来る。麻生副総理も河野太郎氏を擁する派閥の長として存在感を示しつつ、派閥としての河野推薦を行わなかったことで岸田新総裁誕生への恩を売ることができた。

野田氏の最後の立候補は男女半々の選挙戦となることで新しい自民党をアピールした。自民党が社会的弱者マイノリティにも寄り添う政策を行う懐の深い政党であること主張し、リベラル票が野党へ流れることへの布石を打った。初挑戦で推薦人20人を上回る34人の得票は大きい。

岸田氏は、どうしても寝技師コンビの裏のイメージの強い菅、二階のイメージを真面目さ・誠実さで刷新し、11/7あたりとされる衆議院選挙まではご祝儀相場で、河野太郎でなくても自民党の顔として衆院選挙で勝てる事を証明するだろう。

そういう意味では、候補者はそれぞれに得るものがあり、また来たる衆院選挙に向けてのイメージ刷新を実現した自民党にとっては最高の総裁選挙だったといえる。

つくづく自民党という政党は、しぶといしたたかな政党だと思う。

あえて敗者がいるとしたら、国民的人気を背景に河野太郎支持に回った石破、小泉進次郎両氏の政治的影響力は一気に陰りをみせるかもしれない。

新総裁が決定したあと、二階幹事長は「党則に基づき新総裁選出後は幹事長職も総裁に一任、、、云々」と総裁選後の党執行部人事の手続きについて不機嫌そうに原稿を読みあげていた。

総裁を除く党役員の任期を「1期1年、連続3期まで」にすべきと二階氏を念頭においた岸田氏の踏み込んだ発言に、岸田さんは今回は本気だと感じた国会議員も多いという。また、現職菅総理と戦ってでも総理総裁を目指すと腹をくくった岸田が今回の結果を呼び込んだといえる。

結局、喧嘩は1番怖い奴を死ぬ気で刺しにいったヤツが勝つ。

党役員人事がどうなるか、二階氏がどういう形で影響力を残すのか、が今後の見どころだ。

党改革と世代交代は岸田新総裁のもとで進むのか

自民党にとって見れば大団円にみえる総裁選挙だが、世論の支持が高かった改革派の河野氏の処遇がどうなるのか等、慎重に今後の党内人事を見守る必要がある。

岸田氏は最初の当選後のスピーチのように党内融和優先で過激な改革は行わないだろう。また選挙でも党の顔として一定の役割を果たすが、河野氏と一緒だったら改革のイメージを国民にアピールできた若手(3回生)は苦戦するしれない。一方で派閥長老議員は順当に当選し、与党自民党の高齢化・保守化に拍車がかかるかもしれない。元総理たちの亡霊が徘徊する長老政治が残り、改革が先送りされる可能性は拭えない。

この選挙で自民党は党改革の最後のチャンスを失い、国民は国政の世代交代と抜本改革の機会を失ったことにならないように、11/7の衆議院議員選挙まで新総裁での新体制を私達は見極めないといけない。




















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