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ユーロ圏のインフレはこれで本当に終わりか~「最後の砦」となるサービス業~

ECBのハト派転換が話題になっております:

実際インフレ圧力の退潮は感じます。11月30日に公表されたユーロ圏11月消費者物価指数(HICP)は前年同月比+2.4%と7か月連続で伸び幅が鈍化し、2021年7月以来、2年4か月ぶりの低い伸びとなりました(以下特に断らない限り前年比)。食品、アルコール・タバコを除くコア指数も+3.6%と+4%を割り込んでおり、インフレ基調が失速していることは間違いないでしょう:

既に年内最後となる12月14日の政策理事会に関しては2会合連続の利上げ見送りが既定路線と見られていましたが、これを追認する結果と考えられます。もっとも、市場が織り込み始めている2024年4月前後の利下げはまだ判断しかねるところです。かねてECBが注視するのは雇用・賃金情勢を色濃く反映するサービス物価動向であり、それ自体は依然+4%と高い伸びが維持されています:

本当に利下げが現実味を帯びるには四半期に一度公表される労働コストや労働組合の妥結賃金動向で明確な折り返しが確認される必要があります。この点、10月初頭にはチーフエコノミストであるレーンECB理事が賃金の伸びが今後数か月で穏当なものになるとの認識を示しつつ、「本当に縮小しているかどうかは来年のイースター(復活祭、3月末)ごろにならないと分からない」という見解を示していました。「最後の砦」であるサービス物価の高止まりが明確に修正されたことを確認しない限り利下げ議論は難しく、それが4月という想定は早過ぎるように感じます。

サービス業の人手不足は消えたとは言えない

実際、10月に発表された欧州委員会の企業サーベイを見ると、事業活動の阻害要因として「労働力」と回答した割合は製造業に関してはピークアウトが確認できる一方、サービス業については高止まりという印象が残ります:

サービス物価が思うように下がってこない背景に未だ企業が直面する人手不足感があるのは間違いないでしょう。サービス業に関する調査内容をさらに掘り下げると事業活動の阻害要因として「労働力」と回答した割合は依然最多だが、「需要」との回答割合も肉薄しつつあることが分かります:

この傾向は製造業も同様ですが、業況を支える「需要」がそもそも不足しつつあるという状況が続けば、必然的に「労働力」も不要になるはずであり、賃金の騰勢も緩んでくることが期待されます。今はその分岐点に立っていると言えそうです。なお、「資金繰り」との回答割合が増えていることからも利上げ効果は確実に浸透していると考えられます。ちなみにECBが四半期に一度公表する銀行貸出態度調査では貸出態度の厳格化傾向は落ち着きを見せているものの、金利上昇による借入需要の大幅後退は鮮明です:

これと貸出実績もこうした調査と整合的な結果になりつつあり、家計・企業向けの双方で失速する現状がある。理論的には時を置いてインフレ圧力の後退が想定される状況にあります。

「利上げ停止」と「利下げ着手」は別の次元の話
以上で見るように、累次の利上げ効果は確実に域内経済を抑圧しています。緒に就き始めた感のある賃金・物価スパイラルの流れを完全に断ち切ることができるのか否か。今はその判断の瀬戸際にあると言え、レーン理事の「まだ判断できない」という認識は率直な胸中なのでしょう。

ちなみに11月30日には11月HICPと同時にユーロ圏10月失業率も出ており、これも6.5%と統計開始以来最低水準で張り付いており、これだけを見れば、とても利下げを議論できるような状況とは言えません。実体経済の失速を踏まえ、ECBの利上げ停止は概ね確実なものになってきてはいるものの、それと利下げ着手はまた別次元の話と切り分けた上で、「次の一手」やそれに伴うユーロ相場見通しを練る必要があるでしょう。

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