見出し画像

「中途入社」の活躍度合は、企業の長期成長性を測る尺度

少し前まで、「中途入社」というラベルには、影が感じられた。新卒一括採用、同期重視、純血主義の日本企業において、二級市民の負い目をにおわせる「中途入社」。私が20+年前に新卒で就職した外資系コンサルティング会社でさえ、新卒こそが、白紙からファームに鍛えられ、最適化された即戦力という思い込みのもと、長らく生え抜き重用文化が残り、「中途のひと」への視線はどこか冷たかった。

しかし、この5年間程度で、そのような影は、急速に薄まったと感じる。「中途入社」の数が増え、その存在が当たり前になったのだ。その結果、クライアントとする日本企業では、ミドル層人材に二極化が起こっている;新卒採用から「ずっといるひと」と、「傭兵」のように複数社を渡り歩くひとの混在である。

ミドル層とは30代後半から40代後半、ちょうど就職氷河期時代にあたる。苦労して入っただけに、入った会社で働き続けたい安定を志向するひとも多いだろう。その一方、自分の実力を活かすベストな場所を求めて、外資も日系も混ぜながら転職を繰り返すひとも一定数いる。

この二極化は、人材流動化の過渡期の現象と思われる。年長者を中心に終身雇用を引きずりながら、同時に、若い世代では人材の流動化が進む。その結果、職場の要となる中間層では、「ずっといるひと」と「傭兵」の間に文化摩擦が避けられない。

摩擦の良い側面は、スタメンが守る会社の価値観が中途に伝わると同時に、中途から古参へは、新しいものの見方が示されるやり取りだ。ある会社の常識が、外の世界で常識とは限らないことに、中途組が気づかせてくれる。

その反面、うまくいかないと、二つのグループ間で反目が起こり、早晩、能力のある中途採用から辞めていってしまうことになりかねない。特に「傭兵」タイプは相対的に職場を評価できるため、「ここじゃないな」を感じると、潔く去ってしまう。

では、どうすれば、摩擦をポジティブな効果に導けるのか?三つの必要条件があると考える。

まず、スタッフの出自にかかわらず、共通して持てる「想い」があること。例えば、ある日系企業では、日本発の世界観を大切にしながら、グローバル展開を志している。この理念に惹かれて中途入社する、もと外資系社員も多い。想いの共有は、同じ方向を向いて仕事をする素地となる。

二つ目には、忖度の連鎖に頼らない、風通しの良い風土が挙げられる。「ずっといるひと」の間だけに通じる符牒で社内コミュニケーションが進むと、中途入社組は、まるで言葉の話せない外国に来たようなハンディを感じてしまう。外から入ってくる新しいスタイルや文化を柔軟に受け入れるためには、組織の上下を問わず、開かれた態度が不可欠だ。

最後に、能力主義の査定が必要条件となる。「誰を長く知っているか」「誰に長く仕えたか」によって、出世が決まってしまうようでは、能力がある中途も限界を感じるだろう。生え抜き、中途に関係なく、優秀なひとが人望を集め、査定に反映されれば、足の引っ張り合いではなく、良い切磋琢磨が生まれることになる。

これから人材の流動化は一段と進む。ならば、企業は、古参も中途も含め、多様なタイプのスタッフが、お互いを高めるように混じる環境を作り出さねばならない。逆に、敵対するようでは、組織の力は落ちるばかり。違う方向からうねりくる潮がまじりあって、プランクトン豊富な潮目になるような、そんな仕事場を作れれば、それは企業にとって競争力の源となるだろう。


#日経COMEMO #この5年で変化した働き方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?