緩和策としてのマイナス金利解除~スウェーデン卒業~

5年ぶりのマイナス金利解除
12月19日、スウェーデン国立銀行(リクスバンク、中央銀行)が政策金利であるレポレートを+25bps引き上げゼロ%とすることを決定し、約5年にわたって続いたマイナス金利政策を解除しました。決して芳しくない経済・物価情勢の中で副作用を念頭にマイナス金利解除を決断したという動きの意味は小さくないと思います。こうした動きがマイナス金利のパイオニアである欧州においてどの程度拡がってくるのか(あるは拡がってこないのか)は日銀の金融政策運営を考える上でも重要な示唆を持つと考えられます。

ポイントは副作用対応であること
今回の決定において最も重要なことは景気過熱対応ではなく副作用対応としての利上げであるということでしょう。欧州でも日本でも「マイナス金利政策は副作用の方が大きいのではないか」という機運が漂う中で、実際にその解釈を前提として政策変更に至ったケースはありませんでした。例えばリクスバンクが公表した金融政策レポートには「(2019年のように)経済が強い状態から弱い状態に向かう中でレポ金利を超低水準から引き上げるということでインフレ目標が危機に晒されることはない」との記述がありました。「経済が強い状態から弱い状態に向かう中でレポ金利を超低水準から引き上げ」だったということは自認しているわけです。実際、今回発表されている経済・物価見通しも決して芳しいものではなく、物価見通しも向こう2年にあたって2%に届かない見通しです。イングベス総裁はマイナス金利政策が景気押し上げに効果を持ったことは認めつつ、「マイナス金利政策が極めて長期にわたり導入された場合、経済に何が起こるかはまったく別の問題」と述べています。今回は効果と副作用を天秤にかけ、後者が上回ったということでしょう。

緩和策としてのマイナス金利解除
今回の決定直後、スウェーデンクローナは一時的に対ユーロで上昇しているものの、直ぐにその上げを消しておりほぼ横ばいで引けました。為替市場の反応は所与の条件次第であり、この体験がそのまま使えるわけではないものの、「マイナス金利を解除しても通貨高にならなかった」という事実はECBや日銀にとって頼もしい話だと思います。マイナス金利解除にあたって最大のハードルとなるのは間違いなく通貨高になるからです。


しかし、通貨高になろうとなるまいと今回のリクスバンクが下した決断はやはり重要な示唆を与えたように思います。どのようなお題目を並び建てようと、所詮、マイナス金利は金融部門への課税です。課税された分はラグを伴いながらいつかは提供するサービス価格に転嫁されます。マイナス金利の先進地域である欧州では既に個人預金への課税が始まっており、日本でも類似の動きが散発し始めているのは既報の通りです。

報告書を読み進めて行くと、今回のリクスバンクの決断はそのような動きが拡がる前に対処したという面がありそうです。マイナス金利を続ける限り金融部門のコスト移転は広く、深く進んでいくしかありません。それを止めるには今回のリクスバンクのような決断しかないと思います。「マイナス金利と通貨安」、「通貨安と輸出増」という2つの事実に余程の因果関係が認められ、それが実体経済の生殺与奪を握るような経済構造ではない限り、マイナス金利を継続することの意味が問われる局面に入ってきているのは間違いないように思います。

欧州に見られる一連の動きは「マイナス金利を解除してしまうと緩和策がなくなるではないか」ではなく、「マイナス金利を解除すること自体が緩和策なのである」という発想に切り替える時期に来ていることを意味しているのではないでしょうか。マイナス金利発祥地域の欧州でそうした機運が高まりつつあることは2020年を迎えるにあたって非常に興味深い動きです。

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