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アップルのカスタマーサポートから、顧客経験設計のポイントを考える

筆者はApple製品を偏愛している。
ので、二年近く前にAirpods Proが発売された時、迷わずに購入した。

以来、この小さなイヤホンは肌身離せぬ友となり、退屈な車中の無聊を慰めてくれたのみならず、このリモート全盛の環境下では、もはやこれが無ければ仕事が成立しない必需品と相成っている。

そんな訳で、愛用するAirpods Proのケースを電車に落としてきたと気づいた時には、平静を失いかけた。

だが、すぐに落ち着いた。

なぜならば、アップルが誇る「探す」の機能を想起したからだ。
大丈夫、まだバッテリは残っているはず。であればMacBookのスクリーンに、その在処は燦然と示される。

あった!
・・・しかしその場所は、今いる自宅を示している?!
なんのことはない、AirPods Proを「探す」は、本体を探してくれはするが、ケースはその対象外の模様。

とあらば、二年の年月にわたり愛用したケースを見つけるのは至難の技になるだろう。諦めてさっさと購入した方が良さそうである。そこで筆者はAppleのサイトにアクセスした。

シリアル番号を入力したのち、画面には近隣の小売店のリストが現れた。
ケースの交換は来店が必要とのことで、Apple Store以外にも提携している店舗がたくさんある模様。

筆者はそのうち、近隣の提携店舗を選び、最速で予約できるスロットを確保した。

翌日、筆者がその店頭を訪れると、スタッフが出迎えてくれた。提携店とはいえ、店の作りもユニフォーム的な黒いTシャツも、アップルらしさを表現しているようだ。

だが、のっけからその店員氏、不穏なことを言う。

「ここはアップルストアではなく提携店なので、価格が割増となりますがよろしいでしょうか?」

・・・ううむ、そんなに安いものでもないし、それならアップルストアと提携店を同列に案内したりしないでほしかった。

が、必需品をすぐに取り戻したい思いは強く、筆者はそれを承諾する。
すると、店員氏はそれに追い討ちをかけた。

「本体もお預かりして、1週間後くらいに再来店いただき、お渡しする形になりますが、よろしいですか?」

それはよろしくない。毎日のリモートがこれなしでは不便極まる。

筆者は店頭を後にし、不本意ながら新品を買うか、それとも都心まで出向いてApple Storeを訪ねるか思案した。

のだが、無駄な出費もカレンダーをこじ開けるのも気が向かず、結局元の店に戻って1週間かけて対応してもらうことにした。

店員氏は「お帰りなさい」と迎えてくれ、手続きを再開し、早ければ2−3日で納品してもらえる旨説明してくれた。この対応により、筆者は色々あったが気分良く大事なイヤホンをこの店に預けた。

やや冗長にアップル提携店舗での経験を述べたが、この中には顧客経験の設計に重要なポイントがたくさん含まれているように思う。

(1)期待を超えた経験は、ロイヤリティの元となる

筆者は以前、Apple Pencilのペン先が折れてしまった時、Webサイト経由で交換を依頼したことがあった。確か3000円程度の金額を提示され、宅配を利用したパーツの配送が案内された。

しかし実際に起きたことは、宅配業者が持ってきてくれた新品と、筆者がそれまで使っていた先が折れたペンの交換だった。16000円の新品を3000円で提供してもらった経験は鮮烈であり、それまでも好きだったアップルについて、その修理サービスにまでロイヤリティの対象を広げた

(2)一貫性やフェアネスは、顧客経験設計の基本である

上記Apple pencilでの経験は、筆者の中で「アップルの修理サービスはこういうものだ」という期待値に、そしてアップルらしさの基準値の一つになった。

ので、今回、Air pods proのケースの件でも、正直同様の措置をしてくれるのではないか、という期待を持った。が、実際はその対応はApple pencilの時とは打って変わったもので、筆者はそのサービスレベルの違いに、少し失望した。

また、直営店と提携店で価格が違う、というのは、理屈の上ではわからぬこともないが、提供者側の都合が顧客に押し付けられているようでアンフェアに感じた。

こういうことは1度目なら何かアップルがおかしいなー、という感想で済むかもしれないが、2度3度続いたら、アップルは変わってしまった、と思うかもしれない。

(3)丁寧なコミュニケーションは、顧客経験設計の基本である

仮に直営店と提携店で価格が違うことを受け入れるとしても、店舗選定をする段階で告知してくれなければルール違反である。(あるいはサイトのどこかに書いてあったかもしれないが、筆者は気づかなかった)

また、日常的に使うものの修理が1週間かかる、という重要なことも事前に知らせて欲しいし、本当は2日でできるものの安全サイドをとって1週間と告知するのも、ここだけ低い方向に期待値をマネジメントしているようんで、何か釈然としない。

コンピュータやスマホのような複雑なもののサービス構築は非常に困難であることは理解した上で、ここを丁寧に説明してくれるだけでも、ずいぶん感覚が変わるのに、と勿体なく感じた

(4)対面での情緒的な接客は、ポジティブな顧客経験の元となる

それまで色々ネガティブな経験を重ねつつも、消去法的に仕方なく提携店に戻った筆者は、「お帰りなさい」などの言葉をかけられ、早ければ2−3日でできるなどの情報をもらったことにより、だいぶ気持ちが和らぎ、アップルのサポートに対して感じた懐疑は緩和した。

人による呼びかけや上記(3)の裏返しであるディテールを含むきめ細かなコミュニケーションは、顧客の満足に繋がりやすい。

接客の設計は、ポジティブな顧客経験を実現していく鍵であり、顧客がブランドから離れるきっかけにもなる。

筆者に対してのみならず、世界中のユーザーとの間に築き上げた、アップルならではのロイヤルティの元となる顧客経験がくすまないことを、1ユーザとして祈るのみである。


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