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文系・理系というバイアスがイノベーションを阻む

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

大学入試も佳境を迎え、今年も多くの受験生が将来を切り開くために頑張っていることと思います。最後まで悔いのないように実力を発揮できることを願っています。

進路と言えば、最近では様々な専門性をもった学部・学科が新設されています。私が客員教員を務める武蔵野大学では2021年春に「アントレプレナーシップ学部」を開設。次の時代を自らつくりだす起業家の育成に特化した学部として注目を集めています。

このような学部は、文系なのか理系なのか。ふと疑問が浮かびます。なぜならば、多くの高校では1年生のときに文系コースか理系コースかを選択する必要があるからです。そして、数Ⅲは理系コースでしか学ばないことが多く、大学入試の際に理系学部を志望する場合は数Ⅲを履修していないとエントリーすらできません。実務的には、かなり早い時点でどっちの方向に進むのかを自身で決定する必要があるわけです。

この問題について指摘している記事がこちらです。

ロボットにしろ人工知能(AI)にしろ、ゲノムにしろ、先端技術が私たちの生活に深く入り込むようになったのは21世紀に入ってからといえる。「学生時代の専攻が『文系』というだけで、その後、先端技術を学ぶ意欲をそがれた大人がたくさんいる。経営にも政治にも行政にも科学や技術は必須な時代なのに、文と理を分ける日本の教育環境がテクノロジー社会に大きな影を落としている」と高橋氏は力説する。至極もっともな主張である。

日本社会には長い間、時間をかけてすり込まれたバイアスのようなものがある。大学に入るのにあたり「数学や国語の好き嫌い、得手不得手」を尺度に選んだ「理系か文系か」。それが「理系は論理的で文系は情緒的」といった、その人の人間性をも支配する非科学的な慣習に化け、人生に染みついていくのもしかりだろう。

日経電子版

そもそも日本で文系・理系が分けられるようになったのは、大正時代の1918年。第二次高等学校令が発布された時とされています。理系教育に必要な実験器具が高額で、学生数を絞らざるを得なかったという背景があります。つまり、予算の都合という大人の事情が働いただけです。現在も工学や先端科学などでは高価な実験器具が必要になりますが、コンピューターサイエンスなどではPCとクラウドがあれば相当高度なことも学べますので比較的低予算でも可能です。前述の記事が指摘するように、予算の都合でできたシステムが意欲ある学生の未来に影を落としていることは大きな機会損失でしょう。

このような課題感からか、大学側も改革を始めています。東京大学では文理融合の新課程を27年秋入学から創出するとのことです。秋入学となっている時点で、海外からの留学生の受け入れを強く意識していることもわかります。

東京大学は2027年秋に文理融合型で5年間一貫の教育課程を新設する方針を決めた。世界水準の研究職の育成を目指し、授業は全て英語で行う。生物多様性や気候変動といった解決が難しい課題に向き合う人材を育てる。秋入学とし国内外から優秀な学生の獲得を目指す。

新学部に相当する新たな課程の名称は「カレッジ・オブ・デザイン」。5年間で修士まで修了できる欧米の有力大を参考に、学部4年間と大学院修士1年間を合わせた5年制とする。

入学定員は理科3類(医学部)と同規模の100人程度を想定し、半数は留学生とする方針。

日経電子版

このような新しい教育は今後の日本がイノベーションを創出する基盤となるでしょう。ビジネスの現場では国際的な競争の激化やデジタル技術により、業界自体の再定義が必要となっています。AとBとかけあわせて新しい価値を創造する「新結合」の重要性が増しています。

最近は国際的な競争の激化、デジタル技術の進歩などにより、様々な業界が破壊され、困難に陥っている。もはや現状維持だけで生き延びることはありえない。自らが能動的に変化して新しい価値を打ち出す、すなわちイノベーションが必要だ。

そこで重要なのが「知の探索」(Exploration)である。イノベーションの源泉は新しいアイデアを生み出すこと。新しいアイデアは「この世にある既存知と別の既存知の新しい組み合わせ」で生まれる。「既存の企画をまったく別の顧客と組み合わせる」「ある素材を一見無関係の製品と組み合わせてみる」など。実は経済学者ジョセフ・シュンペーターが「新結合」という名で90年ほど前から主張していることだ。

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既存のバイアスに囚われず、新たな視点で未来を描くことができる人材。そして、それを実装できる企業・組織が今後の主役となっていくことでしょう。


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タイトル画像提供:tadamichi / PIXTA(ピクスタ)


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