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コロナモラトリアムから脱する成長産業の着眼点

新型コロナワクチンの接種については賛否の両方があるものの、統計値でみると2021年6月の時点では、世界人口の20%が1回目の接種、9.4%が2回の完全接種を受けている。完全摂取率が40%を越してきた英国や米国では、外出規制を徐々に緩和してきており、これまで停滞してきた経済活動も再開の兆しが見えはじめている。

ワクチン接種が進んだからといって、コロナ前の生活がすぐに戻るわけではないが、経済の動向については、ワクチン普及後に変化していくことが予測され、コロナ禍よりも株価が下落するなど、ネガティブな予測もある。それは「コロナモラトリアム」と呼ばれる各種の支援、猶予措置が次第に解除されていくためである。

日本でも、前年比で売上が50%以上減少した月がある事業者に100~200万円が支給される「持続化給付金」には、2020年5月~2021年2月までの期間で441万件の申請があり、5.5兆円の給付が行われた。

また、日本政策金融公庫では、事業者向けに「新型コロナウイルス感染症特別貸付」として、個人事業主は最大8,000万円、中小企業には最大6億円までの特別融資を行っている。貸し付けの条件は、担保不要、融資3年目までは実質無利子、最長5年間は元本の返済も不要という、借り手にとって破格の好条件であり「ゼロゼロ融資」と呼ばれている。

しかも融資審査は、通常の融資と比べて緩く、申込件数に対する融資実行率は50~80%と高いため、具体的な用途は決まっていなくても「とりあえず借りておこう」をする経営者は多く、余剰資金の一部は株式市場にも流れている。

この融資制度は、2021年6月までの時限的な措置として、4月末までに130万件、総額で約20兆円の融資が実行されたが、その後も申し込みが殺到しているため、商工中金と民間金融機関にまで窓口を広げた上で、申し込み期限を2021年末にまで延長している。

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新型コロナウイルス感染症特別貸付

コロナ後の会社経営が厳しくなるようなら、今のうちにゼロゼロ融資を利用して、当面の資金繰りに備えるのも手ではある。しかし「借りた金」はいずれ返済しなくてはならず、返済猶予のモラトリアム期間が終了する3~5年後には、株価の下落や倒産企業も増えていくことが予測される。

調達した資金を有効に活用するには、ポストコロナ(コロナ後)の時代に移行する中で、ソフトランディングができる出口戦略に備えたビジネスへと変革していく必要がある。コロナ禍では、様々な取り組みが考案されたが、その中には、暫定的なサービスとして消滅していくものと、コロナ収束後も成長していく分野に分かれる。

その方向性を探るには、政府が今後の重点項目として投資を進める分野を把握するのがわかりやすく、既存のITシステムから新DXシステムへの再構築市場が最も有望分野となっている。

【ポストコロナ時代の成長産業】

 日本政府は、2020~2021年にかけて新型コロナの感染対策と経済対策で113兆円もの資金を投じており、これはリーマンショックの経済対策と比較しても約2倍の規模になる。113兆円のうち、40兆円は全国民に10万円が給付された「特別定額給付金」や、事業者向けの「持続化給付金」などに使われ、残りの73兆円は、政府が公共投資を推進することで、民間企業の景気を活性化させるための事業費として使われる。

73兆円の主な内訳は、(1)コロナ感染防止策として6兆円、(2)ポストコロナに向けた経済構造の転換に51兆円、(3)防災・減災、国土強靭化の推進(土木、建設工事など)に6兆円となっており、(2)のポストコロナ社会を見据えた経済構造の変革に7割の資金が投じられる計画だ。具体的には、デジタル化と環境社会への適応(グリーン化)を促すテクノロジー改革が、コロナ後の経済を復興させる重点項目に掲げられている。そのため民間企業や起業家にとっても、このトレンドに沿った事業転換や新規事業を立ち上げることが、コロナ後の業績を伸ばすための急所になる。

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新型コロナウイルス感染症緊急経済対策(内閣府)

【老朽化ITシステムの再構築市場】

一方、企業がデジタル技術を活用した事業変革(デジタルトランスフォーメーション:DX)については、情報機器、ソフトウエア、クラウドシステムの導入にかかる費用に対して税額控除の特例や、短期間での特別償却を認める形で、民間のDX投資を加速させる仕組み(DX投資促進税制)が、2021年4月から2023年3月末までの期限で創設されている。税制優遇は、売上高比で0.1%以上、300億円未満のDX投資が対象となるため、大企業ほどメリットが大きい。

DX税制が適用される条件となるのは、クラウド技術の活用やグループ会社とのデータ共有(D要件)により、生産性の向上が見込める具体的なプランを示すことで(X要件)、事業計画を関係省庁に提出して「DX認定」を受けた後に、プロジェクトを実行する流れとなっている。そのため、大手コンサルティング会社では、事業計画の作成→DX認定の取得→プロジェクト実行までを支援するサービスも立ち上げている。

令和3年度経済産業関係の税制改正

政府が、民間企業のDX投資を促す背景には、社内でブラックボックス化されたシステムを使い続けることで、古いソフトウエアのサポート終了やIT人材の退職によって機能を進化させていくことが難しくなり、2025年以降は日本全体で年間12兆円ずつの経済損失が生じる懸念があるためで、これは「2025年の崖」と呼ばれている。この問題は2018年頃から指摘されてきたことだが、政府はコロナ禍を転機として既存ITシステムからの脱却(DX化)を、一気に進めようとしている。

《2025年の崖問題とは》

●既存の社内ITシステムは横断的なデータ共有ができなかったり、過度のカスタマイズがされて複雑化、ブラックボックス化されている。

●社内でシステム保守、運用の担い手が不足して、サイバーセキュリティ、システムトラブル、データ滅失のリスクが高まっている。

●基幹系システムは21年以上経過したものが6割を超している。サポートが終了するソフトウエアも増えて、システム全体の見直しが必要な時期に差し掛かっている。→(5G実用化に対応できない)

●古いプログラミング言語を使える技術者が定年で大量退職を迎える。2025年までにIT人材の不足は43万人に拡大する。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」問題(経済産業省)

日本の大企業は、1990年代後半からIT化を進めてきたが、その頃に構築されたシステムは20年を越してきており、当時の現役だったエンジニアも退職の時期を迎えている。一方で、最近は5G、AI、ブロックチェーン、AR・VRなどテクノロジーの進化は著しく、エンジニアを雇い、社内でシステムを構築する方法では対応することが難しく、内製化できるレベルの限界点を超してきている。

これからは、自社でシステムを所有するのではなく、クラウド系サービスを効果的に活用することで、必要な機能を柔軟に取り入れていく仕組みを構築していくことが、政府が推奨する「DX投資」の方向性であり、コロナモラトリアムから脱する成長産業の筆頭に挙げられている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD04CNU0U1A600C2000000/

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