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「安い人件費の追いかけっこ戦略」にどこまで依存するのか?できるのか?

「安い人件費の追いかけっこをいつまで続ける気なんだろうな」

小見出しの言葉は、10年以上前、インドネシアの日系現地法人の調査をしているときに某大手製造業の現地法人社長が話した言葉だ。2010年代、多くの日本企業がインドネシアに生産拠点を新設していた。タイと中国の人件費の高騰と、中韓の反日感情によるカントリーリスクから、生産拠点の脱東アジアが進んだ。そのとき、古くからの親日国家であり、2億人以上の人口を持ち、人口ボーナスによる経済成長が始まったばかりのインドネシアは次の候補として注目を集めていた。

そして今、インドネシアの人件費も上がり、東南アジアでの製造もコストパフォーマンスが良いとは必ずしも言い難くなってきた。加えて、タイ、フィリピン、インドネシアと現地企業の競争力も上がっている。東南アジアの国々にキャッチアップされて、日本企業の優位性が相対的に下がっている。

ベトナムが1つの分水嶺

ASEANの中でも、比較的、賃金上昇と経済の変化が緩やかなのがベトナムだ。技能実習生や特定技能での来日者数も国別で最も多く、現在は日本と密な関係が続いている。

日本企業も製造業だけではなく、多くのIT企業がオフショア開発の拠点を立ち上げている。日本と地理的にも近く、アジア的なノリが通じて文化的な差異も比較的小さい。低廉な人件費もあって、製造や開発の拠点として投資が集まっている。
そのようなベトナムでも経済成長に合わせて賃金上昇が続く。最低賃金も一部で最大21%が引き上げられるという。

今や日本以上の起業推進国家となったインドネシアとは異なり、ベトナムは地元企業もまだそこまで強くはない。ユニコーン企業の数も、2021年に2社(Skya Mavis、MoMo)がリスト入りしたのみだ。なお、日本のユニコーン企業は7社で、インドネシアと同数だ。

しかし、このままベトナムの経済成長が続くと、低廉な人件費から製造コストを抑えることができるという日本企業の進出理由がなくなってしまう。その分、成長した経済を期待して今度は市場として進出する手もあるが、そうすると現地企業も実力をつけ、尚且つ世界中の競合他社を生き馬の目を抜く競争を勝ち抜かなくてはならない。
イオンやユニクロのように、現時点でブランドをある程度構築できている企業ならいざ知らず、経済成長を待ってから進出するようなスピード感だと苦戦するだろう。それは、マレーシア、タイ、インドネシアで既に通った道だ。

ベトナムの賃金が上がったとき、それよりも低廉な人件費を期待するとスリランカ、ミャンマー、ラオス、パキスタン、バングラデシュになる。南インドは既に北米・欧州・中国企業が相当数進出しており、ミャンマーとラオスは人口が他のASEAN諸国と比べて少ない。ミャンマーで約5千万人、ラオスで約600万人だ。加えて、ミャンマーにはカントリーリスクがある。

もちろん、製造業をはじめとして商品を生産するときのコスト管理は重要な経営課題だ。しかし、低廉な人件費を期待した海外事業も終わりが見え始めている。加えて、給与格差を活用した外国人労働者による労働力の確保も同様だ。

製造と労働力確保、どちらにおいてもASEANとの関係性を見直す時期と言えるだろう。


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