女性比率目標:大幅下達を繰り返さないために
政府は、「女性版骨太の方針」に東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする努力目標を盛り込んだ。
30%という閾値(いきち)には、3割を超えると「少数派」もあからさまな少数派ではなくなり、その声がぐっと届きやすくなるという根拠がある。しかし、女性活躍に関する目標としてコミットするためには、2003年に設定されたゴール「女性管理職を2020年までに30%」の実効性を振り返る必要がある。実は、2003年当時の目標は、2020年に達成は程遠い結果となり、目標は先送りになった苦い過去があるためだ。
今回の女性役員比率目標は、現実的なのか?
20年以内に管理職や役員になる女性のほとんどは、既に社会で働いている。従って、現状の彼女たちのパイプラインを見ることで、目標の達成可否をある程度占うことができる。単純化のため、管理職や役員になる準備のある女性の割合は、年齢に従って直線で右下がりになるとする。実際はL字カーブだが、年齢が上がるに従い一定数ずつパイプラインから離れてしまうという想定である。
まず、左の図Aを見てみよう。2003年時点のパイプラインである。2020年に管理職となれる女性はまだキャリアの入り口。この時点で女性割合は40%を超すため、2020年管理職30%という目標はあながち不合理とは思えない。女性が働き続けやすい環境を整え、2020年には、右下がり直線グラフの勾配がぐっと緩和されているものと予想されたのである。
ただし、現実はそうはならなかった。2020年での女性管理職比率実績は13%、2003年の10%に比べてわずか3ポイントしか上がらなかった。なぜか?結局、女性が男性と同様のスピードで管理職につけるような環境が整っていないことに尽きる。子どもを持つ場合、女性への子育てのしわ寄せが大きく、また職場でのバイアスから昇進が遅れてしまう。優秀な女性であっても、能力が生かされずに辞職に至るケースが散見された。昨今だいぶ意識が改善されたものの、まだ道半ばである。
では、今回の女性役員比率目標は現実的だろうか?右の図Bを見てみよう。2023年今日のパイプラインである。残念ながら、20年を経てパイプラインはあまり図Aと変わりがない。ただし、今回は役員比率が課題のため、対象となる女性は既にシニアポジション-7年の間に大きな離脱がなければ、最大20%くらいは役員対象となることがわかる。しかし目標は2030年に30%なので、2003年のケース(図A)と比べ、目標値は直線グラフの上方、すなわちさらに野心的と言わざるを得ない。
今日時点で既に40代後半の働く女性パイプラインを急に増やすことは不可能だ。従い、今回の目標が意味するところは、今いる女性管理職をなるべく多く役員に登用しつつ、さらに社外役員として女性を多く迎えるということだ。条件を満たす女性によっては、社外役員の掛け持ちが今以上に増えるだろう。プライム上場企業1,834社が対象のため、大企業の経営知識を持って役員と成り得る女性役員候補のプールは限られ、争奪戦が激しくなることが予想される。
プライム上場という日本を代表する企業が女性役員比率を高めることにより、全体の意識を変える意図は理解できる。ただし、罰則のない努力目標のため、実効性がどこまであるか?また、そもそも候補のプールが小さいという問題をどう回避するか?大幅な目標下達という轍(てつ)を踏まないため、個々の企業と政府には大胆なかじ取りが求められている。