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「一生(引退せずに)働きたい」という選択肢

2008年の春、経営していた会社を株式会社リクルートに売却しました。本当にジェットコースターのようだった初めての起業で、すべてのことが勉強の連続でした。成功も、失敗も、本当にいろいろたくさん経験できました。

起業そのものについてはまた日をあらためて書いてみたいと思いますが、今回は、会社を「売却した後」に何を考え、何に気付いたのかを振り返ってみたいと思います。


今から思えば、起業する前も、起業した後も、大変な日しかありませんでした。毎日が知らない世界との出会い、予期せぬトラブル、そして自分自身が試されていると感じる瞬間の連続。

これらの経験は、今でもとても大切な糧となっています。しかしその渦中にいるときは、遠い未来のことを考える余裕などありませんでしたが。

そしてこれも予期できていなかったのですが、起業〜事業成長のすべてのプロセスの中で、実は最後の「売却」に関わる部分が最高かつ最大にタフな山場だったのです。


企業売却交渉という特殊な状況において、会社の「内」と「外」、相反する方向性やいろいろな人の思惑、それらすべてを(なんとか)マネジメントするのは代表者の仕事に他なりません。一つの決断が、関係する人のこの先の人生を大きく変えてしまう可能性が高いのです。

交渉や調整の中で、少しでも失敗するとすべてがダメになってしまうかもしれません。まさに綱渡りです。「右」を選ぶべきか「左」を選ぶべきか、決断するのに十分な情報も自信もない。それでも、やはり自分が決断しなければならない状況です。


本当にもう逃げ出したいくらいの局面もあったのですが、途中で逃げ出すことはできません。売却交渉を中途半端に失敗させることは、最悪の結末を迎えることになるからです。みんなが不幸になってしまう。

精神的にもだんだんキツくなってきて、ああ、これはもう厳しいか... と思った瞬間、奇跡的にいろいろなことがうまく回り、最終的に交渉は無事に着地しました。どこかで一歩でも道を踏み外していたら破談していたかもしれない、本当に、そんな薄氷を踏む思いの交渉過程でした。


交渉の最中には、「もし一段落ついたら、本当にしばらく休もう」と考えていました。起業準備の段階からずっとずっと走り続け、そして最後にかなりのピークが来て、体にも精神にもかなりの披露が蓄積している感覚でした。

そして売却が完了し、ロックアップ期間での業務引き継ぎも完了した後、ようやく、誰にも何にも縛られない「自由な日」が来ました。(自分で起業しておいて、自分で望んで忙しくしておいて、それなのにまた「自由」を求めるのもおかしなものですが)

しばらく、気の向くまで休もうと思いました。本を読んで、たまに旅行にも行って...  売却交渉中から「終わったらこうしよう」と思い描いていた、平和で平穏な日々が目の前にあります。最低でも、1年〜2年くらいはゆっくりしようと思っていました。

しかし、です。


2週間くらい経過したとき、「これはなにか違うぞ??」と感じたのです。確かに、気楽で幸せな気もするのですが、なんとなく何かが物足りない。というか、まったく、ぜんぜん物足りないのです。

しばらく自問自答した結果、ひとつの原因が思い当たりました。それは、自分が「何も価値を生み出していない」状況だということに気づいたのです。


確かに、生活をするにあたりいくばくかの消費は続けています。それが社会との関わりです。しかし、それは過去の価値創造によって得たお金であり、この瞬間、自分が何か世の中に新しい価値を生み出しているわけではありません。

何かを買うと、そのお店の人には感謝されるかもしれませんが、社会の多くの人から「新しい価値をありがとう」と感謝されることはないのです。

そのとき、理解できました。起業し、仕事をし、一番自分にとって良かったのは、新しい価値を生み、それが世の中に影響を与えていると感じられることだったのです。


それに気付いた瞬間、その「セミリタイア」期間は2週間で終了させ、すぐに次の会社を登記しました。そして、自分にはどんな価値を生み出せるのか、それを考え続けることを再開したのです。あらためて、ものすごく楽しいと感じられました。

それから時を経て... 今に至ります。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB016JJ0R01C23A2000000/


あの経験があってから、自分は、たぶん何歳になっても「引退」はしないだろうと思うようになりました。悠々自適な生活、それもいいのだとは思うのですが、自分にとっては、やはり物足りないと感じられると思うのです。

動ける限りは、たとえ少しでも、何かしらの価値を生み出していたい。


健康状態によっては、何も生み出せなくなるかもしれません。そのときはあきらめるとしても、動ける限りは、やはりできる限りやってみたい。そのように考えています。


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