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ブライダル業界の凋落とマイクロウェディングの新潮流

 日本では年間およそ60万組のカップルが結婚する。年間100万組の婚姻数があった1970代と比較すると、結婚の価値観は大きく変化しているが、2020年以降は新型コロナの影響により、さらに婚姻数は落ち込んでいる。厚生労働省が発表する人口動態統計(速報値)によると、2020年11月末で集計した過去1年間の婚姻数は、前年比で10%近く減少した。さらに2021年は、出生数も前年比マイナス7.5%に落ち込むことも予測されている。

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コロナ禍におけるブライダル市場の落ち込みは、統計値以上に深刻で、結婚カップルの中でも、結婚式を中止したり、招待客を最小限に抑えて開催するケースが相次いでいる。

結婚式が今後も無くなることはないだろうが、派手なセレモニーや無駄な習慣は省いた、簡素化された儀式へと変化していくことが予測されている。統計値では、日本の結婚式は平均360万円となっているが、その中では飲食接待費や返礼品の費用が多く含まれている。海外でも、コロナを転機として結婚を簡素化する動きは高まっており、従来の無駄を省いて新スタイルの結婚式を行うカップルが増えている。

【マイクロウェディングの新トレンド】

 米国でも、コロナ禍以降は結婚式を盛大に行う習慣は自粛されており、新たな結婚式の形態が模索されている。米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインによると、家族、身内、友人などが集まる小規模のイベントに人数制限は設定されていないが、長距離移動を伴う参加は避けること、イベントの開催時間はできるだけ短く、参加中はマスクを着用すること、換気の悪い屋内での開催は避ける、などの注意点が指摘されている。

《米国イベント開催のガイドライン(CDC)》
○長距離の移動が伴う参加は、できるだけ避ける。
○イベント開催中はマスクを着用、1.8m以上の距離を保つ。
○ビデオ配信などオンライン参加できる方法を用意する。
○ビュッフェ、サラダバーなどセルフサービスの飲食は避ける。
○食器は使い捨ての容器を使用する。
○大声で叫んだり、歌ったりしない。
○トイレを同時に利用する人数を制限する。
○屋内よりも屋外でのイベント開催を推奨。

Small gathering guidance(CDC)

これらの条件をすべて遵守すれば、従来の結婚式を行うことは難しく、米国では規模を縮小した「Micro wedding(マイクロウェディング)」の形態が人気化してきている。マイクロウェディングの特徴は、リアルな会場参加者を家族や一部の親友に限定して、他の親戚や同僚などはオンラインで参加する方式である。予算は1,000ドルから10,000ドル(10数万~100万円以内)に抑えられるのが理想だ。

少人数で行うマイクロウェディングは、米国にコロナ前からあるトレンドだが、コロナ後は、結婚式の新たなスタンダードとして注目されている。会場に適しているのは、都市部から離れた郊外にあるアウトドア施設や農場などで、自然豊かな屋外スペースに「結婚式場」としての新たな需要が生まれている。

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具体例として、テネシー州で人口およそ6000人の田舎町、ジョーンズボローにある「StorybrookFarm」は、農場を改装したセレモニー施設で、参加人数が2~24人までに限定された結婚式を行っている。結婚式のプランには、大きく2つのコースが用意されている。

1つは、カップル二人だけで行う「Elopement(駆け落ち)パッケージ」で、結婚式のプラン作成、農場内にあるセレモニースペース(屋外)の利用、装花、ウェディングケーキなどが用意されて、基本料金は795ドル(約8.5万円)の設定だ。 それに司式者の手配(75ドル)、2人だけのレセプションディナー(200ドル)など、オプションサービスを追加することもできる。

2つ目は、カップルを含めて16名までの参加者を対象とした「マイクロウェディングパッケージ」で、基本サービスは、駆け落ちパッケージと同じ内容にパーティ用の料理が加えられて3,995ドル(約43万円)の設定。参加者は最大24名まで追加することができるが、1名あたり50~75ドルが加算される。

StorybrookFarmの農場内には、母屋を改装した宿泊施設があり、カップルと参加者は1泊150ドル~の料金で宿泊することもできる。周囲にはバラ園や果樹園、キャンプファイヤーを楽しめるスペースもあるため、結婚式を兼ねたアウトドア体験を楽しみ、日頃の疲れを癒やすこともできる。

StorybrookFarm

この他にも、米国の郊外では、農場や納屋を結婚式場に改装した施設が「Barn & Farm Wedding」と呼ばれて、マイクロウェディングの会場として開発されるようになっている。いずれも、料金は1,000~5,000ドル前後に設定されており、飲物や料理の持ち込みが自由というケースもある。これらの施設は、郊外で衰退する農場の再生ビジネスとしても注目されており、自然の中で行われる新スタイルの結婚式の様子がSNSに投稿される形で、都市部のカップルからも人気に火が付き始めている。

米国でマイクロ結婚式が広がり始めている要因には、結婚式のオンライン配信ができるネット環境が普及してきたことも関係している。結婚式は招待客が増えるほど派手な演出をして、費用も高額になる傾向があるが、オンライン配信を併用すれば、リアル参加者の数を減らして、結婚式の総費用を抑えることができる。

これまで行われてきた結婚式の形態が、コロナを転機として変わり始めていることの一因には、家計収入の落ち込みによって、親が結婚式の費用を出せなくなってきたことも関係している。米国の調査でも、結婚費用の4~6割は親が負担してきたが、これから「親に頼らない婚姻カップル」が増えてくると、招待客の数は減らしても、二人にとって想い出に残る、手作り感のある結婚式の形態が人気となることが予測されている。

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