見出し画像

クレディ・スイスAT1債全損決定と債権者の声

FINMAスイス金融市場監督機構によるAT1債の価値ゼロの決定は、同債券の条項に従ったものだ、というのは理解できる。確かに、13本それぞれの目論見書にはCET1トリガー条項として、「<7.0%(か、5.125%) or Viability Event(存続にかかわるイベント)」と書かれており、存続にかかわるイベントだと政府当局が認定をした以上は、この条項に抵触したに違いないのだから。


記事指摘の「スイスでは株式が全損する前にAT1債が株式に転換されるか全額毀損する設計になっている」という点が正しいとすると、減損リスクというよりゼロにできる、と書かれているか、あるいは減損リスクはイコールゼロと解釈ができる、ということになる。

会社が破綻するとき、会社法502条で言えば、債権を返済、それでも財産が残っていれば株にも残余財産を分配することが決まっている。これは株式会社の仕組みとして世界共通。保護の度合いは、株より債権が大きいのも共通認識。原則ではAT1保有者は株主より優先されるべきところ、商品の性質上ゼロがある、ということを鑑み、形式的には反しない、という判断になる。もっとも、先の会社法も破綻の場合であり、今回のように破綻を回避するケースは当局の判断により特定の利害関係者に負担を求めることが可能、という整理。

しかし、やはり債権者の権利が株主より先に影響を受けるというのは受け入れがたい。アジアの富裕層だけが影響を受けるから仕方がない、という理屈は全く成り立たない。暗黙裡のルールを破って、たとえ小さな市場でも崩壊させてしまえば、相応のしっぺ返しがあるはずだ。普通株よりリスクが高いAT1市場への投資家はもはや皆無であろう。そもそも、これからの銀行の資本性はどうあるべきなのか、様々な種類の資本で構成されるべきとの発想はどうなるのか、AT1債を含めたシニア債までの適正価格とは。得てして債権者の権利は従来からも軽んじられてきた気がしてならないが、これを契機に、複雑化した金融当局の資本性の考え方も整理する必要があるのではないか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?