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実体経済と結びつく暗号通貨の上昇トレンド

 2023年10月以降の暗号通貨市場は30%以上の上昇をしている。買われている直接的な要因は、投資銀行が米証券取引委員会(SEC)に対してビットコインとイーサリアムの上場投資信託(ETF)を承認申請する動きが加速して、金融市場での取引が活発になることが期待されていることだ。

これまでの暗号資産取引は、暗号資産専門の取引所にアカウントを開設するか、電子ウォレットでの授受をするため、セキュリティや税制の面で問題があり、大口の機関投資家は投資対象にはなっていなかった。しかし、暗号通貨取引がETF化されると、それらの問題がクリアーになるため、国債や株式市場の暴落に備えた、代替投資先としての資金流入が期待されている。

世界の株式時価総額が約98兆ドルに対して、暗号資産全体の時価総額は今のところ1.5兆ドル(1.5%)という規模に過ぎない。従来の代替投資先である金(ゴールド)の時価総額が約10兆ドルであるため、金よりも売買がしやすい暗号通貨が買われていくという予想にも説得力はある。

もう一つ、暗号通貨が買われる要因として、実体経済との結び付きが強くなってきたことも大きい。特に自国経済に不安のある新興国では、暗号通貨の普及率が高まっている。各国の政府や金融機関に対してブロックチェーンのプラットフォームを提供する Chainaliesでは、取引所での売買、個人間の送金額、DeFi(分散型金融サービスなど、暗号資産全体の取引動向を国別にリサーチしているが、その結果では、人口に対する暗号通貨の普及率が高い上位国は、インド、ナイジェリア、ベトナム、米国、ウクライナの順となっている。

The 2023 Global Crypto Adoption Index(Chainalies)

暗号通貨の需要には、大きく3つの用途が拡大している。1つは、富裕層が保有する総資産に対して1~5%程度の暗号通貨をポートフォリオに組み込むようになってきたこと。2つ目は、米ドル相場と連動するように設計された裏付け資産のある「ステーブルコイン」が、銀行ネットワークを回避した決済として広がっていること。3つ目は、これまで新興国で貧しかった人達の中で、暗号資産を新たな収入源にするためのプロジェクトが草の根的に広がっていることだ。

日本の中だけに居れば、暗号通貨の必要性を感じることは無いが、政治や銀行の信頼性にも不安がある国では、自国通貨の一部を暗号通貨に換えておくことがリスク対策と考える人達が増えており、それが暗号通貨の需要拡大→相場上昇へと繋がっている。

【戦時下で利用されるステーブルコイン】

 ドル、円、ユーロなどの法定通貨は、自国での商取引や決済に使うことを目的としているため、国外への持ち出しには厳しい規制がかけられており、送金手数料も高い。

そこで、従来の銀行システムを回避したデジタル通貨として活用されはじめているのが担保付きの仮想通貨で「ステーブルコイン」と呼ばれている。ステーブルコインには、ドル、ユーロ、金などを担保としたものがあるが、国際取引の主流となっているのは、米ドルの価値と連動した「USDコイン」「Tether(テザー)」「テラUSD」などで、1通貨=1ドルの価値で安定するように設計されている。

ステープルコインは、犯罪や脱税で得た資金をマネーロンダリングするための手段として使われやすいため、各国政府が規制を強化しようとする一方で、国際紛争下の決済手段として需要が高まっている実態もある。

ロシア・ウクライナ戦争では、ロシアが国際間の銀行ネットワーク(SWIFT)から外されたことから、ロシアと取引をする海外企業との間で、ステープルコインによる決済量が急増したことが、Chainaliesの調査で報告されている。

一方、ウクライナに対しては世界から人道支援の寄付金が集まったが、その送金ルートとしてもステープルコインが利用されている。国連の難民支援機関(USDC)では、ウクライナで家を失った人達に、新たな住居の家賃や生活に必要な資金を送金する手段としてUSDコインを試験的に導入した。これは、避難者に対して迅速に資金を送るには、銀行口座への送金よりも、モバイル送金ができる暗号通貨のほうが利便性が高く、現金の紛失や盗難リスクを下げることができ、国境を越えた移動もしやすいという判断によるものだ。

送金希望者は、「Vibrant」というウォレットアプリをスマートフォンにダウンロードしておく必要があるが、USDCは受給者としての適格審査を行った後、ウォレットアプリにUSDコインの直接送金を行う。受け取ったUSDコインは、世界で35万ヶ所以上ある「MoneyGram(マネーグラム)」の取扱店で、1コイン=1ドルの価値で換金することができる。

MoneyGramは、200以上の国で国際送金のネットワークを築いている米国本社の会社で、現地に銀行口座を持っていない居住者や旅行者でも、取扱店となっているコンビニ、スーパー、レストラン、郵便局などで送金された資金を受け取ることができる。2022年からは、暗号通貨取引所との提携により、暗号通貨の売買にも対応している。この仕組みにより、ウォレットアプリに送金された暗号通貨を現金(法定通貨)に換えることを可能にしている。

※スターバックスに併設されたMoneyGram

【ステーブルコインによる資産保全】

自国通貨の価値が下がっている新興国では、銀行預金をしても資産が目減りする一方なため、ドル建てステーブルコインによる貯蓄の方法が推奨されている。パキスタンでは、自国通貨(パキスタンルピー)の価値が下がっており、直近の1年間で1ドル=178ルピーから320ルピーまで急落した。しかし、国民が自国通貨以外の外貨(ドル)を保有することには規制があるため、暗号通貨による貯蓄が資産保全の最善手となっている。

パキスタン国内では銀行口座から現金(ルピー)を引き出し、非公式のP2P市場でステーブルコインの「テザー(USDT)」に交換することが流行っている。国外に出稼ぎをしているフリーランスも、家族への送金にはテザーを使うことが推奨されている。法定通貨から暗号通貨への移行を裏付けるデータとして、電子ウォレットのダウンロード数が急増しており、パキスタンの人口が2億3000万人いる中で、電子ウォレットのアカウント数は1億7000件と報告されている。

暗号通貨への移行により、パキスタン政府は実体経済の動向が掴みにくくなるが、民間企業が開発したウォレットアプリに国民ID番号を付与することで、政府が認証する決済インフラとして普及させようとしている。

EasyPaisa」は、パキスタンで開発された電子ウォレットの1つで、ルピーから各種の暗号通貨に両替をして、国内業者への決済や、家族への送金をすることができる。ハイパーインフレへの対策として、複数の通貨を使い分けられる電子ウォレットは、店舗経営などの事業者と消費者の両方にとっての重要ツールになっている。

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